第5話 知らない世界4

「おい……肉はもっと取れねぇのかよ!!」


緑色の肌をした小人の一人が苛立ちを他の小人にぶつける。


「そうだそうだ!木ノ実は、もうウンザリなんだよ!!」

「それに木ノ実ではあんまし腹の足しにもならない」

「俺はそんな事より、木ノ実はもう飽きちまった」


苛立ちをぶつけた小人に同調して他の小人達も文句を言いながら便乗する姿に、言われた側も流石に我慢の限界を感じる。


「仕方ないだろ、オウガ共が我々を喰らわないない代わりに大量の肉を要求しているんだ!!!」

「あの忌々しオウガ共め……」

「人間共は一体何をしているんだ!肉を取りに行っただけの我々の戦士達を数多く殺して置きながら、オウガ供は放置ときたもんだ」


文句をつける対象を同族からオウガ、人間にコロコロと変えては収まらない苛立ちをぶつけ続けた。


「人間には冒険者とかいうモンスター退治の専門家はいると聞くわな」

「なら、そいつらは何をしている!我々よりオウガの方が人間にとってより危険だろ!」

「バカか貴様は!我々とて、人間の敵と思われていることを忘れるな」

「そもそもオウガが要求する肉の量が多過ぎるんだよ」

「このままでは人間の縄張りにもっと近いところで肉を取るしかない」

「そんな事をして見ろ!人間に殺されるぞ!」

「いや、普通の人間は怖くない。我々の戦士達なら十分に勝てる」

「その通りだ。しかし、人間を殺せば冒険者とかいうやつらに狙われてしまう」

「確かに……オウガだけじゃなく、人間にまで狙われてしまうと我々は滅ぶぞ」

「その前にオウガ共の腹に収まってしまうわ!!」

「ではどうしろーと言うのだ!!この役立たずの穀潰しが!!」

「なんだと?!貴様!」


 草原の木々の合間にあるこの小さな村の広場に集まっていた二十人程の小人達は最早、手当たり次第苛立ちをぶつけるようになってしまった。それを目を瞑って聞いていた年老いた小人が深いため息とともに口を開ける。


「皆の者、静かにせんか!」


 殺し合いでも始めそうな勢いだった小人達も老人の言葉に我に返って、辺りは静まり返る。


「皆の心配もよくわかる。今は少しでも生き延びて策を講じてみるとしよう」


 小人達は何か言いたげな表情だったが、自分達もこれといった代案を持っていなかったため、口を開ける者はいなかった


「肉の調達が遅れると何をされるかわからない。今は肉を取るのが先じゃ」


 その言葉に暗い顔で頷き、急いで肉を取る係である小人五人と六匹のハウンドドッグは村を出る。年老いた小人はその後ろ姿を見ながら心の中で収穫を祈るしかなかった。

 草原を駆け抜ける緑色の小人が五人と狩猟犬として重宝しているハウンドドッグという犬型犬のモンスターが六匹。五人の小人の腰には短剣が、背中には弓と矢筒を背負っている。


「どうする?この辺は狩り尽くして獲物がほとんどない」


 一人の小人が周りの意見を求める。


「そうだな。近づくのは危険かもしれないが、死の壁の近くに行ってみよう」


 一人の小人が周りに提案する。


「確かにそこにはあまり行ったことがないな」

「獲物はいるかも知れないが、かなりの危険を伴うことになる」

「言い伝えでは、壁の中に入らなければ大丈夫らしい」

「背に腹はかえられん。今日はそこで獲物を狩るとしよう」


 提案した小人以外が話し合い結論が出た事で、今までより走るスピードを上げて死の壁に向かう。

 


  ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



 ルシウスとベルゴは草原を目的地もなく、相も変わらずただ只管歩いていた。


(大自然も最初はいいけど、すぐ飽きちまうな)


 ルシウスの腰辺りまで来る程背の高い草が、体を地味ーーにくすぐってくるのもいい加減鬱陶しくて仕方がない。最初の意気込んだ決意のテンションもだだ下がりで、警戒していた割には敵の"て"の字も見えなかった。ベルゴの方はルシウスが話しかけない限り、一言も喋らず黙々と付いてくるだけ。静か過ぎる旅である。


(アニメとかでは1話辺りで仲間となるヒロインと出会ってデフォルトのようにハレム状態でくっだらないことを話しながら旅していたんだがな……それに比べ、なぜ俺は一言も喋らないむさ苦しい骸骨と旅をしている……考えて見れば、俺……………………………骸骨じゃん???そもそも仲間になってくれるヒロインは存在するぅん?)


 現実と非現実の差。そして現実から考慮した未来予想図には、丸で光が見えない。真っ暗だ。


(あれっ?そういや…ベルゴの性別はなんだ?行動からしてやっぱ男か?アニメのパターンからして女か?待て待て俺!ベルゴが女だとしても、流石に骸骨には燃え盛ることは出来ないわ)


 そんな身もふたもないバカな事を考えていると、珍しくベルゴが話しかけてきた。

 

「主人様。何かがこちらの方に向かって来ております」


 ベルゴの視線の先を見ると、確かに遠くから何かがこちらに向かって来ている。


(何だ??遠すぎてよく見えないけど動いているのが結構いるな)


 敵と仮定して数は多数。こちらはスケレトンが二体。ベルゴは骨で出来た剣や盾でも持っているが、自分は丸腰だ。今はまだ少数ならともかく大勢の未知なる存在と接触するわけにはいかない。


「ベルゴよ!体勢を低くしろ!匍匐ほふく前進の姿勢だ」


 ルシウスは素早く、目にも留まらぬ速さで匍匐前進の体勢を取る。丁度周囲には背の高い草畑が広がっていて、身を隠すにはもってこいの場所なのだ。

 

ベルゴは匍匐前進の意味がわからないようだったが、主人の行動を真似ることにしたみたいだ。地べたでなるべく気配を消し、何事もなく未知なる存在が通り過ぎるのを待つ。

 しばらくして、草が邪魔で見えないが幾つもの足音が段々と近づいてくるのを感じる。そしてルシウス達からそう離れてない場所で足音が途絶える。


「#####」

「###############」

「###########」


 未知なる存在同士が会話をしているみたいだが、何にを言っているのか言葉が全く理解できない。


(マジか、字だけじゃなくて言葉も通じないのかよ!詰んだなこりゃ。俺の人生糞ゲー過ぎて涙が出てきそうだよ……目ん玉ないけどさ)


だが、よく聞くと声というより奇声に近い。前世でも奇声っぽい言葉を話す国もいたっちゃいたけどこれ程ではない。気になる姿を直接見てみたいが、いざ戦闘になりかねない状況に遭遇すると、殺されてしまう可能性に怖くなってきた。その恐怖に追い討ちをかけるかの如く、矢の一本がルシウスのすぐ目の前の地面に刺さる。


(あっぷ……あっぷねなー!!もしも頭に刺さったら即死だぞこの野郎!)


 既に死体を通り越して白骨化しているのも忘れてしまったルシウスは、一瞬前世での自分の姿が頭に浮かぶ。


(そうだ…そうだよな…行動も起こさず、みすみす命を差し出してたまるか!!バレているみたいだし、こうなりゃヤケクソだ)


 ルシウスは勢い良く立ち上がり姿を現す。ルシウスに続き、ベルゴもゆっくりと立ち上がる。そして、矢を射った相手をその目で確認したルシウスは、思わず爆笑してしまった。


「はっーはははははうふっはははっはは!」


 向かい合っている相手は、緑色の小人五人と大型犬が六匹。

笑いこけているバケモノに緊張している面持ちの小人達は弓を構え、大型犬は喉を鳴らして警戒する。


(ウケたわー。丸でゲームと同じだな。始まりの街を出れば、最弱モンスターのゴブリンとそれに肩を並べるイノシシや狼といった動物系モンスター達が出迎えてくれる。そのまんまだ)


 それも知らずに度が過ぎた警戒で、地ベタに這い蹲りひれ伏した主人の見っともない姿を、ベルゴはどう思ったのだろう?軽率過ぎた行動を今更悔いても仕方がないと平静を保とうとした瞬間、目の前に一本の矢が飛んできた。いきなりのことで驚きの余り、激しく仰け反り過ぎたルシウスは尻もちをついてしまった。

 矢はベルゴが盾を使い受け止めたものの、主人である自分が一度ならず二度も見っともない姿をベルゴに見せたと思うと、主人としての威厳が音を立て崩れ落ちる気がした。羞恥心と怒りがマックス値を超える。


「ゴブリン風情ガァァァァァーーーーーーーーー!!!!!」


 ルシウスが発する物凄いボリュームの怒りに満ちた叫びが、草原に轟く。


「配下の前で、この私に二度も恥をかかせやがって!!いいだろう、皆殺しにしてやる」


 ベルゴはルシウスを守るため防御に徹しているのか、六匹の大型犬が腕やら足に噛み付いても気にも留めない。

怒りのルシウスがゴブリンに向かって歩き出すと、また矢が数本が飛んできた。矢から主人を守ろうとベルゴが盾で防御体勢に入ったが、ルシウスがそれを押し退ける。矢はそのまま頭部に当たると刺さる事なく弾かれた。信じられない光景にゴブリン達は驚愕の表情を浮かべては、近づいてくる化け物から慌てて距離を取る。


「ちょこまかと!なら、私の実験台になるがいい。火の玉ファイア・ボール


 骨しかない左手から大きな火の球体が飛び出し一匹のゴブリンに当たると、ガソリンでも浴びていたのか全身に広がり炎に包まれた。


「####……」


何かを叫びながら苦しむのも束の間、命の灯火まで炎が呑み込んだようで動かなくなった。


「思ったおり良い出来だな。では次は貴様にしよう、氷の塊アイス・ボルト


 先の尖った氷の塊が、バケモノに指差しされた事で振り向き逃げようとした、一匹のゴブリンの頭を吹き飛ばす。頭部を失った胴体は少し踊った後、血を辺りに吹き散らしながら倒れる。


「ほう…成功したか。ならば、稲妻の一撃サンダーボルト


 黄色い閃光が走ったと思ったら一匹のゴブリンが体を激しく震わせたのち、全身から煙が立ち上る黒焦げの状態でその場に倒れた。

 自分達の武器を持ってしても傷一つ付けられないバケモノに、恐れをなした残り二匹のゴブリンは全てを投げ捨て一目散に逃げ出す。新たに魔法を覚えた事で逃げる二匹を始末するのは容易いこと。しかし、ルシウスは敢えて二匹を泳がせる。


「 ベルゴよ、これからゴブリン狩りを始める」


 陰湿で不快な笑みを浮かべてベルゴに呟く。(表情筋がないから実際には笑えない)












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