第3話 知らない世界2
ベルゴの退室を確認してようやく一息つく。そして自分の知識とベルゴから聞いた話を整理して見ることにする。
(色々と情報は手に入った。だが、まだ知らない事も多すぎる。説明書とか攻略本はどっかに売ってないものかね)
自分はスケレトンの長、長なら王って事で、つまりスケレトンキングなる存在であること。
部下はベルゴと後、三十体程スケレトンがいること。
今いる場所は沼地近くのダンジョンで、対価を払えばスケレトンを生み出せる力があること。
生み出したスケレトンは主人の知識をある程度受け継いでいるようとのこと。
(こういう状況は腐る程見てきたが、普通は"あなたは死にました。他の異世界に転生させて上げましょう"とか、"転生するなら凄い能力を持つ物もお付けしましょう"とか言ったりする神やら女神やら悪魔やら魔王やら謎の存在やらいたりするもんじゃねぇーの?俺……誰とも会ってないんですけど……)
オタクならではの思考で今の状況を解釈して見たものの、現実と創作した物は異なると結論づける。
幸いな事は、創作した物でも見た事があるから動揺は少しで済んだということかな。
(そういえば…真っ暗なのによく見えるな。気づかなかった。ベルゴも普通に退室したし、これはスケレトンの能力かもな。しかし、パズルの空白はある程度は埋まったが、後何枚の欠けらが必要なんだ?)
ふと大事なことを見逃している気がした。
(そうだ!俺のことをもっと知らねばいけないじゃんよ!)
ベルゴとの質疑応答でも自分自身のことより、他人にどう思われているかを重点的に頭に入れていた。
(死ぬ前と同じく他人の視線ばかり気にする負け犬根性が染み付いているな…いや!大事なことのはずだ。ベルゴがもしかしたら記憶を失ったのを機に俺を倒し、下克上というのもありうる。それに、自分のことも聞いたし、俺がスケレトンキングという情報も聞き出したんだ。慣れない芝居をしていた点も踏まえれば、個人的には百点をあげたいものだね)
結局のところ、自分のことは会話の流れでたまたま得ることが出来たに過ぎないこともわかっている。いくら言い訳したり突っ込んだりしても、一人論議に答えは出ない。
安藤は思考を停止させ、初めて自分の体の方に目をやる。
まずは、腕上げじっくり見つめる。
(骨だ)
そして立ち上がり視線を下に向ける。
(スッポンポンやないかーい!!!)
キングなのに、一応王なのに何も身に付けてはいなかった。
(ああああっ!!なんという事だ…………俺の息子は使われることもなく腐れ落ちたのだな……シクシク)
悲しい気持ちになりかけたその時、一番の疑問点が脳裏に浮かぶ。
(元のスケレトンキングはどうなったんだ?俺と入れ替わったのか?ということは………だな。俺は死んだから、俺の体に入ったスケレトンキングは死んだのか??そもそも俺が死んでからどれぐらいの時間が流れたんだ?十分?一時間?一日?一ヶ月?一年?)
こればかりは答えを知る術はない。
もし死んでかなりの時間が経過していて、醜い自分のぶくぶく太った巨体が腐敗し、悪臭を放っていることを誰かに発見されたと思うと………恥ずかしさのあまり死にたくなってきた。
もう死んでますけど…
(あーーーもうやめだ。今はまずこの体について知ることからだ)
安藤は見るだけじゃなく顔や腕、肩、
(あれ?肋骨一本がないぞ)
左側の一番下の肋骨が一本ないことに気づいた。
(なるほど。これが"身を削る"という言葉の意味か……アダムじゃあるまいしよ)
言葉の意味を知ると同時に旧約聖書に出てくるアダムとイブの話しを思い出す。イブはアダムの肋骨から作られたという話だ。
(これは難儀なことですなー。スケレトン三十一体の創造で肋骨一本か…無闇に使うわけにはいかないな)
物は試しだ。
肋骨をもう一本失うことを覚悟し、スケレトンを創造してみることにする。
(けど、どうやるんだ?この体の主は俺だけど俺じゃない。それでも使えるのか?ゲームやアニメのようにスキル名を唱えるのか?唱えたくてもスキル名なんぞ知らないよ俺は)
それでも一応それっぽい言葉を唱えてみる。
「スキル:スケレトン創造」
すると、地面の土が人間の骨のような形となり、土が骨と変わる。
(ほほほほうっ!これが魔法か……面白いな、実に面白きことよ!親には申し訳ないけど、俺死んでよかったかもしれない)
創造したスケレトンをよく見て見ると、明らかにベルゴより小さく武器も持っていない。
ゲームで見たレベル3程度の雑魚中の雑魚の姿だ。
(ベルゴより全然弱いって感じだな。もしかしたら残り三十体はこいつらのことかもな)
「喋れるか?」
"待てど返事はない。ただの
(どうやら、知能もないようだな)
一応体に異常はないか確認を行なったが、削れているような痕跡はない。
(可能性は三つあるな。一つ目は、三十一体創造で一本ごっそり持っていかれる。二つ目は、徐々に削られ三十一体目の創造で一本分となる。最後三つ目は、ベルゴのようなスケレトンを創造する時のみ、一本持っていかれる。どれかには当てはまるだろう……基準となるのが現時点では既に創造されている三十一体しかいないんだから)
収穫はある。魔法が使えるのはとても大事なことだ。
スケレトンを創造する魔法以外に、何か使える魔法はないか考える。
(当たり前のことだが、創造魔法はベルゴから聞いたから使えると思っただけなんだよな~まぁ…使えたけど)
考えてみてもどんな魔法が使えるとか分かるはずもなく、雑魚モンスターの限界を感じた。
(スケレトンキングか……なーーーーーんか聞き覚えのある名前だと思ったら「GSO」でもいたなそんなやつ。確か……こんな雑魚スケレトンの群れを率いる25レベルくらいのモンスターだったはず)
安藤のキャラは最大レベルである200だったため、安藤のキャラと比べれば弱すぎて話にならないのだ。
(俺は雑魚に成り下がったのだな……しかし、ゲーム的観点から物を考えるのも悪くないかも)
安藤はゲーム内でのスケレトンキングを思い出そうと努力する。
何せ、レベルが低レベルだった頃に、レベル上げで倒して以来わざわざ倒しに行ったりはしていなかったためあまりよく覚えていない。
(魔法を使ってた記憶はないな。雑魚スケレトンの群れを率いっていたということだから…創造魔法は頷ける。他の魔法はというと……ん…………………わからん!!!)
どれだけ脳みそを転がしても、答えのわからない疑問に考えがまとまらない。
(やっぱ、先のように物は試しだな)
試そうにも今度はスキル名うんぬん以前に、どう試せばいいのかわからないという事実に気づく。
そして、閃いたのだ。アニメで見た魔法の使い方というやつを。
さっそくゲームの魔法のイメージを具体的に思い浮かべる。
(まずは、基本中の基本からだよな)
ほとんどのRPGゲームの魔法使い職がレベル1でも使えて、それなりに高威力のあの魔法。
それっぽく、左手を前に出してあるスキル名を唱えた。
「
想像では、腐れ落ちてしまった自分の息子と同じく、小さめで謙虚なサイズの火の球体が飛び出すかと思いきや、それは嬉しい誤算というもので、大きめのスイカを三個合わせたような、大きな球体が左手から飛び出し安藤の正面の部屋の壁を抉りこむ。
その衝撃でダンジョンの内部が揺れ、天井から
(おいおいおいおいおいっーーーー!!!内部が崩れたりでもしたら、圧死されちまうなこりゃ!ファイア・ボールにしちゃものすごい威力だ。石が溶ける程の高温ではないにしろ、人間ならイチコロもんだな)
ファイア・ボールの威力に関心していると、ベルゴが慌てた様子で入って来た。そして、部屋の中で何かがあったということは見て取れるが、主人の無事を確認するとその場に跪く。
「主人様の許可も得ず、無断で入って来た無礼をお許しください」
今更という気もするが、安藤は不思議な動物でも見るような目でベルゴを観察する。
(スケレトンが何でこんなにも礼儀正しいんだ?行動からして何だか高い文明さを感じられる)
ベルゴの行動を少し考察した後、度量の広さをアーピルする。
「よいよい、お前が私の身を案じての行動だ。むしろ褒めてやりたいくらいだ。それに、私はそこまで器が小さくない」
「ははっ。お褒めに預かり身に余る光栄でございます!」
ベルゴの感服する姿に、先の芝居の経験は良き肥やしになったのか、言い回しも悪くなくより自然に主人を演じれた気がする。
(人間は慣れの動物とか言われてたっけな……その通り、俺も成長しているっ!前回の人生の失敗を踏まえてこの世界では引きこもりではなく、イカしたいい男になってやるぜ!!あっ、見た目は骸骨だけども………)
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