オープニング

 ㅤお金は巡る。証明写真機に吸い込まれていった千円が、回収した誰かのふところへ行き、その誰かがまた、そのお金を……。


 ㅤしかし普段の生活において、紙幣の番号なんか確認したりしないから、同じお金が再び同じ人の元へ帰ってきたとしても、なかなか気づきはしないだろう。そもそも同じ紙幣が同じ人の元へ帰る確率はものすっごく低いらしいのだが。


 ㅤこの物語においても、気づきはしない。しかし、帰ってくる。


 「野口英世」。人はこの、十五センチ紙幣にまつわる物語を、そう呼んだ。

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