樋口1

 ㅤ私は遂に、英世の手からお金を奪った。実は、ずっと前から狙っていた。夏目の仲間が増えて、百円台から、千円台に値上がりする日を。小銭を咄嗟とっさに奪うのは難しいからな。


 ㅤ英世は、私からお金を奪われたあと、それを誰かにチクることはなかったようだ。私に惚れていたからだろうか。なんてね。夏目の心配はいらない。あいつは不良といっても、実家が金持ちのタイプだから。金払いはいい。この千円が奪われたからって、私を責めることも、英世を責めることもないだろう。そのくらいのことはちゃんと計算してあげている。


 ㅤだから私は、あまり罪の意識なく、無事千円を入手することに成功した。


 ㅤさて。この千円をどう使ってやろうか。正直、今どき千円くらいで満足のいく買い物はできないだろう。私は普段、清楚ぶっているが、実はオシャレ大好き女子である。休みの日になれば、誰も私を私と気づかないくらいめかし込む。クラスメイトに街でナンパされかけたこともあるくらいだ。一応、その場で丁重にお断りしておいたが、ホイホイついていったとしても、スッピンを見せるまで気づかれなかっただろうな。


ㅤということで、アルバイトをしたいと思う。この千円を使って、私の証明写真を撮り、履歴書に貼る。お金を貯めて、使って、新しい私になる。そしてまた写真を撮り、バイトして、そんな繰り返し。


 ㅤだから英世に夏目、悪く思うな。お前らの胃袋に消えるパンを買うよりも、私の美しさに変わるものを買う方が、この千円札も喜ぶんだよ。私が頑張ることで、経済もさらに回るしなぁ。グヘヘへへ。

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