ショートショート「仮想世界」
Jabara
第1話
ここは、かなーり未来の研究室。
中央に設置されているのは仰々しいコンピューター。
ディスプレイには何も表示されていない。
いや、正確には「漆黒の闇」が表示されていた。
「博士、準備が出来ました」
「そうか、ではそろそろ始めるか」
「プログラム宇宙創成スタート」
博士の声を認識したコンピューターが
「プログラム宇宙創成スタートいたします」
と返事し、カウントが始まった。
「5,4,3,2 1 スタート」
プログラムが起動し、ディスプレイが真っ白になった。
いよいよコンピュータ内の「仮想世界」での
「宇宙創成シミュレーション」が始まったのだ。
博士はこの研究にほぼ50年費やしていた。
発端は「人工知能」の開発だったが、
「現実世界」で研究するよりも
「仮想世界」内のほうが効率的だと考え、
全ての研究を「仮想世界」内で行うようになった。
「人工知能」はとんでもない学習能力を持っていて
人間がプログラムするよりもずっと早く自身の改造をすすめた。
しかしそれでも、どこまで行っても「感情」を得ることはなかった。
博士が望んでいたのは感情のある「友達人工知能」だった。
そこで、思いついたのが「仮想世界」内で
生死のある単細胞生物からシミュレーションして
人間になるまでを高速で進めるという方法。
この方法で「感情のある人工知能」というより
「仮想世界に生きる人間そのもの」
が短時間で作れるようになった。
仮想世界内の時間経過はコントロール可能なのだ。
この成果で博士は世界に知られることとなり、
予算も潤沢な状態になった。
かなりの時間短縮がこの研究で可能になったが、
ある日、「宇宙創成」から現在までを
「仮想世界」内でシミュレートすることを思いついた。
この実験が成功すると、仮想世界内に宇宙が作られるはずだ。
仮想世界でビッグバンが開始され数秒で現在の時間になった。
ディスプレイには宇宙そのものが表示されていた。
「地球を表示しろ」
博士の声を認識し地球が表示された。
「よしよし、ちゃんと地球も生成されている」
美しい宝石のような青い地球が表示されていた。
「ん?ひょっとして、私自身も生成されているのだろうか?」
ふとした思い付きで、自分自身を表示させた。
・
・
・
・
・
仮想世界のわたしがディスプレイをのぞいていた。
ディスプレイには仮想世界が表示されていた。
合わせ鏡のように仮想世界のディスプレイに
仮想世界のディスプレイが。
永遠に続いているようであった。
ショートショート「仮想世界」 Jabara @jabara
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