第12話 Put a pause
「『SOUICHIROU OGOSE』……って俺の親父じゃないか!」
タブレット端末に勝手にインストールされたアプリケーションの開発者の名前を見て俺は叫んだ。越生宗一郎、俺の親父だ。現在は海外で研究員として働いているはずだが、親父は魔術のことを知っていたのだろうか。
「あー、そういえばオゴセって姓が同じだね、イツキ。ソウイチロウはね、天界と魔術について研究してる、第一人者だよ。息子なのに聞かされてなかったの?」
「ああ、俺はてっきり製薬でもやってるのかと思ってたんだが」
「へぇ、越生くんのお父さんってなんか凄い人なんだね?」
松原が呑気に感心している。あの親父、本当に何やってるのかわからんな。今度電話かけて問い詰めてやる。
「まぁ、このアプリケーションの基本操作とかはここのヒントを読めば書いてあるし、そこら辺は大丈夫だね」
「そうだな、あの親父にしては親切設計だ」
親父はいつも何を考えてるのかわからない上に不親切極まりない人物だ。妹の双葉はなぜかべったりだったが。
「とりあえず、わたしの話は終わりにするよ。今考えなきゃいけないのはフタバのこと。あのピエロが奪った『蛇の書』をなんとしても取り返さないといけないわ」
「その魔導書を取り返して双葉の身体に戻せばいいのか」
「そうだね、ただ、フタバの身体の中に残った『鷲の書』の防衛機構が完全に停止してしまったらアウトだけど」
「その防衛機構?って言うのはいつまで続くんだ?」
妹の身体を巡る魔力回路はあの黒いピエロの魔力干渉によって破壊されてしまっているらしい。今は『蛇の書』の対になる魔導書である『鷲の書』が、自身の魔力を放出して魔導書本体と宿主である双葉の魔力回路をなんとか維持しているらしい。
「せいぜい二週間ってところね」
「二週間……」
「うん、二週間。長いようで短いかも知れないけど、その間はフタバは無事だよ。で、二人がまず最初にやらなきゃいけないのは休むこと、だよ」
「休むだなんて、そんな悠長なこと言ってる場合か。今すぐにでもあのピエロの情報収集をして奴の居場所を突き止める必要が――」
「二人は映画館で初めて魔法を使ったわ、それも凄く効率悪く。ただただ魔力を放出していたのと同じような事をして、疲弊しないはずがない。今は気が立っているからわからないかもしれないけど。とにかく、今二人は休むこと。いいね?」
「そんなこと言われてもな……」
疲れているのはわかってる。今だって目眩がする。頭が痛い。だが、今すぐにでも動き出したい。
「だめ。それにすぐに居場所を突き止められたとしても、今の状態でまた戦闘になったらそれこそ返り討ちにあって二人が危険だよ」
「そう言われたらそうかも知れないが」
「そう、今の状態じゃ勝てない。実力不足。戦いは用意周到にしてから挑むものよ。勝てない戦はやっちゃダメ」
このエルという少女、可愛らしい見た目と反してかなり血の気が多いな。もっと平和的解決方法はないのだろうか?いや、まぁあのピエロに話が通じるビジョンが見えないが。
「だからひとまず休む。明日から情報収集もしつつ、わたしと魔術の特訓をするよ」
「わかったよ。今日のところはお休みだ。おい、松原――」
俺はもう帰るぞ、と言おうとしてベッドに座る松原を見ると、ウトウトともっさり頭を揺らしていた。
「魔力の使い過ぎね。相当疲れてたみたい」
このもっさり頭の寝顔を見て少し優しい気持ちになった。エルも画面越しから優しそうな目で松原の寝顔を見ている。
「みたいだな、寝かしといてやるか」
俺は松原を横にして布団を掛けてやった。甘ったるい香りが鼻を突付く。
まぁしかし、困ったぞ。帰るつもりだったが、これじゃあ家から出られないな。鍵を持っているわけではないから外から鍵をかけられない。まぁ、俺も今日の出来事を整理しつつ少し体を休めるとするか。
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