第3話「僕と今までのカノジョ」
夏休みも折り返し地点まできていた。
気温は35度を超え、もう真夏と呼べるものになっていた。
この頃になると、課題を済ませゴロゴロと過ごしていた。
ケータイの着信音がなる。
「10時に図書館集合!」
それは、こちらの返事に関係なく、強制的に行動させる、そんなメールだった。
こんなメールを送ってくるのはカノジョしかいない。
これが、カノジョからの始めてのまともなメールだけど何となくわかった。
僕に拒否権などなく、10時に間に合うように図書館に向かった。
中に入るとクーラーの効いた涼しい空間に一人、僕に手を振る女性がいた。
三つ編みをした髪に眼鏡をかけた、いつもとは違う雰囲気のカノジョがそこにいた。
『来てくれたんだ!』
自分から呼んでおいて、またこれだ。
『家庭科の課題を手伝って欲しいの』
カノジョは1枚のプリントを鞄から取り出した。
まあ、僕を呼ぶ理由といえばそんなところだろうと思った。
僕は情報を選択しているため家庭科のことはよくわからないが、どうやら自分の生い立ちをテーマにしたレポートを書かなければ行けないようだ。
僕はまず、取材をしに行くことを提案した。
それから、カノジョの産まれた病院、小学校、中学校に話を聞きに行くことに決めた。
僕達はコンビニのおにぎりで昼食を済ませ、カノジョの産まれた産婦人科へと向かった。
受付の人に事情を話すと、カノジョを取り上げた医師と話をする機会をくれた。
指定された部屋へ行くと、そこには、五十代位の女医が待っていた。
『「今日はお忙しいありがとうございます。 宜しくお願いします」』
「いいのよ。 こちらこそ宜しくね」
カノジョもちゃんと挨拶が出来るのだなと感心していた。
まず、カノジョの出生時の様子について話してくれた。
体重は3300g、女の子にしては少し重たかったそうだ。
それを聞いている時のカノジョの頬が少し赤くなっている気がした。
「産まれた後、なかなか泣き始めなかったからおしりを叩いたのよ〜 そしたら
すぐ泣き始めてくれたから良かったんだけどね」
カノジョはそれを聞き、今度は、ハッキリと頬が赤く染まっていた。
それから、入院していた時や母親のお腹の中にいた時の話をしてくれた。
なんだか、カノジョの大事な秘密を聞いているような気がして少し恥ずかしくなった。
『「今日は本当にありがとうございました」』
一時間ほど話を聞かせてもらい僕達は病院を出た。
もう、14時を過ぎていた。
それからカノジョの通っていた小学校、中学校で話を聞いてきた。
この街には、それぞれ二つの学校があり、僕はカノジョとは別のもう一方の学校に通っていた。
小学校では、カノジョが男勝りな性格でよく男子に混ざって遊んでいたという話を聞いた。
これに関しては、今とあまりイメージの違いはなかった。
中学校では驚くべき事が聞けた。
カノジョの中学生時代は、本を読んだりして、一人で学校生活を送る、そう、まるで僕の様な「陰キャラ」だったそうだ。
これは結構驚くべきことで、カノジョ自身もあまり僕には聞いて欲しくなそうだった。
帰り道、カノジョは中学生時代について話してくれた。
『中学校に入って急になんだか男子といるのが恥ずかしくなっちゃって。う〜
ん、そうだな〜 ハッキリ言うと君みたいになっちゃったんだよね』
さりげなく僕の事を批判してくる。
『だから高校からは友達をたくさん作ろうと思って眼鏡もコンタクトに変えたん
だよね〜』
カノジョは、いわゆる高校デビューというやつで、もとは僕と同じ人種だったみたいだ。
また、カノジョの違う一面を知った。
この頃カノジョの新しい一面を知るたびに、何故か嬉しくなる自分がいた。
これで、カノジョの生い立ちを振り返る小さな旅は終わった。
「この日、僕はカノジョの過去を知った」
翌日、僕達は、また、図書館に集まっていた。
今度は取材してきたことをレポート用紙にまとめるためだ。
『あつ〜い〜』
カノジョはグチグチ言いながら作業を始める。
文句を言いたいのはこちらの方だ。
自分のものでもない課題を手伝い、その上、今日に限って図書館のエアコンが故障しているとなると余計辛くなる。
まあ、そんなこんなで僕達は作業を進めていく。
レポート用紙にカノジョの写真を貼り、その下に、この間取材したことをまとめていく。
この作業は、1時間もあれば終わった。
『ふう〜 やっと終わった〜』
「お疲れ様」
まあ、ほとんど僕がやったようなものだけどね。
あとは、タイトルを決めるだけだ。
「これくらいキミがやりなよ」
流石にここまでやるのは気が引けるから、カノジョに任せることにした。
カノジョの事だからたいして考えず、すぐ決めるだろうと思っていた。
だが、僕のそんな予想は間違っていたようだ。
『・・・・・・』
カノジョは、10分ほど黙り込んだままだ。
『き〜めた!』
言葉を発するのと同時にカノジョは油性ペンでタイトルを書き始めた。
『私の人生』
考えた時間に見合わない、いたって普通なタイトルだった。
でも、カノジョは、やけに満足そうだった。
僕は、この「人生」という言葉に込められた意味をまだ知らなかった。
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