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彼女の手はとても優しい感じがする。
甘皮の処理と爪の形を整えてからハンドクリームでマッサージをする。柑橘系の香りは夏限定にしていて、爽やかな香りが店内を包んだ。
滑らせるようにして、手に馴染ませていく。
「ふふ、くすぐったい」
彼女は高校三年生なんだそうだ。ここへは祖父の家に遊びに来たらしく、実家は遠く離れた山の上にあるだとか。
最初こそ無口だった彼女もレッスンが進むにつれ、年頃の女の子らしく少しずつお喋りになってくれ、自分の事を話してくれる。
部活動はハンドボール部、弟が一人、実は日焼けを気にしている、ネイルにはもともと興味があった。
なんて可愛らしい。
「それじゃあ、次はお待ちかねのネイルね」
年若い女の子と言うこともあり、つい私の口調も砕けてしまう。その分彼女との距離も縮まったということだろう。
「はい」
私は用意してあったベースコート、トップコート、シアーピンクのポリッシュと半球のパールを取り出した。
このデザインは彼女よりももう少し上の年齢を設定して考えたものだ。桜貝をモチーフにしてオフィスシーンでも使ってもらえるようなものだ。
まさか彼女のように若い女の子に選んでもらえるとは思わなかった。
「あの」
「ん?」
「やっぱり、変ですか?」
「え」
「私がこんな大人っぽいネイルするの」
彼女が心配そうな顔で覗き込んでくる。
顔に出てしまっていた?
「そんなことないよ」
「でも…」
「もう高校三年生だもんね、大人っぽいネイルだって知っておかなくちゃ」
そういって軽くウインクを飛ばす。
年頃の女の子なのだ。背伸びくらい普通する。
それから彼女にポリッシュの綺麗な塗り方を教えていく。利き手に見本として塗って行き、彼女は教えたように反対の手に筆を滑らせる。淡いカラーはむらになりやすいけれど、彼女は思いのほか器用に塗っていく。
小麦色の肌でスポーティな子はなぜか不器用だと思ってしまう。偏見だ。きっと原因は幼馴染にあるのだろう。
「えっと、これでいいですか」
ほうっ、と最後の爪を塗って安堵の息を吐く彼女。その爪はとても綺麗な桜貝だった。
「とても綺麗ね。センスあるよ」
「えっ、本当ですか!?」
「うん」
「えへへ、嬉しいっ」
素直な反応にこちらまで心がふわりと安らぐ。
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