「クロハ」地球を守るもの
悪魔の数字+1
第1話「地球」それがこの星の名前
宇宙のとある星から飛び立つ二つの光。
ひとつはよく見ないと宇宙の闇にまぎれてしまいそうな暗い光。
ひとつは遠くから見てもはっきり見えるくらいのまぶしい光。
それらの光は星から数光年はなれた場所でとまり、ヒューマノイドの形を成した。
黒いヒューマノイドと、白いヒューマノイド。
二人はちょうどそこにあった小惑星に腰を下ろして小休止した。
黒いほうの名は、クロハ。
白いほうの名は、エーデルという。
クロハ「ふぃ~今回も疲れたなぁ~・・・」
エーデル「いつも疲れてないか?」
クロハ「まったくそのとおり。普通さ、惑星規模の災害にさ、銀河連邦戦士たった二人で始末しろってさ、いくらなんでもひどすぎねぇか?」
エーデル「最近、銀河連邦軍人手不足らしいからな・・・手が空いてるのが俺たちぐらいしかいなかったらしいんだとさ。」
クロハ「これで残業代出なかったら今度こそやめてやるぞ!」
今から銀河暦5000年前に、銀河中が戦場になった戦争、「銀河大戦」があった。
その戦争の惨禍を再び起こさぬように設立されたのが「銀河連邦」である。
銀河連邦は戦後徹底的に反戦教育をほどこしたが、その徹底さが仇となり、軍=悪というイメージが根付いてしまった。その結果、銀河の治安を維持する「銀河連邦軍戦士」への志願が少なくなり、万年人手不足が続いている。連邦広報部の努力によってその考えは何とか払拭されつつあるのだが、いまだネガティブなイメージが抜けていない状況である。
クロハ「俺ら連邦軍第五千期候補生から後は誰も志願してないんでしょ?」
エーデル「そう。だから今年の入隊試験は誰もいないから中止だってさ。
この際、連邦軍を廃止しちまえって声もあちこちで耳にするし。」
クロハ「まあ確かに、俺らは一応「軍」という定義なんだけどもやってることはほとんど連邦災害対策部とほとんど変わりねぇしな。最近じゃ、あちらさんだけで治安維持できるくらいのところも増えてきたし。」
エーデル「治安維持のため、とは言うものの、肝心の治安がどこもかしこも良すぎて商売上がったりだ・・・」
クロハ「悪いことではないんだけども、なんだかなぁ、存在意義を見失っちゃうよな。せっかく軍に入隊したのに。」
エーデル「ああ・・・おそらく、俺たちが引退したら、連邦軍は解体決定だな。」
クロハ「軍になればうるさい反戦教育から逃れて悪いやつをぼこぼこにできると思ったのに・・・ああ、どこか俺たちが存分に暴れられるところなんてないかなぁ!」
エーデル「あるわけないだろ、銀河連邦に所属している星で悪さを働いたやつらはみな精神改造を食らって、いいひとにされてるから暴れる理由がないよ。」
銀河連邦は、戦争防止策のひとつとして、悪人精神改造マシンを作り上げた。悪さを働いたものはみな、精神を改造されていいひとに作り上げられてしまう。
だがこの精神改造は、クロハとエーデルには効かなかったらしい。
クロハ「はぁ・・・俺たちずぅ~っとこんな感じで一生終えるのかねぇ・・・」
エーデル「ああ、でも仕方ないさ。平和な宇宙に余計な戦力なんて要らない。当然のことさ。お前だって、平和が一番だって思うだろ?」
クロハ「そりゃ、そうだが・・・」
彼は不満であった。本当に俺たちは余計な存在なのだろうか?平和を維持するためにこそ、俺たちはいるのではないのか?
エーデルもそれを分かっているはずだ。口ではそんなこと言ったって、本当は俺と同じことを考えてるに決まってる。
エーデル「おっと、道草を食いすぎてしまった・・・そろそろ本部に帰ろう。今日は確か給料日だったな。」
クロハ「たった4百万クレジットもらったところで・・・」
エーデル「いうな、お前の不満も分かる。愚痴は後でたっぷり聞くから、まずは帰ろう。な?」
クロハは、しぶしぶエーデルについていった。
クロハ「今宵もたっぷり飲・・・・・ん?」
ク・・・・・ロ・・・・・
突然、クロハが何かを探知した。
エーデル「どうした?クロハ。」
クロハ「いや、なんか変な声が聞こえたような気がしてな・・・気のせいかな・・・」
エーデル「俺は何も聞こえないぞ・・・?」
クロハ「・・・まただ!あっちの方角からだ!」
クロハは謎の声の発信源を探るべく、帰還コースを外れた。
エーデル「待て!クロハ!おい!」
エーデルはクロハを追跡した。
・・・・・ロ・・・・・ハ・・・・・
クロハ「だんだん大きくなってくる・・・なんていってるんだ・・・・?」
ク・・・・ロ・・・ハ・・・・
クロハ「俺の名前?何で俺の名を・・・」
クロハは、声をたどって、さらに飛んでゆく。
その後を追跡するエーデル。
二人はそのうち、未知の宙域にたどり着いた。
エーデル「クロハ!戻れ!コースから大きくずれてるぞ!」
クロハ「待ってくれ!誰かが俺を呼んでいるんだ!本当に聞こえないのか?」
エーデル「・・・やっぱり聞こえないぞ。お前、ヘッドギアの週音装置に異常が起きたんじゃないのか?」
クロハ「そんなはずは・・・あれ、聞こえなくなった。」
エーデル「やっぱりな。何かの間違いだったんだよ。ちゃんとメンテナンスしないからこうなるんだ。」
クロハ「そんなバカな!このヘッドギアをメンテしてまだ一週間もたってないんだぞ?」
エーデル「どんなに完璧にメンテしたと思っても、どうしても抜け落ちてしまうところがあるかもしれない。」
クロハ「信じてくれよ!」
エーデル「クロハ。お前は疲れてるんだ。不満がたまってそれがお前の体に影響し始めてる。ゆっくり休んだほうがいいぞ。」
クロハ「違う!そんなんじゃ・・・・ん?」
突然、クロハとエーデルのヘッドギアが紅く光った。
エーデル「このシグナルは・・・磁気嵐発生の恐れ大!しかもすぐそこまで迫ってる!」
クロハ「何だって!早く逃げなければ!」
二人は、全速力でその宙域を脱した。
ところが・・・
クロハ「おい、どういうことだ!ぜんぜん前に進まなくなったぞ!」
エーデル「磁気にスペースアーマーがひっかったんだ!だからあれほどコースにもどれといったのに!変な声が聞こえるとかのたまうから!」
クロハ「違う!アレは本当に・・・・・・」
クロハ・・・・
クロハ「また聞こえた!しかもさっきよりでかいぞ!あの磁気嵐の中からだ!」
エーデル「この期に及んで・・・!・・・俺にも、聞こえる。」
クロハ「だろ?なあ、どうせ磁気嵐から逃げられやしないのなら、いっそのこと飛びこんでみるのはどうだ?」
エーデル「バカ!磁気嵐にスペースアーマーだけで突っ込んだら生きては戻れないぞ!」
クロハ「よく見ろ。あの磁気嵐は、ところどころにムラがある。
磁気の弱いところに俺とお前のダブルフラッシュをぶち込めば、穴が開くはず。そこに磁気嵐の引力に任せて飛び込めば、何とか潜り抜けられるはずだ。」
エーデル「む・・・とにもかくにも、今はそれをやるしか手はなさそうだな・・・よし、フラッシュの構え!」
クロハ「フラッシュの構え!OK!」
エーデル「いくぞ!プロテクト・フラッシュ!」
クロハ「ブレイク・フラッシュ!」
フラッシュ。銀河連邦軍戦士共通の技である。
左手の甲に右手のひらを重ねて前方に左手のひらを突き出す。
これがフラッシュの構えである。
ここから戦士ごとにアレンジを加えてエネルギー弾を放つ。
威力は一人だけでは牽制程度にしかならないが、二人合わせてダブルフラッシュを放てば、半径500m(銀河標準規格)の小惑星を吹き飛ばす威力を発揮する。
ダブルフラッシュを打ち込まれた磁気嵐は、ぽっかりと大穴を空けた。
クロハ「よし、今のうちに潜り抜けるぞ!」
二人は全速力で磁気嵐を通過した。
磁気嵐に開いた穴が再び閉じるまで、あまり時間がない!
クロハ「急げエーデル!あと少しで穴がふさがる!」
エーデル「これで精一杯だ!」
クロハ「急げーーーっ!出口はすぐそこだーーーっ!」
それは一瞬の出来事だった。
しかし、二人にはものすごく長く感じられた。
間一髪、穴が閉じる寸前で二人は磁気嵐をからがら抜けたのであった・・・
しかし、先ほどのダブルフラッシュに加え、全速力で飛ばした結果、ほとんどのエネルギーを使い果たしてしまった。
クロハ「ハァ・・・はぁ・・・」
エーデル「俺たち生きてるよな?な?」
クロハ「ああ、死んでたら、こんな疲れてないだろ?・・・はぁ・・・」
エーデル「後は等速直線運動で飛んでいけばいいが・・・これで完全に本部との連絡は取れないな・・・」
クロハ「磁気嵐をはさむと、それ自体が通信の妨害になってまともな通信ができなくなる・・・すまん・・・元はといえば俺のせいで・・・」
エーデル「いまさら謝ってもどうしようもない。こうなったらとことんお前についていくからな。」
クロハ「ハハ・・・」
エーデル「ホント、お前といるとろくなことがないな。
ま、俺自身それを楽しんでるからいいんだけどもね。」
クロハ「・・・ありがとよ、エーデル。」
エーデル「何をまた・・・幼馴染の縁じゃないか。」
クロハとエーデルは、生まれたときからの親友だった。
何をするのも二人で。相反する性格の二人がペアを組む様子は、いつしか、「白黒コンビ」と名づけられていた。
クロハ「それはそうと、俺たち、もうそろそろエネルギーが切れそうだ・・・どこか、ゆっくり休める星はないか?」
エーデル「安心しろ、もうすでに俺たちはどこかの太陽系に入っていたらしい。もうすぐ星が見えてくるはずだが・・・」
二人の目線には、太陽を中心として回っている九つの惑星が見えていた。
そして、その中でひときわ輝く星を見つけた。
クロハ「おぉ・・・・なんて美しいんだ・・・・」
エーデル「俺のふるさとにも勝るとも劣らないな・・・」
クロハ「あそこにしようぜ?あれぐらい青ければ、水もいっぱいあるだろうし・・・」
エーデル「よし、目標はあの青い星だ!クロハ、大気圏突入の準備をしとけよ?」
クロハ「了解。」
二人は青い星に向かって、最後の力を振り絞って進んだ。
「クロハ」地球を守るもの 悪魔の数字+1 @667
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