第15話 新型装備と規格外
『小鬼を五体発見。実地テストを始める』
『了解した。こちらでも索敵を行うが、気を抜くなよ』
言葉として大気を震わすことなく、小竜と意思を疎通する。
声よりも短く正確に互いの意思を疎通する“聲”は、精神から精神に直接情報をやり取りする。
聲は第七感を鍛えていくと身に付く技術で、ハンドシグナル以上の情報を無音で行えるので狩りの時には大変重宝している。
音一つ気を使っていた一年前と比べ、隠形の性能が上がったことによって、周囲に気取られることなく目標への最短距離を駆けている。
運動能力も新型装備のお陰で飛躍的に向上しているが、領域内は現在雨で音を消してくれるのも幸いだった。
接敵まで残り20m。
普段ならこの距離から狙撃を行うが、装備の機能テストを兼ねているので残りの距離を数秒で潰す。
茂みを抜けると小鬼の最後尾に躍り出た。
着地音に振り返ろうとした最後尾の小鬼を、後ろから頭の上下を挟み一回転させる。
ゴキッ!と快音が鳴り、不快な匂いを発する死体を横に放り投げる。
残り四体。
筋力強化テスト良好。テスト続行。
突然現れた襲撃者と仲間の死亡によって、混乱する小鬼へ躍りかかる。
間合いを一瞬で詰め、左手前の小鬼に蹴りを放ち、後方に控えていた一体の小鬼を巻き込むように吹き飛ばす。
敏捷強化兼脚力強化テスト良好。テスト続行。
正気を取り戻した二体が手に持った武器を振りかざしてきた。
それをワザと両腕のプロテクターで受け止める。
小鬼と言えど9歳になった俺と身長がほとんど同じであり、筋力で言えば一般人より上のG級である。
武器によっては致命傷を負うこともざらだ。
それでも敢えて攻撃を受ける。二体の攻撃は予測される衝撃よりも軽微な物だった。
二体の小鬼が装備しているのは、危険領域に落ちていたと推測する木の棒。
所詮木の棒と侮ることなかれ。
強度で言えば、安全領域内にある鉄の棒と同等かそれ以上の破壊力を有する。
打撃耐久テスト良好。テスト続行。
予想していた手応えとの違いに、一瞬体が硬直する小鬼。
『後方から一体復帰』
棍棒を掴み引くことでバランスを崩し、後ろから一早く復帰した小鬼に向けて投げつける。
小竜の索敵だけではなく、後ろを目視しなくても気配で状況を把握。
戦線復帰が遅れたのを確認すると、残ったもう一体の小鬼に打撃を加える。
棍棒に意識がいっている小鬼は、超接近戦にすぐさま対応できずサンドバッグ状態になった。
鈍い打撃音を鳴らしても、俺の身体に掛かる衝撃は随分と緩和されている。
打撃強化テスト良好。テスト続行。
最後の一撃で顔面が陥没した小鬼を捨て、体勢を立て直した三体に向き直る。
三体の小鬼の眼には、明確な殺意が浮かんでいた。
微小な威圧。
一般人がすくむ程度では、最大値の100を超えた俺の精神構造にはそよ風にも満たない。
精々数年から良くても二桁前半の精神構造が放つ殺意など三体であっても誤差の範囲。
三体の小鬼に対して最後のテストを実行する。
意識を集中していくと、降り続く雨がその場で静止した。
1年前までの1秒間を10分割するレベルではなく、1秒間が100分割なるほど濃密な精神の加速。
宙に留まる雨粒を弾き、小鬼たちが立つ場所まで歩いていく。
小鬼たちも雨粒の様にその場から動くことは無い。
いや正確に言えばゆっくりとだが動いている。
それが静止したように緩慢なだけだ。
構えている武器の隙間を縫って、顔面に拳を打つ。
小鬼に当たった拳は、小鬼の頭を破裂したスイカの様にぐしゃぐしゃにして貫通。
腕に掛かる反動は、先程とは比べ物にならない。
生身を打ち付ける手応えが伝わる。
残る二体の小鬼も、もう片方の腕と蹴りで頭を破裂させる。
両腕と片足に残る反動を確認。
精神同調テスト要注意。装備の改善項目在り。
残心をそのままに圧縮された時間が、元の密度に戻っていく。
静止していた雨粒と頭を失った三体の小鬼が地に落ちる。
雨で冷えた大気に、吐き出された熱は白く煙る。
『テスト終了。小鬼五体の魂魄を確認。こちらは敵影無し』
『こちらも索敵範囲に敵影無し。まずまずの成果だの』
鬼種の魂であることを証明する赤い発光体、小鬼の魂が地に転がった遺体の傍に浮遊していた。
鬼の魂魄を集め、体内に籠った熱を《形質変化》のエネルギーにして発動する。
握った発光体は、掌を開くと赤い結晶に変化。
魂魄をエネルギーの集合体から物質化した状態、霊子結晶に変えた。
マベリスクでは道具やインフラの基礎エネルギーとして運用している霊子結晶。
害のある魔物ではあっても、無くては困る優秀なエネルギー資源でもある。
身近な所では部屋の明かりや、冷蔵庫自動車や飛行船の動力源に使われている。
魔素汚染した魂は、魂の循環に戻る事は出来ない。
そこで考えられたのが魂を結晶化して宿ったエネルギーを消費し、魂を無に帰すことで本来の循環に戻す方法。
人の生活を脅かす魔物を討伐して、その魂魄は文明の発展に役立てる。一石二鳥どころか三鳥だった。
手元にある一つ21グラムの赤い霊子結晶を見る。
『こんな品質のでも部屋の明かりとしては一年以上持つんだから、魂のエネルギーの膨大さがよく分かる』
くすんだ透明度の結晶。
魂の覚醒率、保有魔力によって結晶の鮮やかさと輝き、透明度が変わってくる。
『所詮Gランクの小鬼なら妥当であろうよ。それより他の四つも結晶化せんか』
小竜に促され残りの四つも霊子結晶にするが、同じようなくすんだガラス玉にしかならない。
『小僧。早く加工しろ』
『了解』
最低品質の霊子結晶に赤い液体を付けて、もう
赤かった霊子結晶が濁った無色の結晶に変化する。
四つの結晶を無害化すると、小竜が飲み込んでいく。
俺が《形質変化》の術式で魂魄を霊子結晶に変化出来る事が分かってから、装具や実戦で使わない霊子結晶を小竜は食べるようになった。
魂魄や霊子結晶を食べると、魂や魄が保有できる最大魔力が増加する。
だが、ただ食べるのでは問題があった。
魂魄を食べると魔力や気が増加する代償に、摂取する魂魄が保有する業も取り込んでしまう。
業とは穢れにもなる諸刃の剣。
異なる魂魄を摂取すればするほど自身の魂魄の輝きは濁り、最終的には魔物へと変生する。
それは竜種である小竜であっても例外ではなかった。
代償を無くす方法は二つある。
一つは取り込む魂と向き合い調伏する方法。
こちらは業を取り込んで新たな能力を習得、既存の能力を向上するなどのメリットがあるが、調伏に掛かる時間や危険を考えて現実的ではない。
最悪の場合調伏するはずが、逆に肉体を乗っ取られる可能性がある。
もう一つは今俺がやったように霊子結晶化させた後に、別の魂魄情報を上書きする方法。
これは輸血の概念に近い。
自分の血液を自分に輸血するならば、血液型を気にせずに済む。
俺と小竜は別の存在だが、共鳴りになるくらい相性はいいので俺の魂魄情報を取り込んでも問題ない。
方法も簡単で結晶化した魂魄に、自分の血を付着させて《形質変化》を行うだけ。
小竜が霊子結晶を食べている間に、手早く小鬼の遺体を横に並べ匣に圧縮した。
後に残ったのは破裂した脳漿と血だけだ。
『しかし、G級程度では密度を上げた時間では相手にならんな』
『小竜もそう思う?』
精神構造が上限100を超えた辺りから、時間感覚が普通の人とはズレていることに気が付いた。
それが精神構造EXと評価された規格外の精神が至った極地であると、理解するのに時間は掛からなかった。
理由は簡単。
A級までは意識して加速していた時間感覚が、意識しない状態で維持されるようになっていたのだ。
集中して行う全ての作業や修行は平時の10倍、一般的な時間感覚の100倍の密度で行っていた。
それは狩猟時でも同様。
『寧ろ精神の速度に、装備の性能が付いてこれておらんのが問題ぞ』
『実戦で使える最低ラインは満たしていると思うんだけどな』
以前までは、精神の速度に肉体が付いてこれなかった。
しかし、新型装備“複合強化外骨格”通称マッスルスーツ(命名師匠)と魔力圏拡大によって、加速した時間の中で平時通り動くことが可能となった。
見た目は軍騎士装備とそれ程変わらないが、中身は完全に別物となっている。
特に顕著なのが多層構造と外骨格、人工筋肉の導入だった。
肉体だけで動くのではなく、人工筋肉と外骨格の動作アシストを受けることで運動能力を飛躍的に上昇させる“機動力のある防具”。
それが強化外骨格だった。
強化外骨格は発案から完成まで一年の時間を有した。
思いつくがままに書き出した設計案を師匠に提出すると、困ったような顔になった。
「構想は面白いけど、問題点は二つ。一つは素材、もう一つは構造だ。どちらも一朝一夕に行かないのは分かっているかな?」
当然分かっていた。
だが、新型装備を作っておかなければ、いずれ自分で素材採取に行くことすらままならなくなる。
作らないという選択肢は無かった。
俺の身体は死の呪詛の副作用で気脈の末端が硬質化し、筋力の発達が遅れ始めた。
このまま症状が進めば、いくら気の練度を上げても器である肉体の運動能力は、早い段階で頭打ちになるのは見えていた。
新型装備の発案後、師匠の予想通り躓いたのが人工筋肉の素材だった。
俺が手に入れれる素材で人工筋肉に適した素材が無かったのだ。
「素材が無い事は無いんだよ。ただティファの実力と財力じゃ素材を手に入れる手段がない」
なのでとりあえず最初は師匠と先生の指導の下、人工筋肉と外骨格の位置や構造を研究した。
研究は師匠が作った施設を使い仮想世界の中で進み、二か月で基礎構造は出来上がった。
しかし、素材の問題は変わらず突破できないでいた。
「人工筋肉に最適な素材見てみる?」
「どういう風の吹き回し」
「実物を見るのも一つの修行さ。特に行き詰っているなら気晴らしにもなる」
師匠に連れられて来たのは、工房の中でもっともセキュリティーが厳しい二つの区画の内の一つ。
素材管理区画だった。
隔壁を師匠が開いていくと、たどり着いたのは一つの扉。
扉の横にあるパネルに師匠が魔力を通すと、足から震動が伝わってくる。
素材が安置された区画を移動させているのだ。
しばらく待つと扉が開き、中へと入って行く。
「これが人工筋肉に最適な素材。亜竜種の中でも上位に位置するB級の鋼帝竜、その亡骸だ」
そこに鎮座していたのは、巨大な銛に貫かれた全長15mを超える鋼の翼竜――。
「ロボット?」
観たままの感想が口から零れる。
「正真正銘危険領域に生息する亜竜だよ。しかも、これ海の中に生息していて、陸での活動も出来る水陸両用型の翼竜」
師匠は俺の言葉に苦笑する。
表現するならば翼竜の翼をペンギンの翼にして、表面を金属に置き換えた翼竜とでも言えば良いのだろうか?
俺が理解しやすいように、鋼帝竜の生態動画を見せてくれる。
動画の感想を敢えて言うならば、絶望だろうか?
金属のような体で、水中を自由自在に泳ぎ。
陸上では、重さなど無いような大跳躍と敏捷性。
鋼の尻尾の尖端には三本指のアームがあり、手の様にして獲物を捕まえる精密動作。
鰭状の翼は、自分より遥かに大きな敵を断切る刃にもなる。
同じ亜竜種の牙を通さない鋼の肉体。
防御力、機動力、攻撃力、膂力、どれをとっても尋常じゃない。
ましてやこんなに海で襲われたならば、泳ぎに特化した人魚族でも逃走は不可能。
唯一の救いは、鋼帝竜の主食が海底鉱物資源な点だろうか?
「色々考えている所申し訳ないけど、私が見せたいのはこれだ」
指示されたのは、鋼帝竜のすぐ脇に置かれた解体されたと思しき素材だった。
竜種には珍しい蹄型の足、鱗などない硬質と強靭さを併せ持つ脚部。
師匠に促され触れてみると、まさしく名前の通り鋼の感触が返ってくる。
「これには既に魔力が通っていないから、鋼の性質が優先されている。こっちの板に魔力を通してみな」
渡された金属板に魔力を通すと途端によく知った感触、解体した筋肉の柔らかさに変わる。
「鋼帝竜の筋肉?」
「正解。じゃあ特性が何か分かる?」
「魔力無しだと金属の特性が強く出て、魔力を纏わせると生体の特性が優位になる?」
「大体正解。魔力圏で覆った場合が真骨頂で、内側からの干渉に対しては弾力ある生体素材になり。外からの干渉に対して金属の性質が表在化するんだ」
鋼の肉体を持ちながら、肉体に宿る魂が操作すれば生身と変わらない。
「普通の筋肉は酸素を栄養として動くけど、これは魔力と気を栄養に収縮と弛緩を行う生体と金属の特性を併せ持つ幻想素材なんだ」
幻想素材。
自然の法則ではなく超自然の法則に属する素材の総称だ。
有名な所では竜の翼だろうか。
自然法則において数十メートルに及ぶ巨体と重量が、全長と大差ない翼で飛べるはずがない。
竜の翼は否、竜の身体は物理法則に縛られない超自然の法則で出来ている。
それは亜竜とは言えど、B級の鋼帝竜は幻想の存在だった。
「どう?人工筋肉の最適素材であっても、ティファじゃ手に入れれないだろ?」
「確かにB級の素材を手に入れる実力も財力もないから、師匠が教えなかったのも納得」
折角なので鋼帝竜の他の素材も見せて貰う。
鱗が無い滑らかな表面は、実際はハニカム構造になった正六角形の鱗が規則正しく配列され境目が無い鋼鱗。
鋼の筋肉を覆う潤滑液の役割をする鋼膜。
どの素材をとっても目が覚める思いだった。
「さて何故これを見せたかと言えば、新型装備の制作を一時的に凍結して」
「師匠」
「別の装備を――何だい?」
「ちょっとやってみたいこと出来た。工房に行ってくる」
理想の素材に出会い閃いた発想に突き動かされ、師匠を置いて工房へと駆けていた。
「小鬼の素材で幻想素材作るとか、どれだけ出鱈目なの?」
工房で試しに作ってみた素材を、師匠に見せた感想だった。
《形質変化》の術は万能ではない。
素材を経過、触媒、加工によって変化する別の在り方に変えるだけの術だ。
血は酵素によって乳へ、皮は触媒によって革へ。
結果を知らなければ、変化することは出来ない。
ならば鋼帝竜の素材を知り、幻想素材へと変わると言う事実を知った今ならば―
ただの筋肉を幻想素材へと変えれるのではないか?
幻想素材とは、幻想という触媒と元の素材さえあれば変化する在り方ではないのか?
どこか確信にも近い仮定は、屍霊術の適性と熟練度が人の範疇を超えた規格外になったせいだろう。
幻想素材への変化は可能だと、自分の魂が訴えかけてくるのだ。
魔力を纏わせたことで、鋼帝竜の特性は理解していた。
だから後は実行するだけ。
いつも通り《形質変化》を行い、いつもとは違う反応に戸惑いながら、小鬼の一房の筋肉帯が薄い金属板に変化していた。
試しに魔力を通せば、硬度を失い元の筋肉帯の柔らかさに戻る。
成功だ。
しかし、G級の素材でB級の素材は作れない。
だから生み出したのはG級の鋼帝竜の筋肉帯。
いや竜の特性を付けるのは無理だったので、鋼帝小鬼の筋肉帯と言うべきか?
「マジか…これじゃあ変化じゃなくて“改竄”じゃないか」
変化ではなく改竄と称した師匠の言葉に納得する。
幻想素材への変化は、通常の形質変化とは異なっていた。
人工筋肉を作る際、普段魔力しか消費しない《形質変化》が気と精神力を消費したのだ。
多分気と精神を幻想の材料にして、素材を改竄したのだ。
経緯はどうであれ、一番の問題は解決した。
仮想現実で組み上げていた装備を、鋼帝竜の劣化素材で組み上げ完成した。
次の課題は強化外骨格を自分の身体の様に動かす技術、魔力圏拡大だった。
魔力圏、魂殻の形は本来肉体に沿って形成される。
道具を扱う職業、職人が、道具を自らの手や足の様に操る事がある。
これは身体から魔力圏がはみ出し、道具の部分までを自らの領域と定めることで、道具を自分の一部と認識するからだ。
道具が傷つけば痛みを感じ、道具が触れれば指先で触れるような感覚を覚える。それが魔力圏拡大。
強化外骨格の輪郭まで魔力圏を拡大することで、本来神経の通っていない外部装置を自分の身体の様に操作する事が可能となった。
この魔力圏にも制限はある。
魔力圏で物を覆うには魂の覚醒率が関係しており、道具のランク以下の覚醒率では魔力圏に取り込む事が出来ない。
覚醒率に関しては度重なる死と蘇生によって、事実上纏えない素材は無かった。
他にも覆った物の質量や体積に応じて、必要な魔力量が変化する。
もちろん纏う装備が重ければ重い程、大きければ大きい程必要な魔力は増加する。
大型の獲物を狙う狩猟者の中には、身の丈を超えるような大剣や槍、弓、銃、盾を重量を感じさせずに操る人たちがいる。
魔力圏を教えられるまで、身体能力や気、魔力を良く鍛えている人たちだなと思っていた。
実際は大型武器や防具まで魔力圏を拡大していただけ。
魔力圏に含んでしまえば、自分が扱う分には質量を感じなくなる。
この技術を師匠や父さんが俺に教えていなかった真相が、互いに「あいつが教えてるもんだと思ってた」という報連相を怠った理由なのが辛い。
そもそも見かけた狩猟者について俺が父さんに質問していれば、問題がなかったのも反省するべき点だった。
まあ、この魔力圏拡大も教われれば、直ぐに出来たので良かった。
先生曰く度重なる魂の消失を繰り返した結果、魂の輪郭が広がりやすくなったのではないかと言われた。
真実は知らないが、何にせよ新型装備の実装に漕ぎ着けることが出来た。
『危険領域でよそ事を考えるくらいボケたか?』
『反動が抜けるのを待っていただけ』
『ではこれはワザとか?』
巨大な何かがこちらに向けてかけて来る。
足元に溜まる水たまりが震動を伝え波立つ。
『“障害”は突破してこそ意味があるだろ』
戦闘が終わっても、俺は隠形を纏っていなかった。
目的の相手が釣れるとは思っていない。
近しい存在でも十分。
だが、どうやら当たりを引いたようだ。
俺と相手の間にある障害物を軒並み無視して、一直線に突き進む音が響く。
倒される木々の向こうから現れたのは魔猪だった。
俺と小竜を襲った魔猪は小竜に討伐されたから別個体だが、纏っている雰囲気とサイズはほとんど同じだった。
『なるほど雪辱戦か』
『ただの性能テストだから』
あの時の魔猪に対して恨みがあるかと言えば、正直特に何も無い。俺が弱かったから死にかけたそれだけだ。
目の前の魔猪は、赤竜の鎧に辿り着く通過点であり試金石でしかない。
『じゃあ、始めますか』
密度の上がる時間。四肢に力を籠める魔猪。
衝突は一瞬だった。
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