2 中と央(承前)
彼らを小中のころから知っている人なら、「何故二人が同じ高校に通っているのか」と驚くに違いない。
「お兄さんは確かに勉強ができるからわかるけど、弟さんは何で?」
って全員思っているに違いない、と央は思う。正直に言って央は勉強ができない。ただ小さいころから続けてきたサッカーには自信があり、金倉高校は毎年インターハイに出場するほどのサッカー強豪校でもある。そんな金倉高校に入ることを、央は小学生のころから夢見ていた。
しかし、中学生になって現実を知ることになる。金倉高校はサッカーの強豪校であるだけでなく、県内でも五本の指に入る進学校であり、入学するにはそれなりの学力が必要であること。そして、央が金倉高校に入学するだけの学力を身につけるには、中学3年間・毎日24時間勉強しても絶望的であること。そしてそして、気弱なオタクだと常日頃見下していた2歳年長の兄、中があっさりと金倉高校に合格してしまったこと。
この三つの現実は、央を打ちのめすに十分だった。もう母さんに拝み倒して地元サッカーチームのユース試験を受けさせてもらうか(月謝やらいろいろお金がかかるからって反対されたけど)、あるいは県内の、他にもサッカーが強い高校に入るか…
そんな央に僥倖は降って湧いた。央が高校受験を迎えた年、金倉高校が試験的にサッカー推薦の枠を新設したのだ。定員はわずか5人。央は少しためらった。夢にまで見た金倉高校に入学できるチャンスだ。しかしその金倉高校には兄がいる。兄を追って入学したとは露も思われたくない。昔から何かと比べられてきて、高校でもまた比べられることになりはしないか。
しかしながら、央の元来持つ楽天的な性格は、危惧よりも希望を選んだ。
案の定、入学した央を待っていたのは、兄との比較だった。しかし、彼はそれに動じなかった。彼にはサッカーがあるし、根暗な兄とは違って交友関係も広く、入学してすぐに同学年の可愛い彼女ができた。今度は中が比べられる番だ、央は時折廊下を一人で歩く中を見て優越感に浸った。俺とは違ってあいつは一人で、休み時間を共に過ごす仲間もいないからああして一人図書室に通っている。俺はあいつとは違う。
ある日、友達と雑談を交わしていた央の元に、彼女が歩み寄ってきた。二人の関係はクラスではすでに公認だったため、周りの友人が囃すように声を上げた。
「ちょ、やめろよ。で、何」
照れ臭さを押し隠しながら彼女に問うと、彼女は教室の戸口を指差した。
「お兄ちゃんが、呼んでる」
はっとして、指差した方向を向いた。恥ずかしさと母に知られた時の面倒くささを避けるために、家族には彼女の存在を内緒にしていた。兄がここにきたということは、今の様子を見られたか。彼女のことを感づかれてしまったのではないか。
やや焦って戸口へ駆け寄った。ほぼ同じ身長の中は、青ざめた顔をして目はうつろだった。良かった、気づかれてない、と安堵したのもつかの間、中はかすれた声でこう告げた。
「荷物まとめて、職員室に。祖母ちゃんが、死んだって」
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