謎小匣
名浦 真那志
1 四人(家族会議①)
真四角の部屋。
真四角の机。
その上に置かれた真四角の匣。
その周りを取り囲むように、四人の男女。
彼らは匣を凝視したまま動かず、喋らず、まるでこの部屋の時が止まってしまったかのようだった。
男は家長として、口を切るのは自分だと思っていた。しかしどのような言葉でこの沈黙を破れば良いのか決めあぐねていた。
女はこの不毛な時間から逃れたいと思っていた。しかし自分が口を開けばまた諍いを生むのではないかと危惧し、それがまた新たな不毛な時間を生み出すことを知っていたので口を開かなかった。
男は考えていた。家族会議だと呼ばれて階下に降りたのに、これでは全く会議ではないではないか。早く階上に戻って勉強を再開したい。
男は飽きていた。彼女とLINEしていたところを呼ばれ、よくわからない匣を前に座らされている。会話が中断したため、きっと彼女から返事を催促されているかもしれない。あ、画面つけっぱだったかも。読んでもないのに「既読」がついて、彼女には「既読スルー」されたと誤解されてしまう。早く階上に戻って返信したい。
突如、沈黙を切り裂くように固定電話が鳴った。弾かれたように四人は顔を上げた。この時の女の身のこなしは、中年とは思えないほど素早かった。
「はい、
事務的に言葉をつなぐ彼女を、三人の男は見るともなく見ていた。
「なあ、おふくろ」
受話器を戻し、テーブルに戻った彼女に男の一人が声をかけた。
「上戻っちゃだめ?試合の連絡確認したいんだけど」
「後でもいいでしょ、今はそれより…」
「ちょっとだけだし、準備するもんもあるから、早く確認したいの」
苛立ったように言葉を切る。女は大げさにため息をついた。
「いいわよ。ただ5分経っても戻ってこなかったらお小遣いカットよ」
「は?関係なくね!?てかさっきから何も話さないで何が家族会議だよ」
「何その口の利き方!」
「いいじゃないか、同じ家の中なんだから、呼んだらすぐ降りてくればいい」
年長の男が口を開いた。
「もう、お父さん!甘やかさないでよ、だいたいお父さんが」
女の怒りの矛先が年長の男に向いた隙に、さっきまで言い争っていた男が勢い良く椅子から立ち上がり、部屋の扉を開けて外へ出て行った。扉が閉まると同時に、階段を駆け上がる音が上へとフェードしていった。
「
ふん、と女は鼻から息を吐いた。
「…ところで、央も言ってたけど、今日の家族会議の議題って何?」
最後まで黙っていた男が口を開いた。
「まあ、何となくわかるけど。祖母ちゃんのこの匣のことだろ?」
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