季節不明・自宅浴室にて
「うーん、次何書こうかな……」
そう考えて思いついたのは、わりと情けない話だった。下手をすると失笑を買いかねないエピソードである。
しかし、不思議な体験ということで浮かんでくるのは、やはりその話なので、今回は恥を忍んでそのときの話をしようと思う。
12~15歳の時期には中学校に
もちろん、私も御多分に漏れずそういう妄想をしたりしたものだ。
これは、そんな妄想に関する一幕である。
* * * * * *
妄想。これはほぼ誰もがするのではないだろうか。そして、時にはセクシャルな妄想なども。
当時は、そういう意味ではいい時代だった。
夜中にテレビをつければ、地上波でもいわゆる「オトナ」の番組を見ることができた。そこではアダルトビデオの宣伝であったり、セクシー女優たちによるレディースコミックの朗読コーナーであったり、中学生男子の心を鷲掴みにするような要素が盛りだくさんだったのだ。
また、家族に秘密の夜更かし、というのも当時の私には絶妙なスパイスだったに違いない。
そういう風にして、私はたちまち深夜番組に没頭していき、それを経て深夜アニメであったりその時間帯に放映されていたセクシー映画などに夢中になっていた。
とにかく、いい時代だったのだ。
そんな折のこと。
前回で述べたように、私は自分でも認めざるをえない程度の怖がりである。そのくせホラー番組やホラー映画は大好きであり、後で1人で居間を出ることすらままならなくなるくせに、放送日程をチェックして録画予約を欠かさない少年だった。
そして、その日も例によって20年以上続いており、現在では年に2回
(春・秋の2回)に放送される番組を視聴した後、部屋を出るのが怖い状態で入浴することになった。
土曜日のことだったので翌日の朝に回すという選択肢もあったが、その日は遠出をして汗をかいていたため、やはりそれは気持ち悪い……と思ってしまったのである。
結局、「もっと遅くなるともっと怖くなる」という、英語の構文(比較級節+比較級節だっただろうか)の練習にでも使ってほしいような状況の中で、私は入浴したのである。
「怖かった……」
温かい湯船に浸かりながらも、恐怖は褪せない。
ならばさっさと上がって部屋に戻ればいい話だったのだが、正直、湯船から出るのも怖くなってしまっていたので、そうすることもできなかったのだ。
それでも、体を洗わなくては風呂から出られない(出たくない)。
気持ちを必死で奮い立たせて、ようやく頭を洗い始める。音漏れするとうるさく感じられる時間であったこともあったし、隣家から万が一見られてしまっても気分が悪いので、窓は閉めておいた。
当時、私は浴室にいるとき、好んでしていた妄想があった(以下は、健全な男子中学生が思い浮かべていたただの妄想である)。
妄想の中の私は、何かの臨時収入によって大金を持つことの出来た家庭の息子である。そして、数人の給仕を雇うことができている。……もうこの時点でお察しいただけた方もいることだろう。
「あぁ~、おっとりして綺麗で巨乳で可愛い20歳くらいのメイドさんに背中とか洗ってほしい……」
※ もちろんお約束として、この発言は私自身の判断で多少の修正を加えたものであり、修正前については「とか」の部分から察していただけると幸いである。尚、ここで語られている女性はあくまで【男子中学生】だった私の【理想像に過ぎない】ことをご理解いただきたい。
湧き上がる恐怖を抑える意味もあって、敢えて声に出してみせた私。
その左側、浴槽側の耳元に。
ふっ
空気の流れが、飛び込んできた。
「……………………」
鏡や浴槽、前方にある窓を確認して何も言えなくなった私が慌てて浴室を後にしたのは言うまでもない。
浴室でこのような体験をしたのは、後にも先にもこの1度きりである。
* * * * * *
「改めて、とんでもない少年だったなぁ……」
作業用に検索して流していた「百合曲再生リスト」に舌鼓ならぬ耳鼓を打ちながら過去を振り返る。
いわゆる「武勇伝」のようなエピソードは皆無だが、恥の多い半生くらいは送っていたのかもしれない。少し襟を正すべきか、と今更ながら思わなくもない。
卑猥な妄想は霊を遠ざける。
よく言われるこの迷信が真実とも言い切れないということを図らずも証明してしまった思い出である。
家族全員が居間に揃っているはずなのに、上の部屋から何か聞こえた。
「…………」
辺りを窺ってみる(誰か、行ってくれるだろうか?)。
誰も立つ気配がない。
くっ、そんなにテレビを見ていたいか……!
この話を公開したら、少し見てこよう。
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