第2話
大学に入学してから1年と少しが経ち、だいぶこの街にも慣れてきた。都会でもなく田舎でもない、ちょうどよい空気がこの街にはある。私のお気に入りは線路沿いにある喫茶店だ。席はそれほど多くなく、10人ぐらいが入れる小さな店。電車が通るたびに騒音に支配されるこの場所では、電車が通らない僅かな時間に周りの人達とコミュニケーションをとる習慣がある。JRと私鉄を結ぶこの街は、長いと5分、短いと1分ほどの時間が静寂に包まれる。この喫茶店では、その時間が有意義に使えるのだ。電車が通っている間は読書をして、電車が通っていない静かな時間に隣の人と話す。講義の合間や終わったあと、ここで過ごすのが日課になっていた。
7月の終わりから続く炎天下の街は、さながら灼熱地獄とも呼べるような惨状で、会社員や学生がつらそうに電車から降りていく。電車から降りて会社に向かうことを仕事にしているようですらあった。残念ながら私もその一人であった。冷房が効き少し寒いぐらいの車内から降りたくない気持ちで、でもそんな意志では単位という力に抗うことはできなかった。
講義が終わりいつものようにあの喫茶店に向かう。できるだけ汗をかかないように慎重に歩き、日陰を渡っていく。吸血鬼が街にいたら同じように行動しているだろう。そんなことを考えながら、喫茶店についた。私が店に入ると店主のおじさんは
「ゆみちゃん、こんにちは。今日もいつものでいいかい?」と声をかけてくる。私は、親指を力強く立てて意志を示した。もちろん、体は弱っており椅子に倒れ込んだ。
店には2人ほど来ていた。よく来るサラリーマンの30過ぎのおじさんと見かけないお兄さんであった。いつものアイスコーヒーをストローでスーッと飲みながら、騒音に包まれた店の中でお兄さんを観察していた。
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