第22話

僕は彼(たぶん)について個人情報は何も知らない。いや知ってる人はいないだろう。GITHUBでツールとソースコードを公開しているだけで、ブログがあるわけでも、チャットアカウントほか個人的情報発信アカウントはついぞ公開されていない。A_Killerの名前だけしか残っていない。

A_Killerが得意なのは高速化だった。面白そうなツールが公開されると、それをフォークして高速化プロジェクトを開発する。それがまた、元から比べるとめちゃくちゃ速い。サイズも小さい。スマホを中心としたハンドヘルド端末においてこの魔法ともいえるほどのスキルは、僕があこがれてやまない。

あこがれて「犬のおまわりさん」のはなうたをまねているくらいには。さっき遠藤部長が「犬のおまわりさん」と口にしたのは、僕がプログラミング中に困ったときには、はなうたで鳴らしているのをよく知っているからだ。鳴らしている間は、なんとなくA_Killerの力が降ってきそうな気がしてる。

と、僕がぼんやりしていたのだろう。部長と宮本さんが僕を見ているのに気づいた。

「宮本さん。さっき僕らの名前を呼んでたけれども、古株さんから紹介されてるの?」

「あ。ええ、そうですね。聞いてます」

「とはいえ、そちらだけ自己紹介ともいかないので、改めて自己紹介しましょう。ほら、国枝」

ここまで説明されてわかったのだけれど、宮本さんしか自己紹介していない。僕はあわてて紹介を始めた。

「こちらが開発部部長の遠藤先輩です」

「あらためて。3年の遠藤延雅えんどうのぶふみです」

「こっちが算所誠一さんじょせいいち

「どうも。算所です。国枝とは同級生です」

「最後が安高士郎やすたかしろう

「はじめまして、宮本さん。もう一度。安高です。いや、ほんと明日が楽しみです」

「これに僕を入れて4人で開発部全員です」

「こちらこそよろしくおねがいしま」

と全員が一礼した。このやりとりにジャパニーズ感がある。魔法学校に通っていても、基本は日本人なんだなと思う。

「古株さんから全員紹介されていたってのがなぁ」

遠藤部長が頭を掻く。「ここまで全部予定通りなんだろうな」

「なんか気に入らないですね」

算所も同じきもちらしい。

僕はどう思っているだろう。いま、何を一番におもっているだろうか。


「すみませんでした」


なんどめか判らないけど、また謝った。


「許す、許さないはないよ、国枝」

遠藤部長の表情と声はいつもと変わらない。非常なまでにだ。

「こういうときはまず確認と決定。というわけで宮本さん」

「はい」

「目的は正しいデータの会の壊滅でいいのかな」

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