第20話

あとはまかせた、とばかりに古株は宮本さんを残して部室を出て行った。やっと雰囲気が緩んだ。

「国枝」

遠藤部長が僕を見た。

「はい」

「ああいうときこそ、いつもみたいに、犬のおまわりさんでも鼻歌でならしながら対応しないとね」

そういうと、手近な椅子にいきおきよく座った。

「疲れたー。面倒にはなれてるつもりだったけど、今日のは程度が高すぎるよ」

そういって笑う。

「あ、あの」

「あひゃっ!?」

宮本さんの小さな声に、僕が変な声が出た。

「そ、そうです! 紹介しますね、彼女は宮本八重さん」

「それはもう聞いた」

算所の声もつかているのがよくわかった。すまん。

「僕は安高士郎です! よろしく!」

安高はまったく疲れてなさそうだ。理由を聞いたらたぶん「俺、関係ないじゃん」とかいいそうだ。いや、絶対そういうな、こいつは。

「あらためまして、宮本八重です。昨日は国枝君に助けてもらいました」

僕を見る。「ありがとうね」。その一言で収支は大きく黒字に傾いた。いやー、あのときにむちゃした甲斐があったというものですよ、これは。

「古株さんとしては、あとの説明は宮本さんからあるみたいな雰囲気だったけど、正解?」

遠藤部長が宮本さんに確認する。

「そうですね、明日の件については私から説明します」

「明日はまたみんなあつまって、ブロッケン女子魔法高等学校で、とか? ここから近い学校なの?」

「いえ、ドイツの片田舎の学校です」

「俺、パスポートもってねーよ!」と安高。

「それは問題ないです。移動許可が出ています」

「はー。それって僕たち全員分?」

「そうですね、遠藤さん、国枝君、算所さん、安高さんの4名分です」

「はー。古株さんは最初からここまで用意すみだったと」

「あとから足すのは面倒ですから」

「で、その移動許可というのは?」

「ここからブロッケンまでの移動魔法使用許可を指します」

「そうそう、そこや」

算所がおっくうそうに顔を上げた。

「魔法? 本当に?」

古株が突然ブロッケン女子魔法高等学校、と正式名称をつかった、つまり「魔法」を隠そうとしないところに驚いた。個人情報保護魔法とか、まったく説明もなく魔法が「あるもの」として話を進めていくのも驚きだった。

「算所。その辺は明日になればわかるところなんだろう」

遠藤部長がやんわりと押さえ込む。その意図を察した算所はまた不機嫌そうに椅子にもたれなおした。

「魔法! ほんとうにあったんだ!」

安高はさすがだ。学校の成績なら学校随一なのだけれど、この状況への浅い反応はいつもいつも不安を感じる。つまりは、自信があるのだと思う。自分ならなんとかなる自信が。

「明日の放課後にここに集まればいい?」

「そうですね。あつまったら私がここにきますので、それから移動となります」

集まったら彼女が現れて移動、と不思議な手はずではあるが、それもまた魔法なのだろう。便利だな。魔法。プログラミングも便利だけど、それ以上だ。

「で、国枝」「そう、国枝」「国枝君?」

開発部の3人が僕を見た。

「まずは全部話してもらおうか」

そんな怖い遠藤部長の声は始めて聞いた。

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