第17話
そのとき僕は騒動のときの2人の男子高校生を思い出していた。入店した宮本さんをみて、画像検索をしたであろうあの2人だ。結局検索では彼女の特定にいたらなかったような残念な顔を見せたあの2人だ。制服姿だったのだから学校の特定くらいはできてあたりまえだろうに、あの2人の残念な、不思議そうな顔の理由がわかった。彼らはアシストグラスをつけていたからだ。そこに表示された情報、宮本さんの姿は本人のそれではなかった。それをキーに検索クエリを発行してもなにも帰ってこないだろう。まさか民間の提供する検索エンジンデータベースまで改変できない……ではない。
魔法なら可能なのかもしれない。
「そうそう、国枝君、それ。理解が早い。時間コストがかからなくて助かるよ。そう、そんな魔法は誰もが自由に使って許されるはずがない。そしてなにより魔法で実現できる操作はその程度じゃない」
古株の目を見る。
「だからね、いろいろと協力関係となる。こっちの許す範囲でなら使っていいし、使ってほしいときもあるからね」
「いろいろ面倒なのよ、便利なものってね」
宮本さんは怒っていた。いろいろあるのだろう。
「まぁ、国枝君はその制限のおかげで世界は平穏なんだから利益を受けている側だからね」
いやな話だったので、いやな顔をしてみせた。理解はできる。昨日まで魔法の存在を知らなかったのがなによりの証左だ。徹底的に制限、管理されている。一部の人間が使える力を、使えない一部の人間が制限している。その関係は力のないものがあるものの上位にあり、ひどく不思議に思える。一部対一部なら。一部対その他大勢ならこの関係が成立しなくもないだろう。
つまり、僕たちはみんな人質のような、いや、人質だ。
「宮本、どこまで彼に話した?」
やっと古株が宮本さんを見た。僕にはわかる。それは嘘を使わせないためだ。彼女がここに来たのも命令されたからだろう、とようやく想像がついた。
だとしたら、今のこの時間はなんのために使われているんだろう。
「……正しいデータの会の名前は出しました」
「宮本さんからその名前を聞きました。あの大男の正体、その組織の目的まで」
「なるほど。で、君はどうする?」
考えて見なかった質問だった。どうする? どうしたい? 次の正解はなんだ? どこにあるんだ?
再び僕を見た古株が目に、視線に力をこめたのが判った。そうだ、僕は次なんて考えていなかった。
「突然なんだよ、なにもかもがね。生きていると。その間には何だって突然現れる。そして大体のそれは想像もしなかったものばかりなんだよね、困ることに」
軽い言葉で重い内容を、力いっぱい殴りつけるような視線とともに送り出してくる。僕はいままで、こんなに殴られた経験がなかった。突然でかわせない。そうなんだって突然なんだ。
「しかし、もう君は決めてしまった。今の君からすればとてもとても残念なことに」
僕は歯を食いしばった。さっきのやりとりは思った以上に、覚悟した以上に、重かったのだ。
「古株さん。言い方はありますし、なにより、さっきのあのやりとりは、古株さんが選択肢を誘導したように聞こえましたが?」
「君はそれがわかった。国枝君はわからなかった。そう考えるのは妥当かい?」
「……妥当です」
「ですが、失礼極まりないです。謝ってください」
僕が後悔に塗りつぶされて、押しつぶされて、動けなくなったそのとき。僕も、算所も、安高も言葉がでなくなったそのときだった。
「うちの大切な部員なんでその辺で」
遠藤先輩の声だった。
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