第15話
古株は意外な顔をして、次に天井を見上げた。僕からみえる彼の口の動きから、それは笑顔を隠したかったのだろうと思えた。
ゆっくりをかおを戻した。さっきまでと違う。いやな大人の顔。秘密があると隠そうとしない顔。それは、たぶん、こっちが対等だと理解されたからだろ、とうぬぼれておく。これで1点でも取れたか。
ここまで多機能な大人とのやり取りは初めてだ。大人同士でもうそばかりを使い、そして、ここまでうそで戦いにきた。
そこまで身構えなくてもいい、と僕の中の、僕の一人が注意する。疑うと、検証に時間がかかり、そして、信用するために覚悟とコストがかかる。そしてだいたいが信用できない前提なのだから時間がかかる。
できることなら。
「そうか、なるほどだ」
古株はそういい、手をたたいた。
「このままでは時間がかかりすぎる。僕はね、時間は取り返せないコストだから、もっとも貴重だと信じている。だからこれで終わらせよう」
凄みや暴力はなかった。さっきまでと変わって、抜け殻のような雰囲気だった。
「まぁ、いってしまうと、僕は警察官だし、だけれど、それから連想される警察官ではない」
僕たちは聞くだけしかできない。意味がわからない。
「さっきの応接室でのやり取りは、もぐれる深さのテストようなものだと思ってほしい。国枝君がどこまでもぐれるのか。そして、君たち2人も、もう、もぐるしかない」
算所と安高を順に見た。たぶん、安高はなにもわかってない。
「その上で、簡単な質問だ」
「ここまでか、もっともぐるか。君たちが決めていい。それくらいの権限が僕にはあると理解してくれていい」
その意味はわかる。
「しかし、今ここで、となる。さっきも言ったけど、時間は取り返しのつかないコストだからね」
算所と安高が僕を見た。決めていいのか。決めるか。どうせ。
こんな面白い事故なんて、この先ないだろう。
自分でコントロールできない面白さ。プログラミングのような完全なコントロールを目指すべくもない。たぶん、この面白さはパッチを作り続ける面白さと似ているだろう。
「3人まとめての返答ですよね」
「当然、でいいのかな。それはそっちの問題だと思うけど」
「わかりました。底まで潜ってみせましょう」
「そっちに2人はそれで?」
「あ、あと1人増やしといてください。都合4人。一番潜れるだろう人がもれてますわ」
遠藤先輩を忘れていた。たぶん、一番潜れる。一番ながく呼吸を止めていられる。そしてなにより。
何回でも潜れる。あの人は。
たぶん、決めたのは僕でも、まっさきに不覚まで潜るのは遠藤先輩で、潜り方を教えてくれる。なさけないが。
「了解だ。4人。こっから先は、そこのない海だ。海?」
自分で言って首をかしげている。
「まぁ、ともかく、簡単に伝わる答えだけ。彼女の名前は宮本八重。それは聞いてる?」
僕はうなづいた。もう呼吸がしづらくなってきた。つまり。もう戻れない。
「……おもったより覚悟がいいね。時間もかからない。よい」
古株は腕時計に目をやった。薄い金色だった。薄い金色だった。魔法がかかったみたいに、薄い金色だった。
「ま、というわけで、これから彼女にここに来てもらうんだよね」
「は?」
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