第14話

「古株さん」

算所の声だった。

「僕は算所といいます。国枝とは部活の友達です」

「うん」

「これは録音してもいいんですか?」

緊張を隠そうとしているように聞こえる、薄く張り詰めた声だった。

「うーん、そういうのじゃないんだけどなぁ」

「僕らにしますと、そういうの、には思えないんですよね」

「なるほどねぇ」

「大人が一人だけですからね、それも警察となるとね」

古株が黙った。僕はそれを合図に顔をあげて彼を見た。

すこし、笑っていた。

「平針先生が一緒じゃないのは、なぜなんですか?」

算所が質問を続ける。

「あの場はもうおわったからね。これは僕の個人的な興味だよ」

「でも、あれ、止まってますよね」

算所が指さしたのは教室天井隅の監視カメラだ。止まっているのか。じっと見たが僕にはわからない。

「……勝手を言って、止めてもらった」

「それで、個人的な趣味、とはならないんじゃないですかね。少なくとも、平針先生はそうは思っていない」

「カメラを止めたのを認めたことは、僕からの相当な譲歩だとは思えないかな」

「でしたら、今から僕の個人的趣味で録音しますが」

「むつかしいもんだね」

「大人と子供だとこうなりますよ」

「録音してもいいけど、うーん、むしろ、国枝君とふたりにしてほしいんだけど」

「この2人と一緒なら、その個人的趣味につきあってもいいですよ」

僕が答える。面と向かってなんてごめんだ。

「信用ないなー。仕方ないか」

「あと、僕からも条件があります」

「録音も同意してないんだけどな……。君の条件も価格を聞いてからでいいかな」

僕はひとつ息を吸う。背を伸ばす。疲れ切ったふりを止める。この一瞬だけ。

「古株さんの本当の所属を教えてください。そもそも」

目をそらさない。じっと見る。彼のその、嘘の、多そうな目。

「警察官なんですか?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る