第13話

結局、本当に僕への聞き取りはあれで終わった。

「おい、おつかれ」

「おかえり」

応接室を後にして部室に戻った。算所と安高が迎えてくれた。

「お、安高今日は来たのか」

「帰ろうとしたら国枝が呼ばれてたからさー。見に来た」

そういう奴だ。安高は小柄でもしゃもしゃの茶髪の、開発部の歴史でも珍しいタイプだろう。とてもではないがプログラミングをするようには見えない。そして書けない。ゲームを作りたいため開発部にいる。入部以来ときどきゲームの企画書を書いて算所に相談を繰り返している。ほとんど算所につぶされているが。「そんな大作は俺1人じゃ無理だろ」とは算所の愚痴だ。

「で、なんだったんだ」

算所がモニタを見たまま聞いてきた。手は動いているのでなにか書いているようだが、完成するのはなのが残念だ。あとからソースコードは読ませてもらおう。

「なんつーか、警察沙汰だった」

「は?」

「ほら、途中のコンビニが壊れてたじゃん」

「ああ、見た見た」

「昨日なんだけど、その現場にいたんだよね、僕」

「ほうほう」

「お前がやったのか?」

「バカ言うな。で、事情聴取だった」

「防犯カメラの映像からにしても、お前を特定するのが早いな」

「……特定されやすいんだよ、僕」

その一言で算所は察したようだ。僕を見て気の毒そうに眉を寄せた。その視線に首を傾げて苦笑を返した。

「まぁ、結局、聞かれたことに答えただけだよ」

「そりゃそうか」

僕は椅子に前後ろに座って、背もたれに顔を伏せた。ほんと、疲れた。大人との会話は疲れる。プライドがきしむんだ。

その時。

「入っていいかな?」

ノックの音に続いて古株の声がした。僕はゆっくりと顔をあげた。至極、おっくうで、面倒で、厭で、勘弁してほしかった。さっきは簡単に終わって疑わしかったのだが、その理由が判った。ここからが本番だ。こっちのフィールドで再戦だ。だが地の利はない。

「先生に聞いてね。たぶん部室だろうと」

古株は返答を返す前に入ってきて、すぐの椅子に腰かけた。

「この人は、古株さん。さっき言った警察の人」と簡単にふたりに紹介した。

「……それで、まだなにか?」

彼の顔を見る。先ほどとは違って、ずいぶんとがないように見えた。それもテクニックなのだろう。信用するのは無理だ。

「まぁ、そんなところだね。さすがにあそこでは言いづらいなにかがあるかなとは思えたし」

「……聞かれたことには答えたはずですが」

「うーん、そんなに構えなくてもいいよ。あの場の全員同意の上で今回の件での事情聴取は終わりだから」

「だとしたら、今のこれは何なのですか」

「なんというかね、個人的興味と、そうだね、なんというか、大人の嫌なアレだと思ってくれていいよ」

「具体的ではないですね」

「それは、お互いだろう?」

そう言って、古株は笑った。危ない。危険だ。これはゲームではない。ましてやプログラミングでもない。ワーニングですら致命傷となる。

それくらいに理解しなければならない。そしてなによりこれは長そうだ。ミスをおかすチャンスにあふれている。

疲れて、だるそうな姿を見せながら、僕は必死だった。この姿勢はまず身を守る鎧だ。


第2ラウンド開始。

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