第11話
僕は刑事を見返した。髪の短いメタルフレームのめがねをかけたおっさんだった。
「といいますと?」
「……昨日午後2時ごろ、セブンイレブン寺田一丁目店が何者かに襲われた。このセブンイレブンは駅からこの学校までの通学路にあるから、今朝国枝君も壊れた店を見たと思うんだけど」
「そうですね、見ましたね」
「それで、昨日の監視カメラの映像に君の姿があったからこうして聴取にきたというわけだ」
相手が簡単に手札を開いたように感じた。
「なるほどです。了解しました。で、何をしゃべればいいんですか」
僕も簡単に応じる。面倒はごめんだ。先のセリフからそれは相手も同じだろうと思えた。
「ああ、その前に、私は県警生活安全課の古株だ」
「?」
「……国枝」
平針先生が名刺を渡してくれた。そこには「埼玉県警 生活安全課 古株 新一」とあった。
「マジすか」
「参ったことにね」
おもわず荒れた言葉を口にしてしまったが、古株は気にせず答えてくれた。なるほど。懐柔とはこの手管なのだろう。このゲームはなかなか細い綱渡りを要求されているようだ。
「こちらは、石橋署の田中さん」と平針先生が制服のおっさんを紹介してくれた。急に偽名っぽく感じる。僕は田中さんに会釈を返した。焼けた肌色をした怖そうなおっさんだった。警察官にしか見えなかった。当然だけれど。
「さて、自己紹介も終わったところで、聞かせてくれるかな」
「そうですね……。学校帰りに寄ったんですけど、突然マスクをつけた大男が自動ドアを壊して入ってきました」
「そうそう。その大男に心当たりは?」
「全くないです。初対面でしたね」
「そして、そのあとは?」
「なんか、女の子が大男に向かっていきましたね」
「彼女は知り合い?」
「いえ、彼女もまったく初対面です。そうですね、むしろ」
「むしろ?」
「かわいかったので、写真があればほしいくらいです」
「……うーん、なるほどね」
古株と田中がすこし顔を動かして見合う。嫌な感じだ。どうにも僕がなにか疑われてるように見える。あの時の男子のように逃げたほうが正解だったか。でもなー。
「まぁ、これがその写真なんだけど」
古株が手帳から写真をとりだし、テーブルの上に置いた。平針先生がそれをとり、僕に渡す。
「監視カメラの映像からだからあまりきれいではないけれど、どうかな、写真を見てもう一度考えてほしいんだけど、知ってる人かな?」
僕はその写真を見つめた。
ポニーテールにネコ目の女の子の写真だった。口をいっぱいに伸ばした表情。多分、それは「不敵な笑み」ってやつに見えた。着ているのはオレンジ色のセーラー服。昨日のどの瞬間なのだろうか。
いや、それよりも。
「いえ、やっぱり、知らない女の子ですね」
「本当に?」
「ええ。誓って」
僕と古株の視線が絡む。力強く、太く、絡む。だって、これは、本当に、知らない女の子だった。これもなにか事情聴取のテクニックなのだろうか。
「よく見ろ、国枝」
平針先生が強い語調で詰め寄ってきた。しかし。
写真を見つめる。
これはいったい誰だ?
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