第8話

「魔女がいる?」

同じ言葉で聞き返した。理解が追いついていない証左だ。魔法が存在している、不同意データベースが狙われている、そして、その2つは結び付く。らしい。

「もはや魔法でも使わないとどうにもならないからね」

彼女の表情は複雑だ。口の端をあげ泣きそうなまなざしを添える。

「でも、それってどうにかするものなの? データベースだっけ」

一応知らないふり。フル男のモニターを攻撃するような自作アプリを用意しておきながら。しらじらしい。でも、ちょっと隙のある男の子って、年下だし、好印象じゃないかと思うんだよね。

「うーん、そのところはね、私もおんなじ。ほっとけよ、と思うんだよね」

「ですよね。だよね?」

「いいよ、だよね、で。──まったくもってその通りなんだけど、そうは考えない魔女がいて、実力行使しかも魔法で破壊活動、テロまがい、じゃないな、テロ行為をとってるとなると、それは止めなきゃならない」

「君が?」

「私だけじゃなくて、大勢がそう思って、いろいろやってるんだけど、今のところ私のチームが最前線。まだ大人は本気じゃないんだろうね」

「遊びじゃないのにね」

「そう、現実に被害は出ている。つまり無駄に金が動いている」

「……多分、僕はそれを魔法の、魔女の仕業とは想像もしないなぁ」

「でしょ。そこなのよねー。とはいえ、魔法界側としては、言われる前に解決したほうが低コストで済むだろうにね」

「バレないなら、ぎりぎりまでひっぱるのは、よくある話だ」

「大人っぽいこと言うねー」

やっと彼女が笑ってくれた。こんなつまらない、大人の事情についての話でも、彼女となら楽しく感じるし、笑ってほしい。できれば僕の渾身のジョークでね。

「説明し過ぎたんだけど、こんなところ。誰にも言っちゃだめよ」

そう言って、人差し指を唇に当て、片目をつむった。急に吹き出したお姉さん風に僕は勝てそうにありません。

「そうですね、言うあてもないです」

「じゃ、そういうことで、そろそろここを出ないと」

「ここ?」

「この広場。広場っていうか、私が空間魔法でひろげたのだよ」

「そりゃ便利」

「でも、制限時間付き。もとは路地の行き止まり、ビルの裏なんだから」

そう言って彼女は踵を返して歩き出す。僕はあわてて彼女の後を追った。怖いから、つんのめった、不格好さでもって、遅れまいとする。

「このあたりの詳しいの」

「全然、初めて」

「こんな路地があるって知ってたからさ」

「準備しといただけよ」

「なるほど」

でたらめに逃げた訳でもなく、偶然決戦地に出た訳でもない。振り回されて投げ飛ばされた僕は準備のうちなんだろうか。だったら当日までに教えてほしかった。

「さて、今日はこれでおしまい。国枝君、ありがとうね。楽しかったよ。一人でやるよりずっと楽しかった」

後ろ向きに歩きながらそう言う。嬉しそうに笑う。壮大な戦いだとは微塵も思えない。魔法のある世界とない世界の2つを舞台にした壮大な戦い。

僕の世界はたったいまから「魔法のある世界」になった。彼女は目の前にいる。魔法だってそこにあるんだ。絶対。知らないだけで。

僕がいま、一番知りたいことは。

「でさ、宮本さん、魔法学校ってスマホは使えるの?」

「あったりまえじゃん。女子校生なんだよー。でも、寮の中でだけなんだよねー。外は圏外。電話会社の努力が足りないよね」

一番知りたいことの一歩手前。

「あのさ、LINEは使ってる?」

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