第2話
従者のように逆らうことなく開いた自動ドアを抜けて彼女が店にと入ってくる。店員は視線を動かさない。彼女のデータがきれいなのだろう。
その長い黒髪が印象的だった。彼女も制服姿で白いシャツに紺色のワンピース、腰には紺色のベルトと古風なデザインだが、その雰囲気によく似合っていた。
雑誌棚の前にたむろしていた、これも学校帰りであろう男子高校生が2人が瞳を動かしたのが判った。彼らの茶色のブレザーの制服は僕の学校と最寄り駅を同じにする高校の制服だ。なお僕の学校は古風な紺の学生服だ。彼女のそれと同じくらいにだ。
そして、彼らもアシストグラスをつけている。もともと「アシスト」とされたのはスマートフォンの表示支援用デバイスとして発売された。今では視線で操作が可能となり、ほとんどの人がアシストグラスを利用している。おそらく今彼らは彼女の顔情報から、名前や学校などの個人情報を検索しているのだろう。僕も気になるが、彼女の顔情報はグラスを使わないと取得できない。いまさら鞄にしまったグラスをあわてて出すのも恥ずかしい。
しかし、彼ら2人はすこし首を傾げると、ついで見つめあい、また首を傾げた。そのしぐさから、どうやら彼女についてのデータが検索できなかったのだろうと思えた。制服から学校くらいは特定できたのだろうけれど。すこしいい気味だった。
そこまで見て、僕は彼女からあわてて視線を外した。僕はお茶に伸ばした手を止めたままだった。もっともっと彼女に視線を向けたいのだが、恥ずかしくてそれもできない。くそう、思春期め。
テンポよい足音が後ろから聞こえる。近づいてくる。向こうから来てくれるのなら大歓迎だ。いや、そうであることを祈った。彼女もお茶を買いに来たのだと。
足音がとまった。僕の隣に彼女が居た。ありがとう、コンビニの神様。
これなら彼女を見ても不自然じゃない。横を見る。身長は180センチの僕の肩までくらい。黒髪が照明を照り返している。視線を動かすと髪の上を光の模様が滑っていく。棚に向いた彼女の顔は険しい。すこし口を尖らさせているのが、これまでの想像とはちがって、面白く見えた。
もし選ぶのに邪魔なら僕はいったん棚の前をあけよう。そのあと同じものを買ってもいい。いや、買うだろう。ちがう、買いたい。これはつまり、まず彼女に決めてもらうべきなのだ、と動こうとした瞬間だった。
自動ドアをけり破って、大男が店に入って来た。
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