廃村

 その廃村に足を踏み入れる前から、辺りには異様な空気は漂っていた。


「こりゃあ、なんとも……」

「見事に破壊されていますね」


 ルピアは村の入口からその様子をざっと眺める。


「見てわかる通り、人の仕業ではないようですね」


 人が村を襲う時、人を殺すことはあまりない。そうしてしまうと、次に襲うことが出来ないからだ。暴力的な本能のままに破壊を行うのは、下等な魔族、つまりは魔物しかあり得ない。破壊されている、ということからゴブリンあたりの仕業だろうか。


「うわー、うわー……」


 リリーベルはルピアの背に隠れて弱々しく震える。


「ちょっと吐いてきて良い……?」

「我慢できるようになって偉いな」

「サクラに吐くよ」

「なんでだよ!?」


 リリーベルの予告にサクラは仰天し、慌てて彼女から距離を取る。それを追うかのようにリリーベルは地面に膝を突き、喉奥から胃液を吐き出した。


「あー、サクラはベルの様子見てて。僕はルピアと村の様子を詳しく見てくる」


 レイはルピアに荷物を預け、戦闘態勢に入る。


「まだ魔物がいるかもしれないから、気を付けてね」

「おう、任せとけ」


 リリーベルの背中を撫でるサクラに見送られ、レイとルピアは廃村の奥へ足を進めた。廃村の中は先程入口付近からは影で隠れていた部分をよく見ることが出来た。

 首の断たれた死体に、四肢が千切られた死体。痛みに苦しめられながら息絶えたことが容易に想像できる表情もあれば、何故自分は殺されたのかと二人に問う表情の死体もあった。廃村には一から百まで様々な死を迎えた命があったが、生きた命だけはどこにも見つからなかった。


「しかし、酷い臭いですね」


 ルピアは継ぎ接ぎが目立ってきた修道福の袖で口元を隠す。


「まるで戦場です」

「僕は戦場に行ったことがないからわからないな」


 レイは頭と内臓が無残に欠けた死体に黙祷を捧げる。それに倣ってルピアも黙祷を捧げた。


「とりあえず、皆を焼いてあげようか」

「そうしましょうか」


 レイは一度サクラ達のところへ戻り、男二人で廃村中の死体を廃村の外に半日かけて集め、炎で死体を焼いた。死後数日経って血が抜けたせいか、日が暮れても炎は勢いを衰えさせることなく死体を焼き続けた。


「いつ見ても、炎は美しいですね」


 ルピアは彼女の膝の上で寝息を立てるリリーベルの頭を撫でながら小さく呟く。


「不浄を払うとはよく言ったものです。本当に、心が洗われるよう……」

「怖いこと言うなよ」


 サクラは廃屋で見つけた干し肉を齧りながらその言葉に苦笑した。


「そうだね」


 レイは包帯に巻かれた右手越しに炎を見つめる。


「恐ろしいくらいだ」

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