隠された右手

「いつも気になってたんだけど」


 リリーベルはともに夜営するサクラに話しかける。


「サクラって、女の子みたいな名前だよね」

「うっせ、エイサイって呼べって言ってんだろ」

「あはは、サクラー」


 楽し気に笑うリリーベルにサクラは不満げな視線を向ける。リリーベルだけでなく、レイやルピアまでもがサクラと呼ぶことに彼は不満を抱いていた。

 いじけるように枝で焚き火を弄り出すサクラを見て、流石にリリーベルは反省したのか咳払いをして話題を変える。


「そう言えば、レイっていつも右手に包帯巻いてるよね」


 リリーベルは寝袋に包まって眠るレイを指差して言う。


「怪我してるわけでもなさそうだし、なんでかな?」

「滑り止めらしいぞ」

「滑り止め?」


 リリーベルは首を傾げ、サクラに説明を求める。わざわざ説明するほどのことでもないだろう、と思ったが、他に話題があるわけでもないのでサクラはそれに応じることにした。


「ほら、俺はガントレットがあるから平気だけど、汗で手が滑って剣を落とすことがあるかも知れないだろ? それを予防するために包帯を巻いてるらしい」

「レイも右手にガントレットすればいいのに」


 リリーベルはレイの寝顔に斜め上から視線を落とす。


「左手だけじゃバランス悪いじゃん」

「レイは特殊なんだよ」


 サクラは焚き火を弄る手を止め、レイに視線を向ける。


「盾を捨てて長剣と短剣を両手に持つなんて、俺には怖くて真似できないな」

「やーい、腰抜けサクラー」

「んだとぉ?」


 二人はしばらくじゃれるように互いを罵り合ったのち、どちらからともなく、疲れたように息を吐いた。


「……やっぱり、右手、気にならない?」


 リリーベルは悪戯好きのする眼をサクラに向ける。


「ね、ね?」

「お前、それでもし酷い怪我なんて隠してたらどうするんだよ?」

「む……、明日から顔を見て話せなくなる……。でもやっぱり気になるし……」


 包帯に隠された右手を見てみたいという気持ちと、見てしまった後にやってくるであろう罪悪感との狭間でリリーベルは頭を抱えた。そうしているうちに疲れてしまったのか、やがて彼女寝転び、はレイを枕にして寝息を立て始める。

 その無防備な姿は年相応の少女の物で、サクラは自然と保護者じみた笑みを浮かべ、彼女の頭を撫でていた。

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