旅人?
平原にちらほらと寝転ぶ巨大な岩石。うちひとつの影に、その男性は下着姿で倒れていた。それを見つけてしまった勇者は、驚いてその男性に駆け寄る。
「大丈夫ですか? 怪我……はしてないし、呼吸……もある、か」
ただし、周囲に男性の荷物はない。身に着けている物も下着のみとあっては、いよいよおかしくなってきた。この〈岩音の平原〉は比較的安全な場所とされているが、そのど真ん中で無事に寝ていられるほど甘い場所ではないことはよく知られている。
勇者が荷物を下ろし、男性を揺さぶり起こす。起こされた男性は、状況が理解出来ていないのか、声を掛ける勇者をよそに、しきりに辺りを見回した。
「え、なにこの状況……」
平原で下着姿のまま眠っていたことに気付いた男性は呆然と呟いた。そんな男性の顔を勇者は心配そうに覗き込む。
「大丈夫ですか? この辺は魔物が少ないですけど、野盗がよく現れるんです。迂闊に野宿なんかすると、寝ている間に身包み剥がされますよ」
「ああ、うん……。体験した」
男性は疲れたように息を吐く。パンツ一丁でどうすりゃいいんだよ、というぼやきに、勇者はひとつ尋ねた。
「ジョブタグも盗られてなくなってますが、ジョブはなんですか? ギルドに加盟しているなら、盗賊被害の保険である程度の装備を整えられるはずです。ジョブタグがないと手続きが面倒だと思いますが……。とにかく、僕はこれから近くの村に立ち寄るので、そのついでで良ければ送っていくことぐらいなら出来ますよ」
「あ、いや、ジョブね、ジョブ……」
男性は一瞬視線を泳がせる。
「あー、……た、旅人?」
男性の言葉に、少年は明らかに困った表情を作る。
「ええと、この際ですから、ギルドに加盟しましょうか?」
その言葉を聞いて、男性は恥ずかしそうに両手で顔を隠した。そんな彼の様子に勇者は誤魔化すような笑みを浮かべ、荷物の中から白いローブを男性に渡す。
「村まではこれを着ていてください。少々目立ちますが、これが一番清潔ですので」
男性はサクラ・エイサイと名乗った。勇者は少し迷ってからレイと名乗り、サクラを近くの村まで連れて行った。その道中で野盗に何度か襲われたが、レイは苦することなく追い払った。
「本当にもう……何から何までありがとうございました」
「困ったときはお互い様ですよ。もし機会があれば、その時はあなたから声を掛けてください」
戦士のジョブに就いたサクラに見送られながら、レイは村を後にした。
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