第2話 目には目を、ウイルスにはウイルスを
時間は6時をすぎ、日も大分暮れてきた。しかし、やはり夏なだけあってまだまだ明るい。
外から子供の声が聞こえる。
「早く家に行ってパソコンやろうぜ!」
「待ってくれよ~!」
元気だこと。
だが俺の心はそんなに元気ではない。
数時間前に起きた悲劇、地獄の扉を開いた瞬間。
深層ウェブを開き、この世のものとは思えないものをたくさん見た。
自分が自分でいられるかでさえ心配になったほどだ。
さらにはパソコンがウイルスに感染した。
だが俺も何もしないわけにはいかなかった。
とりあえず、姉ちゃんがもうすぐ帰ってくるとのことだったので夕食を用意し、パソコンに戻り、できる限りの手を尽くした。
ウイルスバスターを用意したり、深層ウェブのもっと詳しい情報を探したり、ダメもとで深層ウェブのソフトを消そうとしたり。
やっていて1つの答えが出た。
深層ウェブに存在するウイルスは市販のウイルスバスターでは対処できないということだ。
ウイルスにも強固なファイヤーウォールがあり、ウイルスバスターではウイルスのメインデータには入れなかった。
「お手上げだな」
そう言って匙を投げた。
ガチャ
「ただいま~」
姉ちゃんが帰ってきた。
「おかえり....」
俺は返事をした。
異変に気付いた姉ちゃんが聞いてきた。
「どうした?何かあったか?」
「姉ちゃん....実は....」
俺は起きたことをすべて話した。
ゲームをダウンロードしようとしたら間違えて深層ウェブのデータをダウンロードしたこと。
深層ウェブの見るに堪えない画像のこと。
ウイルスのこと。
全て聞き終わり、少し頭を抱えた後、姉ちゃんの口が開いた。
「とりあえず、ご飯を食べよ。話はそれから」
「あ、あぁ」
俺は半ば呆れながらキッチンに向かいご飯をよそいだ。
食後、俺たちはパソコンの前に向かい、対処法を考えた。
「とりあえず、どうしよっか~」
「何楽しそうに言ってるんだよ」
「だって楽しいもん」
俺は呆れた。完全に呆れた。
姉ちゃんは確かにポジティブシンカーだが、今はポジティブにできる状態じゃない。
「わかってるのかよ。これ、下手したら犯罪なんだぞ」
「わかってる。だから対処法を考えてるんでしょ。そんなこと言ってないで涼も何か考えてよ」
俺はそういわれ考えた。
ウイルスバスターはすでに試したが意味はなかった。
おそらく他のウイする対策ソフトも無意味だろう。
となれば1から作るしかないのか。
だがウイルスの基本構造がわからないなら意味がない。
ならばどうすれば....。
「姉ちゃんは何かないのかよ」
「う~ん....ないこともないんだけどね~」
「なんだよその言い方」
「いや、やること自体は単純明快なんだけど、それをやってパソコンが耐えきるかどうかが心配でね」
「何をやるんだ?」
「ウイルスにウイルスをぶつける」
「いや、ちっとも単純明快じゃないんだが....」
姉ちゃん曰く、ウイルスにファイヤーウォールがあっても根本はウイルスであり、さらに言えばデータである。だから、そのウイルスデータにこちらもウイルスデータをぶつけ、ウイルスを中和しようという戦法だ。
大半のウイルスバスターもこの手法でウイルスをデリートしているらしい。
まず、ファイヤーウォールを破壊する。これはハッキングと同じ要領でやれば何も問題はない。
ここからが問題で、まずこのウイルスのデータをUSBにコピーし、姉ちゃんオリジナルカスタムのノートパソコンに落とす。姉ちゃんのパソコンには過去に自由研究で行ったコンピューターウイルス作成のデータがあるらしいので、それをもとに今回のウイルスに対抗できるウイルスデータを作り出す。
何が問題かというと、ウイルスデータは勝手に作動してしまうのでやり方を間違えると、姉ちゃんのパソコンにも被害が及ぶ。そうなれば元も子もない。
「どうやってウイルスの行動を止めるんだよ」
「方法はないこともないんだけど、あんまり使いたくないんだよね~.....。」
「一刻を争うんだ。頼むよ姉ちゃん」
「深層ウェブを開けた張本人が偉そうな口をたたいちゃって」
「う....」
俺は返す言葉を失った。
すると姉ちゃんがキーボードをたたき始めた
「まぁ、仕方ないか。じゃあ今からやるよ」
「早速ですか。で、俺は何をすればいい?」
「とりあえず私のノーパソをとってきて」
「了解」
ウイルスのデリート作業が始まった。
俺は姉ちゃんに言われた通り、姉ちゃんの部屋からノートパソコンをとってきた。
「起動していつでも使えるようにしておいて。パスワードはかけてないはずだから」
そういわれ俺はパソコンを開き、デスクトップに移動した。
「準備できたぜ。」
「よし。じゃあ涼、私と変わってファイヤーウォールをこじ開けて。やったことぐらいあるでしょ?」
「数年ぶりだけど、やってみるか」
俺はそう言って姉ちゃんと変わり、ファイヤーウォールの突破作業を始めた。
ファイヤーウォールはすでにデータが壊れ始めていた。きっと姉ちゃんがやったのだろう。だが、それと同等のスピードでファイヤーウォールの修復が始まっていた。どうやらこのウイルスの製作者はよっぽど用心深かったのだろう。
「だが、穴が開いているならこっちのもんだ!」
俺は破損データ付近の暗号の解読を始めた。
0と1から成り立つ文字列に対応した文字列をたたきつける。
穴が徐々に大きくなる。ファイヤーウォールの崩壊が始まった。
俺は手を止めUSBをパソコンに差し込んだ。
「いつでもいけるぞ」
「オッケー。さっすが涼。なんも衰えてないね」
「うっせー。そっちはどうなんだよ」
「ちょっと待って~。もうすぐ解凍が完了するから....っと、よし、こっちもオッケーだよ」
俺はUSBに無防備なウイルスデータをコピーした。
それをすぐに姉ちゃんのパソコンに差し込んだ。
「さ~て....私の創り上げたウイルスの力、見せて差し上げよう」
そういって姉ちゃんはウイルスに姉ちゃんが作ったウイルスを強制的にインストールさせた。
ウイルスをいじるとき、姉ちゃんは必ず性格が変わる。本人曰く、キャラ作りだそうだ。
「みたまえ!これが私の創り上げたウイルスその4!『GORGON』だ!!」
『GORGON(ゴルゴン)』。名前の通り、データを石になったかのように固めるウイルス。聞く限りは強そうだが、このウイルスにも弱点がある。
『GORGON』は持続力がなく、固まるのは長くて20分だ。
「だが、貴様を解読して対抗するウイルスを創り上げるには十分な時間だ!」
そういって姉ちゃんはウイルスの解読を始めた。
十分な時間とは言っていたものの、やはり心配だ。
だがその心配はあっけなく解消された。
解読からたったの5分、
「終わったぞ~」
終わったようだ。
「そしてこれが対ウイルスウイルス....『アンチウイルスウイルス』....略して『AVV」だー!」
ウイルスって何回言ってるんだよ。それにネーミングセンスなさすぎだろ。
「さぁ涼!『AVV」をあのウイルスに!」
「へいへい」
俺は姉ちゃんのノリについていけなくなり、無心でUSBを差し込んだ。
アンチウイルスが起動すると、ウイルスが途端にデリートを始めた。
「とりあえず、これで何とかなるね」
「ありがとう姉ちゃん。助かった」
「いいよ~。久々に楽しめたし」
こうやって終わった感じを醸し出しているが、まだ根本的にはまだ解決していない。
「とりあえずウイルス対策はある程度できたけど、深層ウェブの扉は開いたまんまだから。涼、気を付けてよ」
「あ、あぁ....うん」
そういって姉ちゃんは自分の部屋に戻った。
時間は9時を過ぎていた。
俺は汗でべたべたになった手を洗いに洗面所に向かった。
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