3(そして、一人いなくなる)
テレビではその後、銀行強盗のことについても、暴力団のごたごたについても、暴走車に轢かれた子供のことについても、何の音沙汰もなかった。パトカーが追いかけていたのだから立派な事件のはずだけど、ニュースにはそれらしいものが取り上げられる気配さえない。
学校に行くと、ぼくらは教室の隅でこっそり相談しあった。クラスの除け者みたいな位置にいるぼくらには、興味を示してちょっかいをかけてくるような生徒はいない。今はそれが好都合だった。
教室の割れた窓ガラスは、もう新しいものに入れ替わっている。結局、何かのはずみでひびが入ったんだろうということになっているらしかった。カラスのことについてもよくわからない。
「あのお金、何だったのかな?」
ヤギくんはその辺に盗聴器でも仕かけられているみたいに声を潜めて言った。
「テレビでは何も言ってないみたいだね」
まわりに聞こえない程度の声で、カワホリも言う。
「好都合じゃないか」
オオカミは相変わらず強気だった。
「誰も気にしてないなら、あの金を俺たちのものにしたってかまわないわけだ」
「そんなに簡単にいくかな……」
ぼくは懐疑的にならざるをえない。
「いくさ」
オオカミは自信たっぷりに言う。
「隠し場所だってばっちりだ。あのあと、もっといい場所に隠し直したんだ。あれなら誰にも見つかりっこない。安全さ」
その自信の裏にはどことなく虚勢っぽいものがある気がして、もしかしたらオオカミはあのお金の一部を使ってしまったんじゃないかと、ぼくは想像をめぐらせてみた。
「絶対、大丈夫だ。ほとぼりが冷めたら俺たちで好きに使えばいい」
オオカミはいつもの強気な笑顔を浮かべる。
……本当のことはわからない。
そのうち先生が来て、ぼくらは話をやめて席に着いた。ぼくはすぐ前に見えるオオカミの背中をぼんやりと見つめていた。
――オオカミが行方不明になったのは、それからしばらくしてのことだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます