第13話 近づく冬と準備



「完成ーーーーーっっ!!」

「「「「「うおおおおおーーーーーーーーーっっ!」」」」

「「「「「やったーーーーーーーーーっっ!!」」」」


 秋も深まって、そろそろ冬支度も終わらせなければならない頃、水路が完成した。

 小川から水を引いてきて配水水槽で止めていた水を一気に流し、問題なく水が集落の中を流れて、最後の排水水槽まで行ったことを確認して完成となった。配水水槽は深く掘ってあって、汚れは下に溜まり、上のキレイな水だけ小川に戻される。小川までの排水用水路も完成している。

「凄いですねっ!造っている時は実感わかなかったけれど、いつでも自由にキレイな水が使えるなんてっ!」

「そうだね。水汲みが楽になるよ。それに使ってみるとトイレもいいもんだったし、なんだか毎日楽しいね」

「そうそう。ここは安全の上、キレイで臭いもなくて本当に住みやすくていい処だね」

 最初里から移住して来た時は、今までとは違う家と生活に戸惑いがあったみたいだった。けれど今ではトイレにも慣れてくれたみたいだ。

 里では臭いは獣を呼び寄せてしまう為、かなり穴を深く掘るか、里の外まで出ていたらしい。排泄一つとっても、かなり気を使って生活していたのが分かる。だから一軒家には各自に、アパートでも二つ、メゾネットタイプには各家で一つ用意したトイレは最初は驚かれてもかなり好評だった。一日に一度は排泄物を捨てに行き、素焼きの壺は洗わなければならないけれど、洗いようの水場も用意したから今度からは更に楽になるだろう。勿論洗いよう水場には石鹸は常備設置で徹底的石鹸での手洗いを推奨して、最近では率先して石鹸を使うようになってきた。石鹸は赤くなったり荒れたりした人はいなかったから、あれから量産して各家に配布してあった。


「やったな、リザじょうちゃん!造ってる時は説明されて納得したつもりだったが、実際見てみるとこれはすげぇな!楽にキレイな水がすぐ飲めるなんざ夢のようだ」

 さっきまで現場で指揮をとってくれていたダリルさんが、うれしそうに声を掛けてくれた。

 水路はところどころ深く掘って沈殿物を溜める場所を作りながら集落を一周している。石で蓋もしてあるから、ゴミとかもそんなには入らないだろう。水場は地面から腰くらいまでの高さまで石を積み上げて、水は水路から入れて水場でせき止め、そのまま上まで水を上げ、上に配水口を作ってそこからまた水路へ落ちるようにした。そうすればキレイな水だけが上へあがって来るから、その配水口から簡単に水を汲めるのだ。水路へ流す全体の水の量は集落の入り口に造った配水水槽で調節出来るから、水圧も調節出来るから水路から溢れることもないだろう。

 水場は家がある場所は多めに作ったから、家から少し歩けば水を汲めるようになった。うん。頑張ったね。まあ私の家は集落の外れにあるから、そこは特別に家まで引いて貰った。途中までは他の家もあるからそこに水場も作ったし!だってどうしてもお風呂が欲しかったんだもの!!夢の家風呂!!まあこれくらいの特権は許して貰おう!

「いやいや、ダリルさん達のおかげですよ!自分で考えたのはいいけれど、これ、独りじゃ絶対に無理だったので、皆さんがいたからかなりいいものになりました!あとはーーー。お風呂ですね!!!」

「いやいやじょうちゃん、次は鍛冶場だって!!」

 フフフフフフフ。とダリルさんと二人で怪しく笑い合う。

 今まで二人で水路が終われば次はお楽しみ!と声をかけあって頑張って来たのだ!

「リザじょうちゃんの言う風呂だって、鉄と石炭があった方がいいんだろ?だったら俺優先だな!な!冬になる前に掘りに行ってもいいよな!」

「そうですね。お風呂は冬には欲しいから、じゃあ明日掘りに行っちゃいます?」

「おう!いいねぇ、いいねぇ。じゃあ今日は水路祝いをパーッとやったら明日の準備してさっさと寝るか!」

「いいですね!パーッとやりましょうか!じゃあシルバー!ごめんね、ちょっと狩りに行って来てくれる?今日はシルバーの好きな焼肉も作るから、お願い!」

「ガウガウっっ!」

 じゃあ行って来る、と応じてくれたシルバーの首に抱き着き、頬にあたるふわふわ毛を楽しむ。ついでにもふもふする!


 里にも勿論狩人の人もいたから、狩りはシルバーだけがやっている訳ではない。けれど今はとりあえず集落を完成させる方が優先なので、建築の方へ半分半分で交代で出して貰っていた。だから最近のシルバーは建設も手伝って、私に付き合って、それで狩りもしている。実は一番忙しいのはシルバーだったりする。

「すめないね…。いつもシルバーさんに頼ってしまって」

 この人は狩人でエルフの血が濃いキラルさんだ。見た目は二十台後半に見える。エルフのイメージのそのままに、弓が得意だそうだ。

「いえいえ、まだここに慣れてないからですよ。今は建設の方を手伝って貰ってしまってますしね。冬はここら辺では雪は降りますが、歩けない程ではないので獲物は冬もいますので。冬の狩りに期待してます」

 今はまだ獲物のほとんどはシルバーがとって来たものだ。それでもたまに大きいものを仕留めて来てくれるので、冬の為に干し肉にする余裕が少しはある。冬でも狩りは出来るから、里の狩人の人達にも冬は食糧が貴重なのでぜひ期待したいところだ。

「そう言っていただくと気が楽になるよ。今は冬の準備と家と建てる方が優先なのは当然だよ。狩りに行ってる間に家族や里の皆の安全を気にしなきで済むのは本当にありがたいよ。だから早く慣れて狩りも安定して出来るように頑張るよ」

 里の為に狩りをしながらも、里が襲われていないかを気にしないといけなかったのか…。本当に里の人達は心が強い人が多いな。

「はい!とりあえず今日は水路完成祝いでごちそうですから!夕方まで頑張りましょう!」

「ああ、ごちそう期待しているよ」


 水路の完成を祝う祝福の声を皆に掛けられながら、おばちゃん達に今日の宴会の準備の声を掛けて歩く。

「リザ!水路って凄いね!!いつでもキレイな水が飲めるなんて夢のようだよ!」

「ララ。それにハンナちゃん!うん、お水は大事だからねー。後はお風呂だよ!お風呂までもうちょっとだから頑張らなきゃ!」

「フフフ、リザはいっつもお風呂お風呂って言ってるね。それだけ言われると私も楽しみになって来たよ!ね、ハンナちゃん」

 うん、と隣でハンナちゃんがはにかみながら頷く。

 ララとは少しずつ打ち解けて、やっと気軽に話をしてくれるようになった。ハンナちゃんは私達より二つ年下の、ドワーフ系の特徴の子だ。背が小さくて目が大きくてかわいい。まんまロリっ子だ!ちょっと恥ずかしがり屋さんで、ララの後ろにいつも隠れている。最近やっと慣れてくれて並んで歩いてくれるようになった。うれしい!

「ところでリザ。やっと水路が完成!って時にどうしたの?何かあった?」

「ううん。水路の完成祝いに今晩はパーッとやろうかと思ってね!だから今日はこれから美味しいパンを焼こうと思って」

「やったーっ!パンだ!パン、美味しいよね!リザのパンはやわらかくてすっごく美味しいし!じゃあ私も手伝うよ。ハンナちゃんも手伝う?」

「うん。手伝う」

「ありがとう、ララ、ハンナちゃん。じゃあ行こうか」

 三人で集会所へと向かって歩く。

 集会所には大きな台所を作った。そこで毎日炊き出しをおばちゃん達と一緒に作っている。その隣には大きな貯蔵庫を建てた。中には水路を作りながら刈り取った小麦と、収穫した野菜、収取した果物などが入っている。地下も作って、干し肉など冬用の分も今貯めていっている。

 ちなみに小麦を収穫し終わった畑には冬にも採れる野草を植えて、野草を植えていた畑に半分芋を植えた。今年は里から持って来てくれた分だけだし、冬用に全部貯蔵しようかとも思ったんだけれど、ピュラとドォルくんに相談したら、ここでも今植えたら春に収穫できるようにしてくれることになったので、少しだけ種イモにして植えることにした。春には改めて畑を四つに区切って作付けしていく予定だ。


「本当にリザのパンって美味しいよねー!里ではたまーにしか食べられなかったのに、固くてごそごそしたパンしかなかったもん。それでもごちそうだったのに、今ではもう戻れないかも…」

 パンの生地をこねながらララが言うと、隣でやっぱり生地をこねているハンナもうんうんと頷く。

「ふっふっふー。じゃあ今日はお祝いだし、褒めて貰ったから豪華に干しベリーも作っちゃおうかな!」

 干しベリーはラズベリーに似た野イチゴ?でこの世界での呼び名は知らないから勝手にそう呼んでいる。この集落の周りでは結構とれるから、毎年摘んでは干しておいてたまにパンに入れたりしていた。

 パンは多分固いパンがこの世界では普通になるんだろうけどね。エリザナおばあちゃん達が固いパンを苦労して食べているのを見て、酵母で作り方を思い出しつつ私が試行錯誤の末完成させたパンなのだ!小麦をさすがに真っ白くあれだけ細かく砕くことは出来ないけれど、食感は森で見つけたブドウっぽい果物を干したレーズンもどきを作ってそれを発酵させた酵母を使っているから、かなり柔らかくもちもちしている。エリザナおばあちゃん達もかなり喜んで美味しいって食べてくれていた。

「うわーーっ、それってもしかして甘いの?すっごいっ!ここに来てから美味しいものばかり食べられるから幸せだよねー」

「うんうん」

 今は配給なので皆で一緒にご飯を食べているから、作るのもおばちゃん達と一緒に作っている。ただやっぱりロムさんがくれた調味料のハーブ類とか、その後ピュラを動員して集めたハーブ類とかを乾燥して調味料を作ったりしていたのがあったので、かなり驚かれた。食材も小麦は去年までの貯蓄分がまだあったから最初からパンだったし、野菜も畑で作ってるからそれなりに食材もあった。私的には普通に野菜入りスープにパン、それにお肉料理だったんだけれど、里から来る人来る人が最初に感激している。

「…これからはもっともっと美味しいもの食べられるよ!あ、雪が降る前には移住する人は全員こっちに来るんだよね?」

 エーデルドさん達に返事をされた時は、全員はいきなり移住しても集落で受け入れ出来ないだろう、って気を使ったのもあって、里に残る人は多めにしていたらしい。でも来てみたら私がもう準備を始めていたし、土地的にも十分だし、ってことで全員一度は集落に荷物運びも兼ねて交代で来てもらっていて、結局集落に全員分の家を用意して引っ越し、当番で里を管理する人を置くことになった。

 向こうの畑とか森で採れるものもあるので、食料的にもお互いに交換すれば向こうの生活も出来る。まあただやっぱり安全面がこちらとは全然違うから、里に行くのは男だけにするみたいだ。

「うん!ここだと子供でも自由に外に一人で出られるから、皆楽しみにしてるって言ってたよ」

 騒いで獣を呼び寄せても危ないから、里では子供は仕事が割り当てられるまでほとんど外へは出なかったらしい。特に女の子は家の中で出来ることを習って、森の中へもあまり出たことがない子が多いみたいだ。まあ獣人の血が濃い子は運動能力が高いから、森での採集にも割り当てられていたみたいだけれど。

「そのかわり、子供でも仕事を割り振るけどね!」

 今でも移住してきた全員が手伝いたいって言って来たから、男の人達だけではなくて、子供達にも色々やって貰っている。畑の手伝いだったり、森へ大人と一緒に行って薪と木の実を集めて貰っていたり、こうして料理も手伝って貰ったりしている。男の子は建設のお手伝いだ。

「勿論だよ!外で仕事してると自分が役に立ってるって実感出来てうれしいよ。ね、ハンナちゃん!」

「うん、家の仕事も嫌いじゃないけど、外で畑のお手伝いとかするのも楽しいよ!」

 ねーって笑い合う二人の笑顔に、冬の食料に不安がないわけではないけれど、やっぱりやらなきゃいけないと決断して言葉にする。

「もっと楽しいこともあるよ!移住する人が全員揃ったら、収穫祭も兼ねてお祭りをしよう!美味しいもの作って、好きに食べて、お酒も少しだけあるし、皆で好きに食べて遊んで楽しもう!」

「「お祭りっっ!皆で好きに食べて遊ぶのっっ?!」」

「そうだよ。その日は皆で準備したら、後はみんなで好きなだけ騒ぐの!」

「「楽しそうっっ!!リザ(ちゃん)本当っっ!?」」

「勿論本当よ!ちゃんと皆に告知するわよ!今日よりもっと美味しいもの作ってお腹いっぱい食べようね!」

「「やったーー!楽しみっっ!!」」


「ほおー、それは楽しそうだね、リザちゃん。料理は好きに作っていいのかい?」

「「「アランナさんっ!」」」

 盛り上がっていて、入り口から入って来たアランナさんに気づかないでしまったようだ。アランナさんは里のおばちゃん達のまとめ役みたいな人で、恰幅が良くて背が低い、 ドワーフの特徴が濃い人だ。髭はなけどね!性格は豪快で肝っ玉母さんって感じだ。

「勿論ですよ、アランナさん。食材に関しては食糧庫を開放するので、好きに材料も使ってくれてかまいませんよ。お酒は好きにって言ったら無くなりそうだから、出す分は決めますけどね」

「当たり前だよっ!男どもにかかったら、酒なんてすーぐ無くなっちまうよ。食材は腕がなるねぇ。ここには色んな種類があるからね。新しいメニューが作れるように頑張ってみるかね」

「アハハハ。どうぞどうぞ。お祭りなんで何でもありですよ」

「そうだね。お祭りも楽しみだけれど、リザちゃん、次はお風呂だって本当かい?お湯に浸かれるんだろ?どんなもんかは知らないが、あの石鹸で体中洗えるってのはとっても魅力的だからね!そっちも楽しみにしているよ!」

 ララと二人で水浴びして以来、おばちゃん達の、特にアランナさんの美への追及熱が凄いことになってしまっていて、つい髪を洗うには別のを開発しなきゃ、なんて呟いたら多分それを優先してやれって言われそうだ。結局各家に支給した石鹸でおばちゃん達はみんな何日かに一度はお湯を沸かして体は洗っているらしく、みんながピカピカしている。…旦那さん達はみんな以前と同じで体をふくだけみたいだけれどね。

「あ、あはははは…。明日ダリルさんと石炭と鉱石を掘りに行ってみます。お風呂にも必要なんで、冬には入りたいですよね」

「ほおー。そうなのかい。仕方ないね。ダリルが張り切ってへましないように見張れって旦那にも言っておくよ!」

 アランナさんの旦那さんとダリルさんは幼馴染で仲がいいらしい。アランナさんの旦那さんは木工が専門らしい。

「はい。他の工房もどんどん立ち上げていきますので、もし要望があったら言って下さいね」

「はいよ。こっちは里より寒いっていうから布が欲しいから、機織り小屋を優先して欲しいかね。まあリザちゃんが毛皮をいっぱい貯めてあったのをくれたから、防寒着は今でも間に合うと思うんだけどね」

 里では冬でも雪はそんなに降らなかったらしく、積もることもあまりなかったみたいだったから、今まで狩ってきた分の毛皮は処理して山のように保管してあったから、それを提供した。全員分の毛布も作りたい。

「皆が風邪ひかないように、どんどん使って作ってくださいね。足りないようだったら、狩る量を増やしますので」

「大丈夫だよ!こんなに良くしてくれているのに、リザちゃんは心配性だねー。まったく。こんなに立派な家や水路まで作って貰ったんだ。ここは安全なんだ。ここは私達にはそれこそ夢の世界みたいなとこだよ。だから皆でやればいいんだ。リザちゃんだけが頑張る必要はないんだよ?」

「…はい。ありがとうございます。じゃあとりあえず今晩の宴とお祭りとお風呂!を頑張りますね!」

「ハハハハハ!そうだね!みんな今晩は宴ってんで今から楽しみにまた作業やってるからね。美味しいもん作らないとね!」

「「「はい!!」」」



 里から移住してきた人達は、皆ここに来て幸せだって言ってくれる。誰も住み慣れたところを離れたい人なんていないだろうに。

 でも幸せだって笑ってくれるから。これからも笑顔で暮らせるように、お祭りだってなんだってやろう!冬までもう少し。目いっぱい頑張ろう!


 とりあえずお風呂だけれどね!!明日でまたお風呂に近づく!明日も楽しみだな!!








 


 

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