変わりゆく集落

第9話 受け入れ準備を進めてみた



「ピュラ、決めたわ!やっぱりそのままでいて欲しい気持ちもあるけど、やっぱり集落の皆の集会所は中央広場がいいのよね!私の気持ち的に。だからやっぱり家のとこまで広場広げるわ」

 森の中の集落の建物は、十五件の家と共同でヤヴォを飼っていた飼育小屋と各家の納屋のみだ。私が物心ついた時には、その家に人が住んでいたのが十二件だけだったけれど。一番集落に人がいた時には、四十人が暮らしていたそうだ。

 その家々が集落の中に空いた土地を挟みながら点在している。畑は家々の脇と小川側に共同の小麦畑を広めにとってあり、その隣にヤヴォを放していた草地がある。その大体真ん中に小さな広場と井戸がある。

 集落は森を切り拓いた時にまとめて拓いたのか、実はそれなりに空いた土地もある。家と畑がある場所の後ろも、森との間にはそれなりに空いた土地もある。

 昔は多分そこも畑として使っていたんだと思うけれど。まあ今は、勿論手入れなんて一人じゃ出来てないから、エーデルドさんが来た時はまだ整地する前で雑草が生い茂って藪状態だった。村から帰ってきて、畑を整えて水路を整理して、それからその空いた土地は果樹園にでもしようかと思っていた所だったから。


「まあ、どうせ空き地だったんだし、いいんじゃない?家はじゃあ広場周りの空き地を利用するの?」

「うん、そう。今の家脇の畑は、整備したばっかりだし潰さないけどねー。今の家々もエーデルドさんがなんかお年寄りの多分身よりがない方を入れて欲しいみたいだしね」

「そう。それならピッタリなんじゃない?今のままでも、多分不満には思わないわよ」

「うん!やっぱり住まないと家は傷むし、でもそのままにしておきたいし、だったからありがたいかな」

 多分エーデルドさんは今の家を補修だけしてそのまま住んで貰える人を選んで連れて来てくれるつもりだろう。そういう気づかいが出来る人の里なら、と思ったのも受け入れた理由の一つだ。

「あとは畑とは逆側をこの間ピュラと木材入手がてら森を伐ったでしょ?あそこも利用すれば住居は間に合うと思うんだ」

 ピュラに聞きながら、建材もどうせ必要だからと、少しだけ森を切り拓いた。大きい木だけはピュラはいいって言ったけれど、私が嫌だったから伐らずにそのまま集落に取り込むつもりで残してあるけどね。でも多分そこだけでも家だけなら六、七件くらいは建てられる。

「そうねー、ここは空き地も結構あるから、それで百人くらいなら住めるでしょうね」

「うん。あとは畑とかそれ以外なんだよねー…」


 今手入れしていない他三方の空き地を全部畑にしても、百人の穀物を確保するのは難しい気がする。

 麦は二毛作出来るけど、連作障害になっちゃうから、それなら三交代か四交代で作る種類を変えた方が収穫高は上がるわよね。でもそれでも子供が産まれたりして人数が増えたら絶対足りなくなる。

「んー。どうせ水路はこう、せっかくだから集落の中を一周するように造ろうと思うのよね。ため池もやっぱり人数が増えるなら必要だと思うし。その土地もあるのよね…」

「水路はスヴィーもドォルも張り切ってたから、造るのは出来ると思うわよ?」

 そう。結局予定と違くなるから、大変だから水路は自分たちで気長に造るって言ったんだけど、スヴィーもドォルも人が来る前に造った方が楽だから造っちゃおうー。って言ってくれた。返すものがないから、あまり頼るのも申訳ないんだけど、今回は甘えて造っちゃうことにした。だってお風呂が欲しいんだもん!やっぱり!日本人はお風呂だよ!やっぱり!


「うん。やっぱり小川側の方だけちょっと農地広げないと間に合わないかな…」

「そうねー。元々この集落はそのつもりで小川近くに切り拓いたんでしょうしね。ここから小川までは木の手入れがされているもの。元々そこの木を伐っていたんでしょう?」

「そうなの。樵のガンホおじいちゃんもそう言ってた。木が必要な時はそっち側から伐れって」

 ちゃんと森の手入れの仕方も、保存の仕方も、木の目利きも、伐採方法も、材木への切り出し方も、全部全部小さい頃から教わった。…いつでも自分達がいなくなってもいいように。

「…ピュラ、小川側にあと畑六面分だけ森を拓いてもいいかな?畑だから全部の木を伐り出すことになっちゃうんだけれど」

 家なんて木と木の間にでも建てればいい。けれど畑だけはどうしても木を切り拓かなくては造ることは出来ない。だから。ここだけだ。これ以上森はもう拓かない。あとは頭を捻ってでも思い出して、研究でもして、畑の生産率を上げよう。今までもう減るばかりの集落だから、と怠けていたつけが今なんだ。

「…もう、リザ。そんな顔しないの。精霊はね。確かに自然に宿っているけれど。でも賑やかなのは嫌いじゃないのよ?森を大切に想って暮らしてくれたら、それでいいわよ」

「…」


 まだよちよち歩きしか出来なかった時(意識も日本人として生きてた記憶もあった)、視界にピュラが飛び込んで来た。

「あー、この子があの時の森にいた子かー。無事元気みたいだね」

「あー?」

 空を飛んで来た、十五センチな小さな可憐な姿に、妖精だ!って思った。異世界だから妖精もいるんだ!って。

 でもたまに何もないところを見て、片言ながら話をする私に、エリザナおばあちゃんが気が付いた。おばあちゃんに質問されて答えて、やっとピュラが精霊で普通は見えないし話も出来ないってことを教わった。

 その時はこれが私のチート能力ってやつなんだ!チートがあったんだ、私にもっ!って思ったよ。だってやっぱりいきなり異世界にいたら、チート能力よこせ!ってなるよね?日本人なら。

 でもそれからわも私はまだ上手く喋れないのに、ピュラは良く様子を見に、おしゃべりしに来てくれた。ピュラは、森に赤ん坊の時居たんだし私は森の精霊だから親族みたいなものだ、って言ってくれた。

 だから考えたんだ。もしこの精霊を見れて話しも出来るこの力が、本当にチート能力だったら?精霊を使役する力だったら?

 親族みたいなものよって笑ったピュラを、楽しそうに空を飛んでいる精霊を、使役する?

 精霊術はゲームや小説だと確か強制的?に使役するパターンと、仲いい精霊に頼んで力を貸してもらうパターンがある。でも、力を貸して貰う時も、精霊を自分の都合のいい時に勝手に呼び出して、好意を盾に力を貸して貰う、んだ。

 そんなの。そんなのやりたい筈ないじゃない?だってシルバーも家族だけど、ピュラは私にとっては小さいけれどおねえちゃんみたいなものだもの。だから、なるべく精霊を見えて話せるからこそ、精霊を人の都合でどうにかするのは止めようって決めた。

 まあ、たまーに森の木のみとかを教えて貰ったりするのは、家族みたいなものだから、ってことで。ピュラも私が尋ねると、うれしそうにしているし。

 ピュラから私に何かを求めることはない。なら、もしチート能力だったとしても、ピュラ達と出会えて話せるだけで十分だ。そして精霊はそんな存在だからこそ、人間から歩み寄らなければならないと思うのだ。


「グァウ?」

 ポスンと脇腹にシルバーの顔が当たる。うん、大丈夫だよ、シルバー。がしがしと首筋をもふもふする。ギューッと首を抱き寄せながらもふもふする。

「ありがとう、ピュラ。…さあ!そうと決めたら、どうせなら全部の土地を有効活用するわよー!もう集落の建設計画書書くよ!配置も全部決めて、その計画書通りにさっさと整備しようっと!」

「ガウっ!」

「うん、シルバー!計画書書くから、シルバーは小麦畑の周りの土地、耕してくれる?そこは畑だから」

「ガウガウっ!」

「ありがとう、お願いね!」

 この世界で出会った優しい人たちは、皆が私が生きやすいように知識をくれて、そして自由に生きていいって言ってくれる。私がなんでここにいるのか意味があるのかどうかも分からないけど、私を見守ってくれた、くれている優しい大好きな人達が言ってくれたから私は好きなように生きようと思う。

 村から戻って来る時に、一人でも現代日本知識チートで内政!で生きやすいように生きようと決めた。なら、自分で受け入れようと思ったなのなら、まずはやってみよう!受け入れられなかったら、その時はまた考えればいい。

「よーし!異世界の現代日本知識チートで内政!の定番は衛生管理から!出来るだけ考えて取り入れてみようっと!」



 この世界には魔法はあるが、今はもうほとんど誰も使えない。ただ魔力を持つ人は、生活には使える種火とか少しの水を出すとかくらいは出来る。私もエリザナおばあちゃんに習って、そのくらいは出来る。けど、種火は、薪に火をつけて水を出すは水筒いらずなだけなんだよね。

 何がいいたいかというと、ラノベであるような電気の代わりに魔法とか魔道具がある世界じゃないってことだ。だから江戸時代みたいに竈があってそこに薪で火とつけて料理して、水は井戸から汲んで使う。まあ一番問題なのはトイレだけどね…。

 水洗どころか汲み取りでもない。汲み取りでもないってことは…。目隠しに衝立を立てて地面に深い穴をあけてあるだけ、だってことなんだよ!土をかぶせながら使って、埋まってくると場所移動。。。。いくら深い穴でも臭いはでるし。。。

 もう、赤ん坊の時から育って助かったと思ったのはこの点だけだったわよね…。諦め?諦めというか諦観というか…。

 って諦められるかーーー!って思って木で蓋も底もない木枠を作ってそれに木で便座の座る部分だけつけた物を作ったよ!穴を移動する時には移動させればいいだけだし、洗えるし汚れがひどくなったら作り直せばいいし、で集落の皆にはかなり好評だった…。お年寄りばかりだったしね。

 でも!勿論抵抗はありまくりなんだよ!結局我慢出来なくて、便座箱?に入る簡単に運べる壺入り取っ手付き木箱、素焼きの蓋つき!を作ってみた。

 中身は肥料にしたかったけど失敗したから、集落の外れに深い横穴を掘って対応した。その中に集めてある程度溜まったら崩して埋めて、別の場所に掘る。…肥料に失敗した時にドォルから協力を得られてしまったから、こっそり土の分解速度を上げて貰っていたりする。

 …精霊を利用しない!と言っておいてあれなんだけど、衛生面と臭いだけはどうしても耐えられなかったんです!ここが異世界でも!

 で、その方法が集落に受け入れられてから、各家の外にトイレの小さな小屋を作った。屋根なし衝立にも耐えられなかったから!

 ということで、トイレはこの方法をとりたいんだけど、家族が多い家はこれだと運ぶのが大変になるかもしれないから、改善案が必要だろうなー。


 ただ上下水道の下水は実はやりたくない。下水の行先は浄化槽を用意出来なければ川になる。人の都合で川は汚したくないし、水路を作って水をとる川に下水は流したくない。心理的にも。

 だから下水問題は間に合わないかな…。どうせ異世界ならせめてスライムくらいはいてもいいのに!…まあスライムもかわいいバージョンと怖いバージョンもあるから、いなくて良かったのかも?

 まあこればっかりは仕方がないから、あとは水路だ。住宅地の周りをぐるっと巡らせて、水場を何か所か設置すればいいかな。本当は各家に引きたいけど、管がね…。で、歩くのに水路あると危ないしゴミも溜まると水が汚れるから、石を切り出して蓋をしたいかなー。水路はドォルくんに甘えて固めて貰えば土で汚れないなら、キレイな水のままだろうし。

 洗濯場は水路の最後に一か所かなー。汚れた水を飲み水にしたくないし。これも規則で決めておかないとね。

 で!これが一番重要なんだけど!共同お風呂を作らないと!やっぱり衛生面でも清潔にするのが一番だし。お湯を沸かすはどうしようかな…。木炭って確か木を焼いて蒸し焼きだったっけ?まあ石焼でもいいけど…。もうっちょっと方法は考えようかな。あ!せっかくだから水路を家の脇を通して家は自分の家にお風呂を作ろうっと!これくらいの特権はいいわよね!

 今の村と切り拓く予定の場所、そして小川を簡単に地図に起こし、図に書きながら配置を決めて行く。


 広場の脇に集会所を作って、農作業用の道具用小屋と…。収穫物と薪を入れて置く場所は集会所の横に共同倉庫を作ればいいかな。ヤヴォ用の飼育小屋は今のは古いから建て直して貰って。あ!獲物の解体小屋と燻製用の小屋も欲しいかな。あれば余ったお肉を燻製にして配れるしねー。煙が出るから、畑の外れのとこにして、と。素焼き用の竈は今あるやつでいいかな?あ、機織り小屋は必要かな。人数多いなら、常に織る必要あるし。織機は古いけど整備すれば、ラーメルおばあちゃんが使ってたのがあるから、あとはエーデルドさんが持って来ると思うし。鍛冶場は…。出来る人がいるかな?あ、ドワーフがいるんだっけ!!絶対必要かー…。うーん。鉱山ってここら辺にあったかな…?まあ必要ならエーデルドさんが来た時に相談かなー。場所はどうせ郊外になるし。水路脇を一か所予定地としてとって置こうかな。他何か必要な建物もあるかもしれないから、少し余裕をとって配置して…。あとは道を作って…。


「うん、こんな感じかな!どうせ全部エーデルドさんが来るまでに終わる訳もないんだし。とりあえずこの予定で水路と畑優先でやっちゃおう!ピュラも、どうかな?」

「んー?いいんじゃない?水路と畑は頑張らないとだろうけど。リザにいいとこ見せようとシルバーが頑張るだろうし?」

「ガウガウっ!」

「フフフフ。頼むわね、シルバー!貴方が頼りだもの。じゃあピュラ、畑用の木を伐る場所を一緒に見て貰ってもいいかな?」

「いいわよー。じゃあ、さっさとやっちゃいましょう」


 『帰って皆で協議して返事をします』そう言ってエーデルドさんは帰って行ったけど、多分移住して来るだろう。

 なんだかそんな予感がするから。この予感は外れないって確信があるから、こうやって準備をする。


 『なんでこんな場所に集落があるのか?』『結界と呪術を私が使えるのは何故か?』『結界は山脈の向こう側の術だった』

 全てが繋がって、導かれている気がする。なんで私がここにいるのか?その答えも見えてくるんじゃないかって予感もする。

 運命なんて言葉で済ませたくはない。けれど意味があるならその意味を知りたい。そしてこれからを選びたい。だから。


 今出来ることを、自分がやりたいと思ったことを、今はただ全力でやりたいと思います!



 

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