幕間 シルバーのある一日
***注意
のりと勢いだけで書きました!が、ちょこっとネタばれ?要素を含みますので、そういうのがダメな方は本編には読まなくても全然まったく支障がありません。***
季節はだんだんと夏に向かっていた。
大陸の北側に位置する集落では、一応季節の移り変わりらしいものがある。ただ冬は雪には閉ざされないものの寒さは厳しく、夏は短い。
白銀狼は本来バルティモア山脈に住む種族である。バルティモア山脈は大陸を東西に貫く厳しい山々の連なりだ。北は一年中雪に閉ざされ、南では青々とした木々に閉ざされる。白銀狼はそんな山脈の標高が高い場所を住処とする。
それがどういうことかというと?
「今年はシルバーも大きくなったから、すっごい抜け毛よねー。でも!大丈夫!もふもふが薄くなっても!夏毛が冬毛のふっかふかのもこもこなもふもふより短めな固めなもふもふ感でも!ちゃんと夏毛だって胸に顔うずめればもふもふだし!下の毛は白いもっふもふな毛だから、もふもふ感も私に不満はないわよ!」
寒い処の種族なだけに、シルバーの毛は密集して長めで下も体温を保存する為にボリュームたっぷりなもこもこ毛がある。そのままでは夏の暑さで動けないから、自然の摂理で夏毛に生え変わるのだ!
「ふっふっふ!この為にシルバー用のブラシを作っておいたのよ!じゃーん!」
効果音付き?で取り出したのは、両手程もある大きさの、木のブラシ。日本の時の記憶を思い出し、頑張って作った一品だった。
「さあ!さあさあさあ!今日は一日ブラッシング(もふもふ)よーーーーーっ!ほら、シルバー、そこに横になって!」
「グ…グルゥ…」
ふっふっふ!と怪しく笑いながら近寄ってくるリザに、ちょっと逃げたいと思いつつも諦めてシルバーはうつ伏せに座る。ちょっと尻尾を足の間に挟みそうになったけど、耐えた!
「うふふふふ。いい子ね、シルバー。ああ、このもふもふが抜けるなんて寂しいけど、夏毛は夏毛でもふもふ出来るし…。よし。この抜け毛でシルバーぐるみを作ろっと!」
「ガァウっ?…グウウゥ…」
シルバーぐるみ!なんで!ぬいぐるみじゃなくて毎晩お腹で寝て俺に抱き着いて寝ていいのに!
と思いはしたけれど、去年の思い出がそんなシルバーを踏みとどまらせる。
去年、まだ体長が成長途中で大型犬より一回り大きかったくらいで生え変えを迎えた時。全身をブラシでこすられる感触に逃げ回ったことがあった。その時、リザに言われた一言が。
『もうっ、シルバー!そんなに歩くだけでふわふわ毛が抜けてすぐ毛玉になるくらいなのに、ブラッシングさせてくれないなら、今後寝室には立ち入り禁止にするからね!』
(もふもふは好きでも寝ている間に口の中にこまかいもふ毛が入る状態を、さすがのリザでも嫌がった為)
ちなみにこの時シルバーはショックに打ちのめされて硬直し、そんなシルバーをポテンと転がしリザはブラッシングしまくりました。勿論もふもふしつつ毎日。
去年の教訓は生かされたのだ。
ただ今年はシルバーにとって去年になかった試練が訪れた。
「すっごいわねー、シルバー。今年は去年より大きいから、どんどん毛の袋がいっぱいになってくわ。これはクッションも作ろうかしらね」
ブラシが動かされる度に毛玉が出来、せっせとその毛玉を詰めたこまれた袋が五袋くらいになり。
「よしよし、大分手触りが短くなったけど、けどこのもふもふ感もまた…」
背中に乗ったリザが出来上がりに満足しつつ全身でもふもふを味わい、ついにお腹側に標的を定める。
お腹側に回ったリザがもふもふしつつ前足を押す。するとシルバーがころんと転がりお腹が上になる。もこもこな白い毛にリザは飛び込んだ!
もふもふ。ゴシゴシ。もふもふ。ゴシゴシ。
もふもふしながらブラッシング。もふもふしながらグラッシング。
「…クルゥルルルゥ」
「フンフンフーン♪」
「クゥ…。グルルルゥ。グルルルルルルル」
ふにゃーんとまるで借りて来た猫のようにリザのなでなでもふもふに溶かされたシルバー。その姿に狼の威厳は欠片もない。
もふもふ。ごしごし。なでなで。もふもふ。ごしごし。
「ふっふっふ。気持ちいいでしょー?シルバー。私がシルバーの為に愛情たっぷりで作ったブラシだからねー」
「グァフ!」
愛情!とふやけたシルバーの思考がその言葉にピクン!と反応した瞬間に衝撃が来た!
「ギャフゥ!!」
「ふっふっふー。全身で抱き着ける尻尾なんて、もうっ!夢にも見て夢だと諦めた桃源郷だよね!ああーーーこの感触がたまらんとですー!」
そこには全身で尻尾に抱き着いてなでまわすリザの姿が!!
「ガ、ガァウウゥウウゥウ」
「えー、何、シルバー。そこやめてって?ダメよー、尻尾とお尻も毛が凄いんだから。ブラッシング終わるまで我慢しないと、家入れないわよ?毛が凄いんだから」
「クウウゥゥルル…」
もふもふ。がしがし。ごしごし。もふもふ。がしがし。ごしごし。もふもふもふもふ。なでなでなでなで…。
ビクンっ!…フルフル。ブルブル。ピクンっ!プルプルプル。
「ギャフゥ…クルゥウ…」
我慢。我慢。我慢。我慢。我慢。が…我慢。我慢。
「フフフフフ。きもちえーのかー、ここかー?ここかー?」
もふもふもふもふ。もふもふもふもふ。ガシっ。
「ギャフゥンっ!」
ビクンっ!!ブチっ!ぐわっし!ボスンっ。ベロンっ。
「うわっ、何っ、いきなりってきゃあっ!ちょっとシルバー、顔舐めないでっ!大きさが違うんだから、べちゃべちゃになっちゃうっ」
「ちょーーーっと待ったーーーーっ!」
凄い勢いで飛んで来た緑の光の球がその勢いのままリザの顔を嘗め回していたシルバーの額にぶつかった。
「グガァアッ?」
「こーーーらーーーー!シルバーっ!なーにやってるのあなたはーーーーーっっ!!なんだ?じゃないでしょーーーっ!」
空中で腰に手をやって仁王立ちしているピュラを見上げて、リザはのんきな声を出した。
「あ、ピュラ。どうしたの?今シルバー、生え変えの時期だからブラッシングしてたんだけど」
「ブラッシング?ならなんでリザはシルバーに押し倒されてるのかな?そんな体勢じゃあブラッシング出来ないよね?」
はああーーー。っと全然わかってないリザに首を振りながらピュラはシルバーの鼻を蹴り飛ばした。
「んん?あ、尻尾の付け根をもふもふしながらガシってつかんでブラッシングしようと?」
「ふぅぅん?で、押し倒された、と?…シルバー?」
「…グガゥウゥ…」
硬直していたシルバーがピュラの冷たい眼差しにすごすごとリザの上からどいて横にお座りをする。ちなみに目線は斜め上だ。
我慢。我慢、してた。してたんだ。してたよ?
「シールーバー?」
まあ空を飛んでいるピュラには勿論そんなのは関係なく。鼻の上に仁王立ちをする。
「まーーーーったくーーー!あんたねー、ちゃんとリザに自分で説明出来るようにならなきゃダメだって何度も言ってあるわよね?」
「……クルゥ……」
「あんたもよ、リザ。いくらシルバーが触らせてくれるって言ったって、尻尾は特別だって言っておいたよね?なんで、しかも付け根なんて撫でまわしているのっ?」
「だってブラッシング出来ないじゃない?ほら、見てよピュラ。シルバー、大きくなったから今日のブラッシングだけで、二十袋分の毛が出たのよ?ブラッシングしないと、家が毛だらけで歩けなくなるわよ」
小さい頃家で飼ってた犬も、確かに尻尾とお尻触られるのイヤがったけど、実は一番毛玉が凄いところだから、しっかりやらないと、ね?
「…もしかして毎日ブラッシングするつもりなの?」
「うん。だってそうしないとシルバーが家に入れないし」
「……もうこの時期は外でいいんじゃない?」
「ガアウっ!!ガアアアッ!!!」
「へー、ふーん、ほー?自分が悪いのに?ひどいって言う資格があなたにあるの?ねえ、シルバー」
「キュウゥ…」
「フン」
「ねー、ピュラ、そこまで怒らなくてもいいよ?確かに顔舐めるのは止めて欲しいけど。べたべたになっちゃうし。目に入ったら大変だし?」
「…リザ。フゥー。で、リザは明日もシルバーをブラッシングするの?」
「うん!冬毛をもふもふするのはお預けになるから、存分にもふもふしないと!」
「…いーい?リザ。ブラッシングを始める前に私を呼んでね?名前呼んでくれればすぐ来るから?いーい?絶対呼びなさいよ?」
「んんー?うん、分かった。なんだか分からないけど、ピュラを呼べばいいんだよね?」
「そう。絶対に呼んでね?…シルバーは反省しなさい」
「クルゥ…」
「ふんふんふふふーん♪シルバーの毛玉、これだけあったら大きいクッションも出来るよねー。袋のまま洗って干しておこうかなー!あっ!シルバー!明日は水浴びねっ!洗ってからの方が毛がいっぱいとれた気がするっ!うちの犬も生え変えの時は良く洗われてたわ、そういえば!」
「…ゥウゥ」
「ほーら、シルバー。リザにとっては飼い犬だと思われてるわよ?飼い犬から上の関係になりたいなら、ちゃんと努力しなさい、ね?勿論押し倒してなめまわすのとは違うのは分かっているんでしょうね?」
「グフゥ」
「丸洗いしたシルバーもふかふかだからもふもふなんだよねー♪」
こうして初夏は。シルバーは丸洗いされてもふもふされつつブラッシングされて、弄り回されてもふもふしながら尻尾もギューギューされつつもふもふされるのに、言われるままになる日々となった。
「グルゥ…」
****
つい気晴らしにうちのもふもふ(柴犬オス1歳)のブラッシングで生え変えの抜け毛とりをしてたら、書きたくなりました!
ネタばれ要素は追及しないと楽しめます(おい)
次は設定の細部を詰めながら書くのでちょっと遅くなるかもしれません(第2章です。章わけしました)よろしくお願いいたします。
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