第8話 内政への、道??



 本日も晴天なり。そう腰に手を当てて思ってしまう程いい天気だった。旅立つにも雨よりも天気の方が気分がいいだろう!

 まあ旅立つって言ってもエーデルドさんは帰るだけなんだけどね。

「これ、お昼に食べて下さい。一応お昼くらいに食べれば、悪くならないと思いますから」

「わざわざありがとう。ありがたくお昼に食べさせて貰うよ」

 昨日の夜、久しぶりの一人じゃない食卓に(シルバーは大きいけど一応床で食べてるから)張り切って多めに焼いたパンに、燻製にしておいたイノシシ肉にハーブを挟んだサンドイッチをお弁当に作ってみた。あとエーデルドさんの里はここから真っすぐ目指しても歩いておよそ十日以上かかるというので、暑い夏でも持ちそうな乾パン(見様見真似で作ってみた)と干し肉も渡しておいた。

「では。申訳ないが返事は早くて一月後くらいになると思うのだが」

「いいですよ。くれぐれも道中気を付けて下さい。もし反対の方がいてこちらに来ない、となった場合は無理して返事を持って来られなくても、三か月を過ぎればこちらも無かったことと思いますから」


 ちなみにこの世界でも月単位がある。一月は二十五日で一年が十三月である。月の呼び方はそれぞれ三か月まとめて光、土、火、水、最後の一月だけは闇の月だ。(光の一の月、光の二の月、光の三の月、土の一の月、土の二の月、土の三の月、という風に言う)一日は十二刻、一刻が約二時間なので向こうと一緒だったのは、異世界にいることを自覚してから幸運だと思ったことの一つだった。


「…多分そのようなことにはならないとは思うんだけど、ね。こちらからの申し出なのにすまないね」

「いえいえ。自分の住む場所ですから。みんなが納得して決めた方がいいですよ。もし見学したい方がいれば、それはそれで約束を守ってくれるなら受け入れますので」

「本当にありがとう。とりあえず一番大事なのは、ここのことをみんなに私が知らせることだから、帰り着くことが第一に旅をするよ。そしてちゃんと長老に、みんなに君に誓ったことは伝えてからこの場所のことは知らせるから」

「はい。無事に帰り着くことを祈ってますね。どうかご無事で」

「ありがとう。シルバーさんも今回はありがとうございました。では。またお会いしましょう」

 集落と森の境目から、手を振ってエーデルドさんを見送った。昨日の今頃はいつもと同じシルバーと二人きり?だったのに、こうやってまた二人になるとちょっと寂しい気がしてしまうのが不思議だ。

「グルゥ。ガウっ」

「うん、シルバー、ありがとう。シルバーがいるものね。さあ、シルバー、今日も頑張るわよ!」

「バウッ!」

 まだエーデルドさん達が引っ越して来るかは分からないけれど、とりあえずやれることはやっておこう!とりあえず水路とお風呂!頑張ろう!



「ピュラー、本当にいいの?この木切っちゃって」

「いいのよ。どうせあのハーフエルフの里が引っ越して来たらここら辺は開くようになるし」

 エーデルドさんとの話し合いで、もし全員で転居して来た時の受け入れる大人と子供別の人数、暮らす住居の件数を聞いて、大体の住居予定数を決めた。その時に改めて私も増やす家の場所、畑の位置などをピュラ達精霊達とも話し合って決めた。

「…本当に良かったの?受け入れてもいいって返事しちゃって」

 集落の周辺には元々小麦畑の為に小川の近くは広めに切り開いてあったけれど、勿論場所が足りる筈はなく、森を切り拓くことになる。

「私は確かに森の精霊だけどね。別に森を切り開くのが絶対ダメなんて意識はないわよ?森があって、生きる生き物がいる。それが世界だわ。まあ、むやみに切り開こうとするなら、敵対するけど、ここではそんなことはしないでしょう?」

「勿論!この森で暮らさせて貰っているのは私達の方だもの。出来る限り生態系を崩さず、木を切るのも最低限にするつもりよ。それにちゃんとエーデルドさんとは誓約して貰ったし」

 現代日本知識チートで内政をしよう!と思ったり、エーデルドさん達を受け入れようと思ったりしても、ここでの森を切り拓こうとは全然考えたこともない。

「グァウ…グルゥ」

「シルバーってばやっり気乗りしないの?誰が来たって私の家族はシルバーだし、一番もシルバーだよ?…村の人間なら、多分この集落へ向かい入れようとは確かに私も思わなかったわ。でもエーデルドさん達なら、この森でずっと暮らしていた人たちなら一緒に暮らせるかも?って思ったのよ」

 エーデルドさん達が転居場所に困っている元々の原因も、森の中から出る選択をしないが為なんだから。

「…シルバーと二人っきりでもいいって思ってたけど、でもやっぱりここでまた笑い声を聞きたいと思ったのよ。ここは私にとっても、エリザナおばあちゃん達みんなにとっても決して寂しい場所じゃないから。同じ森で暮らしていた人たちなら、ここが前と同じように楽しい場所になるんじゃないかって」

「リザ…」

「…グルゥ。ガウ、ガウっ」

「ありがとう、シルバー。ピュラもありがとう。ピュラもスヴィーもドォルも他の精霊さんもいるのに、寂しく思ってごめんね」

「ううん、それは当然のことよ。逆に寂しくない、って言われたら、そっちの方が心配になるわよ」

「本当にありがとう、ピュラ。ちゃんとエーデルドさんとの里の人たちには誓約して貰うからね」

「まったく、リザったら。誓約なんていい、って言ったのに」

「ダメよ。そこはちゃんとするわ。エーデルドさんも納得してそれを込みでここに移住するか決める、と言ってたでしょう?」

 エーデルドさんに突きつけた質問と約束を、エーデルドさんは命に掛けて誓うと言ってくれた。なので『誓約』で縛らせて貰うことにしたのだ。

 『誓約』とはエリザナおばあちゃんから教わった『呪術』の中にある術だ。

 『誓約』の効果はその名の通り、自分自身の魔力(この世界に住まう生き物は一定の魔力を持っている)で誓約の術を通して宣誓した内容を絶対に違えることは出来なくなる、というもの。己の体内の魔力でもって強制的に禁止するということは、その誓約を違えた時、その人の精神に多大な負担がかかるだろうことを予測することは容易い。もしそんなことになった場合、最悪死に至る。だからよほどの時以外はこの術は使ってはならない、とエリザナおばあちゃんから教わった時に厳しく戒められている。

 エーデルドさん個人なら別に誓約まで求めずとも良かったけれど、人数が増えれば色んな人が増えることを警戒してしまう。村でのこともいい教訓になっているし。だから、向こうが求めて来るなら受け入れることには決めたけれど、譲れない点だけは全員に誓約を求めることにした。

 あの時エーデルドさんにした問いかけの内容は。



「まず最初に問いかけを。この答えが私の考えと同意出来なかった場合は、申訳ありませんがその時点で転居のお話は断らせていただきます。…ここは今はもう私一人だけですが、大切な想いのこもった場所なんです」

 この場所はエリザナおばあちゃん達が大切にしていた場所だから。その想いは教えて貰った生きる術とともに受け継いで、そしてその想いは私の想いでもある。

「はい、分かります。ここは凄く居心地のいい優しさがある。ここが森の中だと一瞬忘れてしまったくらいだ。大切にされていた場所だと初めて来た私にも分かる。だからここの一角にでも住まわせて貰えたら、と思って転居したいと申し出たのもあるんだ」

「…例え人どれだけ増えたとしても、必要以上に森を切り拓くつもりはありませんし、生活の不便よりも森との共存を重視します」

「はい、勿論です。毎日の穀物を作れる畑だけあれば、住居は森の木々の間でもかまいません。他は森の恵みを収穫します。勿論採りつくさず、支障のない分だけ森から分けて貰います。今の里も森の中です。ある程度の場所を木々の間に確保するのに間引貸せて貰うと思いますが、住居の場所全ての木々を伐る必要はありませんよ」

「…エーデルドさんには最初に知られてしまいましたから言いますが、私は精霊を見ることが出来て話も出来ます。だからここにはたくさんの精霊が、知り合いになった精霊もいます。だから私は人の暮らしが精霊にとって害となるなら、精霊をとります。そこのとをエーデルドさんはどう思いますか?」

 村へ行ったことで、人は世界が違っても変わらないと知った。自分がただのしがない一人の人間でしかないから、上辺だけのきれいごとは言いたくはない。けれど、実際に今これだけの豊かな自然があって、自然があるからこそ精霊もいる。人の業は深く、どんどん自然を切り拓くことで、地球環境の悪化という事実も知っている。なら、地球と同じことにならないように、自然を出来る限り壊さないことは出来る。

 まあ、こうやって人の立ち入らない森の中で生活している私という例外を自分が作っているんだから、まあ偽善だとは分かっているけど、ね。自己満足でもいいじゃない。


「…里の長老が里で生まれた子供たちに言い聞かせる最初のことは、私達エルフも獣人もドワーフも森の民であり、精霊と共にあったものだった、ということです。今では精霊を感じることの出来る者さえほとんど居なくなってしまったことを嘆き、それでも我々森の民は精霊と共にあらねばならない、というものです。だから私達が精霊の害となるならば、その時は森の民ではなくなった、ということであり、人里へ去るべきでしょう」

 静かにそう答えたエーデルドさんの瞳から、静謐な森の静けさを感じた。森の民、と自分達を言った彼の言葉がしっくりと胸へと落ちた。だから、自然と次の言葉が出たんだろう。

「…この集落で住む第一の条件は。精霊を重んじること。森を切り拓く時は、私が判断します。私がダメだと言ったら木を切ることも許しません。私は精霊に聞いて彼らの言葉を伝えます」

「はい。誓って勝手に森の切り拓くことはしません」

「第二の条件は、移住されるまでに私がこの集落を受け入れられるように場所を整えます。なのでこちらが指定した場所以外に建物や施設などが欲しい、建てたい場合はこちらの意向と指示に従って下さい。…これも精霊に聞いた上で決めます。…あともし私の住居以外の集落の建物は、そのまま補強で保持して使ってくれるなら住んでくれて構いませんが、取り壊しなどはしないで下さい。住む人は面接させて貰いますが、いま家にある荷物も捨てないで使っていただける方がいいです」

「それは勿論です。住居と、そうですね、里ではヤヴォを山裾に住んでいた時から飼っているので、ヤヴォの飼育小屋だけは建てさせていただければ十分です。今の里も建物はそれだけですしね。集落の家は…。いいんだろうか?私達が住まわせてしまって。家をそのまま使わせていただけるなら、長老達、独り身の年寄り達なら喜んで補強せずとも住むと思いますが。勿論面接してリザさんが決めるのは当然だと思います」

「…第三の条件は、ここのことは、結界を含めて外部に漏らさないでいただきたいのです。ここから丸一日森を歩けば人間が住む村があります。村へ行きたいと希望の方は、村へ移住していただいてここのことは一切話さないと『誓約』させていただきます」

「分かりました。そのことは帰ってしかと伝えます。その上で人間の中で暮らしたいと希望する者は、ここの集落へは来させずに、直接村へと行かせます。…まあ、いないとは思うけど、確かに分からないからね。そこは徹底する。誓わせて貰うよ」


「…ピュラ、スヴィー、ドゥル、どう思う?他の皆のことも考えて答えて欲しんだけど。シルバーも、ね」

 エーデルドさんとの会話の間にも、エーデルドさんには聞こえていないけど、皆の言葉は聞こえていた。リザがここで一人で暮らすよりは、森と共に生きる彼ら種族(山脈の向こう側では、国は森の中に各種族であり、精霊と共に暮らしているという)となら安心出来ると賛成してくれていた。森を切り拓くのも、森と共に生きる意志があるのならかまわない、と。そんなに頑なに誓約までして、私達精霊のことを第一にしなくてもいい、って。

 でもそんなのはダメだ。ここが精霊の力が強いと言うのならば、彼らの居心地のいい土地であるのだと思う。なら私の感情だけで変えていいものじゃない。

「この人は信用出来るよー。ちゃんと心から彼は言ってるよ。混血してても森の民であろうとする気持ちがあるなら、彼らは森の民だと思うしねー。まあ土については面白そうなことがあれば協力するし、声かけてくれたらいいよ」

 とドォル。

「水は流れていくものよー。まあここの小川は気持ちいいから、汚さないでいてくれたらそれでいいわよー。あ、ちゃんとたまには私と水浴びして遊ぶのよー!」

 とスヴィー。

「もうっ!リザはいつも気を使いすぎるのよっ!しょーがないから私が力になってあげるわっ。これからは他の人がいても顔出しに来るわよ!」

 とピュラ。フフフ。いつも森へ入ると出て来たのは、おばあちゃん達に気を使ってくれてたんだよね。分かってたけど。本当にピュラは優しいよね。

「…グルゥ」

「あーーー、シルバーったら何よ、その心配だって。もう、シルバーの嫉妬でリザを孤立させちゃダメだっていつも言ってるでしょ!いい男は包容力よ!」

「ピュラ…。何シルバーに言ってるの。。。どこでピュラはそんな知識を仕入れて来てるの?…シルバーは反対?シルバーが私の家族なのは変わらないわよ?私の一番はシルバーだもの」

「…バウっ」

「いいの?フフフフ。ありがとう、シルバー」

 拗ねたように逸らされたシルバーの顔を回り込んで覗き込むと、グルルと唸りながら胸元に頭をぐりぐりと摺り寄せて来た。ちゃんと体が傾かない力加減で。

「もう、シルバー!かわいすぎるー!」

 もうたまらんっ!とがしがしと頭を抱きしめて首筋をなでくりまわす。もふもふ。もふもふもふ。

「ガウウっ、ガウっ!」

「かわいいじゃない、カッコイイって?アハハハ!シルバーはかっこいいよ?カッコよくてかわいくてきれいでもふもふでたまらないよ?!」

 あーもう。こんなシルバーから私が離れる筈ないじゃないのよね?

「フフフフフ。仲が本当にいいんだね」

「あっ!すいみせん、エーデルドさん。みんながいいって言ってくれたので、先ほどの言葉を誓ってくれるなら移住のお話はお受けしたいと思います」

「誓います。この命に掛けても。森の民として精霊の方々にも誓います」

 その言葉から誠実さしか感じなかったことから、『誓約』の術の説明をして、それでもいいということで返事の時に『誓約』をして貰うことになった。

 

 そして詳細を詰めて行ったんだけれど。

 その時に水路の話や、きれいに整えられた畑の話になって。つい調子に乗ってうっかり現代日本知識チートで内政!を、現代日本知識チートの部分をぼかして説明なんてしてしまったら。

「いいですね。勿論私達が移住してきた後は、貴方がここの長ですからみんな従いますよ。是非あなたの言う暮らしやすい充実した生活とやらに、私達も加えていただきたく思います」

 なんて言われてしまった!!!!わざわざ丁寧な押しの強い口調で!!!



ええええーーーーーーっ!もし本当に移住して来たら、私が内政、NAISEIなんかしちゃうことになっちゃうんですかーーーーーーーっっ??




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