第6話 NAISEI(内政?)を始めてみよう!



 青い空、そして降り注ぐ夏の日差し。バルティモア山脈からの吹きおろしの冷たい風で、体感温度は日本の夏を経験していれば凄く暑いという訳ではない。けれど。

「あーーーーっ。やっぱり動くと汗が凄いわ。シルバー、そこ終わったら休憩にしましょ!」

「ガウっ」


 村から集落に帰ってから、まず貰った苗用の畑を造ろうと、畑の区画の整備をすることにした。

 現代日本知識チートで内政しよう!

 と意気込んで集落に戻っては来たものの、ただ単に一人だから出来るだけ日本式にしてみよう!という思いつきであって、別に急いでやることでもない。ただやることがあれば、一人きりになってしまった寂しさから気がまぎれる気がしたから。まあ失敗してもどうせ一人だしね?誰にも見られないし、迷惑かけることもない。となったら好き放題にするだけだし!


 それで最初に取り掛かったのが、今まで住んでる人数が少なかったことから、各家に少しずつあった畑を整備すること。

 整備と言っても思い出がたっぷりある家々をどうこうするつもりもないから、各家の畑毎に植える種類を変えた。麦や大麦など主食になるものは集落の外側に作ってある広い畑に。根菜類、葉類、その他の野菜にハーブ、そして貰って来た調味料の苗の畑。調味料に関しては本数を増やす予定で広めの場所をあらかじめ決めておいた。あとはせっかくなので花も森から根ごと持って来て植えたりもしていた。そのうち染料の研究でもしようかと思いがてら。

「せっかくだからピュラに木の実の苗木も分けて貰って果樹園も作っちゃおうかなー」

 作っても食べるのは自分の分とシルバーだけでも、保存食も各種この機会に作ってみたいと思う。今までは思っても集落の全員の分の食べる物を一人で畑の世話から収穫、森での調達だけで手いっぱいでそこまで出来なかったから。

 この森の木の実は日本での過度に甘い品種改良品とは違うけれど、自然の甘さがあってこっちの方がリザの好みに合っていた。だから木の実でお酒とか酢、ジャムの各種、などいくらでも作りたいものもあった。

「よーし、シルバー休憩にするよー!昨日焼いたクッキー、シルバーも食べる?大麦で作ったヤツ」

「バウッ!」

「よし。じゃあ準備してくるから広場で待っててね」

「グウウっ」

 ドンっという衝撃とともに背中にもふっとした感触が。

「んんん?シルバー、だって家まで帰るだけだよ?そんなに心配しなくても…」

「ガウっ、ガウウっ!」

「あー、はいはい。じゃあ一緒に行こうか」

 横に並んだシルバーの毛皮をもふもふしながら家へと向かった。まったく、心配性なんだから。村から帰って来てから、最低限の狩りの時間以外はずっとシルバーは私の傍にいる。まあ、いつでももふもふ出来るから、私的にはいいんだけど。この集落にいるのに、そんなに心配しなくてもいい、とは言っているんだけど、まあついて回るシルバーもかわいいからいいか!とかね。


 村から帰って来てから、ゆっくりとエリザナおばあちゃんの持っていた本も読み直している。この森のことはちょっとだけ書いてあったけれど、村の結界についてはエリザナおばあちゃんの書き残してあった紙などを見直していても、まだ見つかってない。

 あとは集落にはお風呂がないので、思い切って作ろうと近くの小川から水路を掘ろうと今整地代わりに予定の場所を決めて草をむしったりと近場の森の管理も初めた。

 あれもこれもと欲張りすぎてるとは思うけれど、一人だけだからとその日にやりたくなったことをやっていたりする。夜は買って来た布を、チャックとかはないけど日本風の服を作ったりしている。かわいいスカートは作っても森しかないので無駄になるから、元々この国にもあるチュニックを日本風のワンピースチュニックにしてみたりしている。型紙を立体型っぽく起こしてみたりして、ズボンも動きやすく工夫をした。靴に関してはゴムの木を見つけたいところだけど、諦めつつはある。まあピュラでさえ見たことないって言ってたからこの森にはないんだろうし。


「はい、シルバー」

 家の前の木陰で寝そべったシルバーのお腹にしっぽに包まれて座り、クッキーを二人で食べている。勿論もふもふに包まれてもふもふしないなんてことは出来ないから、お腹や胸の柔らかい毛やしっぽを堪能しつつ、だったけれど。

「これからどうしようかー、シルバー。畑はシルバーのおかげで大体耕せたからあとは畝作って苗植えればいいから、明日の早朝の涼しい時間がいいかなー」

「グルゥ」

 首元に抱き着いて胸毛にうりうりと顔をすりつける。ああ、幸せだ。

 今日はずっと朝からシルバーは思い出しつつ適当に作ってみた、木の牛馬ようの犂?を作って引いて貰った。さすがに鍛冶はこの集落では誰もやってなかったから鍛冶場がなく、教わりもしなかったので鉄器は作れなかったけど。

 一応鍬は昔ロムさんが持って来てくれてたからあるけれど、シルバーの力を使うには小さすぎるから、大きな獲物の肋骨を再利用して、それをいくつか横木にはめ込んで、それを引いてもらった。まあすぐダメになるから消耗品だけど、畑もそんなに多くないからそれで充分だ。


「汗もかいたし、水浴びでもしようか。あ!水で思いついたけど、お風呂用に水を引くにも近くに水場があった方が便利だから、どうせなら水路だけじゃなくため池でも作ろうか。溢れてもいいように集落の外れまでだけどね」

 集落では広場に井戸を掘ってあり、基本の水は井戸の水を使っていた。あとは小川まで行って汲んできたりしていたけれど。

「で、ため池のそばにお風呂作ればいいかなー。土管とか作れないからキレイな水を引くの、どうしようかと思ってたんだ!」

 お風呂は木で作ろうかな。シルバーも入れるように大きいの!水が漏れそうな隙間は木の樹脂でつなげれば少しはもつだろうし。後で伐採していい木をピュラに教えて貰おう。

「よし!水路にしようと思ったとこを掘って、あとため池作ろうっと!シルバーも協力お願いね!」

「ガウガウっ!」

 水路には高低差をつけないと流れないだろうから、角度も考えて掘らないとね。

「じゃあ小川まで行きましょ!タオルと鍬も持ってくるね」

 さあ、少し水路を掘ったら水浴びして夕ご飯の支度をしないとね!



 小川は集落の畑の奥を歩くとある。もしかしたら最初は小川から水路を引くつもりだったのかもしれない。でも多分人が減って行くばかりだから、水路なしでもいいと作らなかったのかな?と思う。実際畑にまく分くらいは、みんな小川から汲んで来て蒔いていた。

「まあ一人だから尚更必要はないんだけどねー。でもお風呂!お風呂は絶対日本人には必要なのよっ!」

 今までは良く我慢出来たものだ。今は今すぐにでも欲しくてたまらない。

 お風呂の為なら!と持って来た鍬を水路予定の場所に突き刺す。この掘り出した土は後で畑に持って行くとして、この水路を固めるのに、何かいい物はないかな…?

「クーン?」

「ああごめんねシルバー。シルバーにはわからないか。お湯を溜めた浴槽に入るのよ。盥にお湯溜めるでしょ?あれの大きいやつで、全身入るの!」

「…グウゥ」

「あっ!シルバー、ダメよ、いやがっちゃ。出来たらシルバーも入るのよ。その毛並みをお湯で洗えばもっともっとふかふかになると思うの!あああー、石鹸も作りたいけど作り方知らないんだよね…。オリーブの木があったら油もとれるけど、あれ南じゃないと育たないしね」

「…クゥ」

「こーら、シルバー。なんで逃げようとしているの?入ってみたら気持ちよくなってシルバーだってお風呂が好きになるに違いないわよ!」

「ガ…ガゥ」

「そうそう。入ってみなきゃ分からないんだから、だから早くお風呂の為に水路を作っちゃいましょう!水路があれば色々出来ることも増えるしね!」

 目指せ上下水道!現代生活には必須だし!水洗トイレがなつかしい…。


「水浴びに来たんじゃないのー?」

「んん?あ、スヴィー、珍しいねここにいるの」

 すいっと小川から青白く光る球が飛んで来て、目の前に止まった。

「んー。リザが一人になっちゃったって聞いたから。しばらくこの小川のとこにいるわー」

「心配して来てくれたの?フフフフ。今夜は嵐になって川が溢れちゃうかしら?」

「むうー。人間があんなに水の中にいられないなんて思わなかったんだものー。もうっ!リザのいじわる」

 このピュラと同じサイズで水色の髪に青い衣の子は水の精霊で、幼いころに足を滑らせて流されていた時にじゃれついてきた精霊さんである。あれからたまに水浴びしてると遊びに来る。まあ水の精霊は水のように流れて行くものだから、精霊の宿る泉とか湖以外ではあまり同じ処に留まることはしない性質だってピュラから教えて貰った。

「ごめんごめん、ありがとう。慰めに来てくれたんだね。でも大丈夫よ、シルバーもいるしね。だからスヴィーはここに留まるなんて無理しないでもいいのよ」

「いいのよ!私もここを気に言ってるしねー。ここはいい魔力がするもの。今はリザだけなら自由に出来るしねー」

 溺れかけたあの時、飛んできたピュラがスヴィーに人間は脆いから乱暴にしちゃダメって怒られて、それからは何かと気にしてくれているのは知っている。本当はとっても優しい子だって。まあ、無邪気で遊び好きなのも性格だけど。

「えー…。いや気に入ってここにいるのは別にいいけどね。遊んで水嵩をいきなり増したり流れ変えたりはしないでよ?今、ここから水路を引いてため池も作る予定なのよ」

「へえー、水路作るんだー。手伝ってあげるよ。水路が出来たら水流してあげるー」

 手伝い!いっつも遊ぶー!とかしか言わないスヴィーが!

「ほえええー。それは助かるけど。でも水路とため池掘って、それを固めないと水が溜まらないよね。だからまだ水路のめどは実は立ってないんだよね」

 掘るだけでも一応出来るけど、土にしみこんだ水分で地盤が緩くなったりしたら困るしね。コンクリートなんて都合がいいものがある訳ないし!

「グゥオ?」

「ああ、うん。シルバーに掘って固めてもらうってのもあるんだけどね。あとは石か板でも水路には引いた方がいいかな…」

「ああー、成程ねー。それこそ土のヤツに頼めばいいんじゃない?確か居なかったっけ?ここら辺に棲んでるの」

「土の精霊さん?いるけど…。ドォルに頼むのは悪いよ。それこそ土を削ってため池と水路にするんだよ?」

 土の精霊のドォルはうちの畑に棲んでいる。小さな頃に日本現代知識で生活を良くしよう!とか思って一度肥料を作ろうと思った時に、見事に失敗して。抜いた草とか落ち葉とかに昔は飼育していた山羊に似ているヤヴォの糞を溜めて肥溜めを作ってみたんだけど…。見事に腐っただけだった!すっごい匂いで。。。

 簡単に出来たら知恵なんていらないよね…。あれで集落の暮らしに現代日本知識チートを取り入れるなんておこがましい!って自覚したしねー…。昔からの生活の知識、おばあちゃんの豆知識、それが経験の積み重ねだと思い知らされたなー。まあ結局森から腐葉土持って来て畑にまいたら生る実が増えたから、それは集落でみんながやるようになったけれど。

 で、ドォルはその肥料を作る実験の時に『何やってるの?土がなんか凄い熱持ってるけど?』って話しかけて来た。その時に肥料の話をしたら何故か興味を持って、そのままうちの畑に棲んでいる。ミミズがいる畑は肥えるって話もしたら、ミミズを誘導してくれたり、モグラを撃退してくれたりしていたりする。

「んんんー?リザ、呼んだー?なんか最近畑が増えてないー?」

「ドォルくん。いつもありがとう。うん、そうなの。ちょっと畑の区画整理とかしてみたりね」

「何それー。やっぱりリザはやること面白いね」

 噂をしてたら地中からドォルが出て来た。ドォルは大きさはピュラとか他の精霊さんと一緒だけど、土だからか羽はみあたらない。土色の髪に長袖長ズボンの男の子?だ。

「ガウっ」

「おっ、シルバー、君が頑張ったの?うんうん、土の管理は僕が見てあげるね」

 そういえばエリザナおばあちゃんも他の集落のみんなも精霊の姿を見ることは出来なかったし、ピュラも今精霊の姿を見ることが出来る人は私だけじゃないか、って言ってた。でもシルバーはそういえばみんなのこと見れるし会話も出来ているんだよね…。どうなっているんだろ?シルバー。そういえばピュラもシルバーのことはなんかこう曖昧なことしか教えてくれないんだよね。

「あー、あなたが土の精霊ね?私はリザの友達の水の精霊のスヴィーよ。あのねー、リザが水路とため池?が作りたいんだってー。私が水流すからー、あなたが穴掘ったら土を固めてあげてくれるー?」

「ん?いいよ!畑もいいけど、水路作ったらまたリザが面白いこと始めそうだし。手伝ってあげるよ」

 おおお!勝手になんか手伝いが決定してる!助かるけど!でもいいのかなー。こんなに精霊に手助けして貰っても。まあ精霊を見れる人もいないんだし、私がなんか特殊なだけみたいだし、他に人もいないから、いいってことなのかな?と思っていたら緑の光る球が飛んで来て額にぶち当たった。

「あーーーー!なんか私を抜かして楽しいことしようとしてる?ちょっとリザ、なんで私をのけ者にするのよっ!私が一番リザと付き合いが長いのにっっ!」

「ピュラ。いや、別にのけ者になんてしてないし。面白いこともしてないよ?」

「グルゥ」

「ね、シルバーもそう言っているでしょ?ここから水路を作ろうとしてたらね、スヴィーとドォルが手伝ってくれるってことになったみたいなの」

「へー、水路をねー。うーん、リザ、何か私に手伝えることはないの?」

「水路が終わったらお風呂を作るから、木材がいっぱい欲しいの。伐採していい木を選定してくれるかな?ピュラ。あと木の実の苗木も欲しい!」

「ふーん。ま、いいわ。分かった、いいの探しておいてあげるわ」

「わあ!ありがとう、ピュラ!」



「へえ、水路を引くんだね?ここはいい土地だ。水路を引いたらもっといい土地になるね。それに君、精霊を見れて話せるのか。凄いね」

「!!!!だ、だれっ!」

 振り向くといつの間にか一人の男の人が立っていた。長身で細身で金髪。そして切れ目で色素が薄くて、顔立ちも美形だった。えーっとこれで耳が尖っていたりしたら…?

「ガウアウガっ!!」

「あ、シルバー、待ってっ!」

 シルバーも近づいて来たその男の人に気づかなかったのか、敵意をむき出しにして今にもとびかかろうとしている。慌てて唸って前足に力を溜めるシルバーの首に飛びついて抱き着いてなだめる。いくら不審者でも、いきなり飛び掛かってケガさせていい訳はない。


「ふーん、あなたエルフの血を引くのね?しかも混血なんて珍しい。相手は獣人かしら?」

 え、えええええええーーーーーーーっ!エルフ、ですとーーーーっっ!!!


 


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

お盆連休も終わり明日から仕事です(しょぼん)

なので更新はのんびりになりますです!よろしくお願いいたします。

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