第4話 村に着きましたが…?



 今が丁度昼食後くらいの時間だからだろうか。畑のあちこちで作業している村の住人だろう人たちは、森へ続く丘から降りて来た私の方を顔を上げて見ている。

 うーん。。。まあ、仕方ないよね。私だって不審者見かけたら見るよね。でも顔を出すにはちょっと実際の様子見てからにしたいしな…。

 本で書かれていたことは大分前の本だったから、で済むがエリザナおばあちゃんも言っていたことだから、少なくても何十年か前でも黒髪の人はほとんどいないのは事実だと思うので。大陸や国、地域によっては髪色の違いがあるっていう推測は出来るから、私みたいな外見の人が全くいない、とは思ってはいないけれど。やっぱりここではフードをかぶっていた方が黒髪よりも目立つと実感出来るまではフードを外すことはやめておきたい。


 畑の中の道を視線にさらされながら歩いて、やっと門へとたどり着いた。そこには槍と皮鎧をつけた警備員だろう男の人が二人立っていて、声を掛けて来た。

「このイルムの村へは初めてか?何をしに来た?」

 かなり高い位置からの太い低い声に、一瞬ビクっと反応しそうになる自分を押さえて、なるべく普通に聞こえる声を出した。

「旅の者です。父が狩人をしてまして、獲物を追って初めてここら辺りまで来ました。この村に来た目的は、毛皮と薬草を売って調味料とかを買う為です」

「旅の者、か…。狩人でここらまで来るのは珍しいな。父親はどうした」

「森で罠を張ってます。ここには私一人で買い物だけ目的に来ました」

「そうか。一応品物を見せて貰えるか?」

「はい、この籠の中です」

 不審がる声音は変わらないけど、ここまでの作った自分の設定は普通に通じていることとフードを取れとは言われないことに安堵しつつも、害意がないことを示す為にゆっくりと籠を降ろして中身を見せた。近くで木の実と薬草を採って来ていて良かった。

「おお、ピイルの実もあるじゃないか。森の中でも見つけるのが難しいのに良く見つけられたな」

「はい、これを運良く今日見つけられたので、買い物にこの村に寄ることにしたんです」

 ピイルの実は片手くらいの大きさの赤い実で、リンゴのような甘酸っぱい味がする。この時期の木の実では一番美味しい木の実で、エリザナおばあちゃん達も大好きだった。やっぱりこの村でも人気があるようだ。採って来ておいて良かった。

「良し、通っていいぞ。店はこのまま中央の大通りを歩いていくと広場があるから、その周りに大体集まってある。そこで交換するか、売って買い物を済ませるといい」

「ありがとうございます!」

 ちょっとだけフードを上げて目だけ見せて微笑んでお辞儀をするとゆっくりと村へと入って行った。


「…生活水準は中世ヨーロッパくらい、かな?」

 何しろ集落は何十年の前にあそこにエリザナおばあちゃん達が移り住んだ時から、外との交流はたまに来る行商人のロムさんだけ、という話は聞いていたので、この世界の水準を未だに判断出来ずにいたのだ。

 村の家は丘の上から見たとおり、木と石で出来た建物が多かった。村のメインの大通りに面した家は二階建てが多く、裏手はほぼ平家かたまに二階建て。遠くに見える大きな屋敷は村長さんの家だと推測する。行きかう人の着ている服装も集落とそんなに変わりはなかった。ただー…。

「うわあ、あの服かわいい色してるなー。あ、あのスカートもかわいい。うーん。布買って行こうかと思ってたけど洋服にしようか迷うなー」

 形はそんなに変わらなくても、鮮やかな色の布や若い女の子の髪には髪飾りなのがあったり、色々とおしゃれという面では全然違っていた。

「でもやっぱり、あれだよね…」

 見渡しても目に映るのは色鮮やかな色彩ばかり。色とりどりの髪色に瞳、そして彫りの深い顔立ちにがっちりとした体形。そう、集落ではお年寄りばかりだからあまり感じなかったけれど、この世界の人は日本人より確実に平均身長が十センチは高そうで、骨格もがっちりしている感じだった。

 リザは日本で生きていた時と同じだと気づいた十歳の時より育ってはいたが、やっぱり顔も体形も日本でいた時のまま育っていて、今は十五歳になったけれど、身長は百五十五センチくらいだった。二十五歳の時も百六十センチだったから、この世界ではかなり小さい方になるんじゃなだろうか…。

 村の住人の大人は女の人でも私より約二十センチ近くも高い人も結構いて、フードをとれと言われなかったのも、門番の人にかなり小さな子供だと思われてあまり警戒されなかったからだと理解してしまった。

「門番の人は警備員さんっぽかったから大きくても戦闘出来る人だからかな、と思ったのに」

 みんなが身長は高かったんだ…。だとするとどこ行っても子供に思われるか、浮くかどっちかだよね…。うん。日本人は世界どこ行っても若く見えた!だからこっちでも若く見えるだろうから大丈夫!…大丈夫、だよ、ね。

 思わず何歳まで子供で通すことが出来るかまで思いを馳せてしまった。

「これじゃあ服買うなら子供服になっちゃうな…。やっぱり布を買って帰って自分で縫おう。とりあえず何売るか決めてさっさと買い物しなきゃ」

 シルバーが今かまだかとうろうろしていて、ピュラにたしなめられている姿が目に浮かぶ。


「おじょうちゃん、何を探してんだい?」

 キョロキョロしながら大通り沿いの露店を冷かしながら歩いていたら、声を掛けられた。声の方を見ると、露店を広げている中年の女の人がいた。

「山で採れた物を売って、調味料とか布とか欲しいんですけど…」

「ほお、山でかい?何を採って来たんだい?」

 ニッコリ笑いながら背中の籠を見る。ああ、籠を背負っていたから荷物があるのは見て取れるから声をかけてきたのかな?

「ええと、お父さんが狩人なので毛皮と、森で見つけた薬草と木の実とかです」

「へえ、ちょっと見せてくれるかい?」

「はい、これ、なんですけど」

 背中の籠を降ろして籠の中を見せる。薬と集落周辺での珍しい薬草などは分けてフードの下のカバンに入れてあるから、この籠はここら辺の森で採れるものだけ入れたものだから、見せても問題はない。

「へえ、ピイルの実もあるじゃないかい!凄いね。他にも木の実があるね。ねえ、おじょうちゃん、この木の実はうちに売ってくれないかい?売ってくれたら毛皮を売れて手頃でいい布を買える店を紹介してあげるよ」

「ええ、いいですよ。じゃあそこのハーブを見せて貰ってもいいですか?あ、あと薬草を扱ってる店はありますか?」

 この露店では野菜やハーブなどを扱っていた。中には見たことがあるようなハーブが見えて気になっていた。後は一応露店を覗きながら歩いていたけれど、まったく同じ物を売る店、というのは気が付けば規格がある訳じゃないからなくて、なんとなくとしか値段の把握は出来なかった。まあ今日は最低限の森で採れる以外の調味料と服用の布が手に入れば後はお金は別に良かったので、買ってくれるなら値段にはそれ程拘りがなかったのもある。露店を覗いていても置いてあるの食べ物や小物、見て分からない道具などで、これが欲しいと思うものもなかったし、集落ではお金は必要ないものだから。あとこの人の笑顔も布屋を紹介してくれる、という言葉には裏がありそうには見えかったし。

「いいよいいよ、ハーブは見ておくれ。欲しいのがあったらそれを抜いた金額を払うよ。じゃあピイルの実と木の実を買わせて貰うね。あと薬草を扱ってるのは薬屋くらいかね。薬屋は村で一件だけだから、店の場所を教えてあげるよ」

「ありがとうございます!では、ハーブをこれとこれを覗いて少しずついただいていいですか?」

 薬屋が村で一件だけ、ということは多分ロムさんの店だろう。ロムさんの名を出して聞くのも躊躇いがあったので、一件だけ、というのは助かった。あとはもう少し調味料や売っている物をみながら露店を見たら、紹介してくれる布の店と薬屋を回ったら森へ戻ろう。

「はいよ。じゃあ残りはお金で払うよ。いいピイルの実だから銀貨2枚ってとこかね。布の店は次の角を左に曲がって入ってちょっと奥まったとこにある店だよ。大通りの店じゃあないが、若い娘さんが好む布の扱いじゃあこの村では一番だよ。薬屋は広場の向こうの通りの一本目を右に入ってすぐのところにあるよ」

「ありがとうございます!助かります!布の方から見てみます」

「そうしな、そうしな。やっぱり若いうちはもっと明るい色の服が着たくなるだろ?」

 はい、なくさないようにね、とお金を渡して籠にハーブを入れてくれた露店のおばさんにお礼を言って教えて貰った布の店へと向かった。


「こんにちわー。あの、ここで毛皮を買い取ってくれて布を売ってくれると聞いたんですけど…」

 路地を入って言われた通り奥まったところにあったのは、一見すると店だとはわかりにくい場所にあった。けれど色とりどりの布が見えたので、多分ここだろうと思って声を掛けてみた。

「はいよー。どうど入っておくれ」

「はい、おじゃまします」

 店の奥から聞こえて来た返事に安心して中に入る。露店のおばさんが言っていた通り、凄い種類の布があるようで心が浮き立った。

「どれ、持って来た毛皮を見せてくれるかい?おじょうちゃんは見かけないから旅の人かい?」

「はい。父が狩人でここまで足を延ばして来ました。毛皮はこれです」

 籠の中から厳選して持って来た毛皮を取り出す。狩りの仕方も獲物の解体の仕方も皮のなめし方も、集落で全て教えて貰っていたから全部自分で出来る。まあ最近はシルバーが狩って来たものを解体することの方が多いけれど。最近の獲物の中でもちょっとした珍しすぎない獲物の毛皮と鞣した皮を少しずつ持ってきてある。

「おお、これは…。…これはいい状態のものだね。さすがに旅の狩人さんだ。この皮の鞣し具合も文句ないものだよ。それでおじょうちゃん、布が欲しいんだろう?好きに見てってくれ。欲しいものと金額は差額が出たら清算でいいかい?」

「はい。では見せて貰いますね」

 店の布は肌ざわりが滑らかな高級な布はなかったけれど、丁寧に色々な色に染められた布や、色々な毛から織られた布があった。布も教えて貰ったから織ることは出来たけれど、村には布用の毛皮を持つ羊系を飼育している訳ではなかったし、色も染めるにも色鮮やかな花などあまりなかったから、やっぱり色々な色の布を買っていくことにした。あと手触りが気に入った生成りと黒の布も手に取る。別れ際にピュラに「買ってくるなら布は多めにするといいよ」という言葉がなんでか理由はわからないまま気になったので、一応多分買えるだろう分の布を選んでみる。

「これ、お願いします。ええと色が鮮やかな分は二メル(一メルが大体一メートルくらい)くらい、他は生成りの分を多めに買い取り金額で買える分欲しいんですが、どのくらい買えそうですか?」

「はいよ。おお、おじょうちゃんは見立てがいいね。いい布を選んでいるよ。毛皮と皮の代金分で生成りがが五メル、黒が二メル、ってところかね」

「はい、それでお願いします。ありがとうございます!」

「いいや、こちらこそいい毛皮と皮をありがとうね。まだここら辺に来たら持って来ておくれ。いつでも買わせて貰うよ」

「ありがとうございます!ではまたここら辺に来たら持ってきますね」

 お礼を言って籠に布を入れて貰うと店を出た。何枚かの毛皮と皮がそれなりになったようで大満足だ。確か中世のころは布は高価だったはずだから、こんなに買えるとは思っていなかった。これで薬草を売る必要はなくなったけれど、このまま持って帰っても用途がないので、せっかくだから広場を回って調味料とか買い物をしがてら薬屋を覗いてから戻ろう。

 あ、ピュラにもお土産にかわいい花とかあったら買ってみようかな!


 なんだかシルバーがピュラに落ち着きなさい!と怒られているような気がするから。もふもふが恋しいけど!まだ一刻(約二時間)には間があるので、もうちょっと探検して行こうと思います!




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長くなったので切りました。見せ場(もふもふ場!)がないので夜にもう1話更新します!

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