第1話 あなたはどうかしてるからどうにかさせてください。
まぶしい朝日がカーテンの隙間から俺の目に当たる。
「...朝か...」
俺は目を覚まし、椅子から降りた。
そしてカーテンを開け、窓を開け、そよ風に当たる。
「結局昨日も寝落ちか...」
俺はパソコンの画面を確認する。
ログの時間を見る限り、午前1時までチャットしていたらしい。
ここ数年、こういうことがよくある。
毎日夜が深くなるまでネットでチャットする。
ネットは程々にするべきなのは自分も重々承知している。
だが、毎度のごとく熱が入る。
こすった眼で再び画面を見る
7時30分
「ヤベッ!」
俺は自分が学校に遅刻しかけているとようやく理解した。
俺は身支度を済ませ階段を降り、李便着に向かう。
リビングには誰もいなかった。
ダイニングテーブルの上に置手紙があった。
「スズか」
妹の鈴音。少なからず俺よりかはしっかりしている。
自由奔放でマイペースだが、家事洗濯は基本すべてやってくれている。
家族が夜遅くに帰ってきたり、帰ってこないこともザラにあるので普段からやってくれている。
俺は手紙を読んでみた。
『お兄ちゃんへ。ご飯作っておいたから、レンジでチンしてから食べてください。あと、もうこれに懲りて夜遅くまでのネットをやめるように!』
さすがと言いたいものだ。俺の寝坊の理由を完全に理解してやがる。
俺は感心しながらテーブルの上に置いてあった朝ごはんのプレートを
レンジに入れた。
レンジで温めている間に俺は洗面所に向かい顔を洗う、歯を磨く。
こんな日常を送っている俺、長峰裕也。
何もかも中の中の人間だ。テストの成績も中の中、運動能力も中の中、顔も(多分)中の中。
いわゆる普通だ。
しかし、人間には必ず特徴というものがあるもので、残念ながらこの中の中という枠組みに入らないものが2つだけある。
1つが友達の数。俺は友達というのが0と言ってもいいほど少ない。
少ない以上にいないだろう。俺は友達を作るのが極端に嫌いでよっぽどのことがない限り友達とは認めない。
なぜ嫌いかというのは特別今は関係がないだろう。とにかく今の俺は友達は作らない。
絶対に。
そしてもう1つ、それがネット能力だ。
友達の話だが、俺は一つ訂正をしなければならない。
俺は「リア友」を作らないだけであって「ネッ友」は作る。
少し話がそれてしまったが、俺はネット能力が高い。自分で言うのは少し照れるが、俺はネット界では結構名が知れている。
別にバカッターになったわけではない。ブログや掲示板で投稿していくうちに名が広まったのだ。
ただ俺はアンチコメントをして名を広めたわけではない。それをできるほど俺は勇者ではないのでね。ならどうやってかというと―
ピー、ピー、ピー
おっと、どうやら温まったみたいだ。
俺は朝ごはんをレンジから出し急いで食べる。
「美味い」
スズの作る料理は本当に美味しい。店を開いてもいいぐらいだ。少なくとも、俺は日本一美味いと思う。
そうこうしているうちに時計の針は8時になる。
俺は皿を食洗器に入れ、ドアのほうに向かう。そして急いで靴を履き、鞄を持ち、ドアを開ける。
「行ってきまーす」
返事の来るはずのない挨拶をし、俺はドアを閉じる。
猛スピードで走った俺は何とか遅刻せずに済んだ。久々に走ったからか、いつも以上につかれる。
「こんな坂道の上に学校なんて建てるなよな...」
青柳学園。
この付近に住んでいる人ならだれでも知ってる地元の高校だ。偏差値も特別高いわけではない、ごくごく普通の高校だ。
ただ、立地が立地だ。こんな坂道に学校を建てるとか...マジであり得ない。
俺は文句を言いながら教室へ向かう。
「おい、昨日のあの投稿見たか?」
「ナインの投稿だろ?マジですごかったな」
廊下でこのような会話が聞こえてくる。
「ナイン」
それが俺のネットでの呼び名だ。
さっきも言った通り、俺はネット界では結構な知名度を誇っている。
だが、今の会話のように学校内で俺の名前が出るのはいたって普通のことだ。
この「ナイン」というのは俺の一番好きな偉人である「ナイチンゲール」からとった名前だ。敵味方問わず人を助けようとする心。
最初は偽善だと笑った。
しかし、よくよく考えてみるとその行いは実に素晴らしく美しいと思った。
名前の由来については誰にも伝えたことがない。伝えたところで笑われるだけだ。
歩いているうちに教室についた。
クラスは賑やかだ。その中の半数は「ナイン」の話をしている。まぁ、その本人がおんなじクラスにいるなんて誰も思ってないだろうが。
俺は席について朝のホームルームを待つ。
すると後ろから声がする。
「よぉ長峰。お前、昨日のナインの投稿見たか?」
めんどくさい奴が話しかけてきた。
唐沢亮、おんなじクラスのいわゆるヤンキーだ。
ヤンキーと言っても暴力を毎日ふるっている不良というわけではない。クラスの奴らとも不通に話しているし成績もそんなに悪くない。
ヤンキーというのは他人に体ではなく口による暴力をふるっている。
ただそんなことをするのはたまにで、基本怒らせなければただの高校生だ。
ちなみに、みんなが言っている俺の投稿というのは、「情けは人の為ならず」という言葉の俺なりの意見を考えただけだ。
人のためとなる情けとは一体何なのかを少しばかり考えて書いただけだ。特別面白くもなんともない。こんな事、小学生だってやろうと思えばできるというのに。
「やっぱりスゲーよな、ナインって」
俺はこんなことを聞くために耳を傾けていたのかと思いあきれた。
「そんなことを言うために話しかけてきたのか?」
俺は強めな口調で唐沢に言った。
だが、話はどうやらそれだけではないらしい。
「まぁそれもあるんだがな、どうやら....」
唐沢がしゃべろうとした瞬間、
「席につけ―。ホームルームを始める」
先生が教室に入ってきた。
「おっと、席につかなきゃ。また後でな」
唐沢はそう言い、席に戻った。
(来るんじゃねーよ)
俺はそう思いながら1時間目の準備をした。
授業が一通り終わり、昼休みになった。俺は即座に教室を出て屋上に向かった。
屋上に出た俺はリュックにしまっていたメモ帳とスマホを出した。
これから何をするかというと、簡単に言えばネタ探しだ。
昨日はネタがなかったのでああいうものを書いたが、普段ならしっかりネタを用意してから書く。
ネタというのはさまざまある。今期のアニメ、ラノベ、掲示板、動画サイト。いろんなところからネタを仕入れ、個人的な意見を書き込む。ブログの閲覧者が伸びてきた時からやっていることだ。ちゃんとした情報を得ずに書いてしまうと炎上しかねないからだ。
面白そうなネタをメモ帳に書き込む。
「あ、さいごぶちょーが復活してる。こりゃいいネタになりそうだ。ほかには・・・」
俺はペンを片手にネットサーフィンを続ける。すると、
ピロリン
スマホから通知音が鳴った。
「ブログにコメントでも来たのか?」
普段ならコメントは読まない。何千、何万という単位なんて読むひまがないからだ。
ただこの日の俺はなぜかコメントを読もうと思った。そして今来たコメント読んでみることにした。
「応援コメント、スパムコメントにアンチコメント。うん、なんら変わりはないな」
コメント欄に異常がないことを確認した俺はホームボタンを押してネタ探しに戻ろうと思った。
しかし、画面を閉じようとした瞬間、俺の目にあるコメントが目についた。
『私に情けをかけてください』
このたった1行の文章が俺を不思議に思わせた。応援コメントというわけではないし、アンチコメントでもない。URLがないことからスパムコメントというわけでもなさそうだ。
俺はユーザーネームを確認した。
そこには『クロネ』という名があった。
「『クロネ』?聞いたことない名前だな」
俺は基本名のあるユーザーなら熟知している。大手の配信主から有名なアンチコメンターまで、いろんなユーザーの情報を把握している。
しかし、どれだけ考えても『クロネ』というユーザーネームに聞き覚えがない。昔チャットした覚えも荒らされたこともない。ならこいつは一体誰なんだ?
俺はなぜか気になってしまった。
「とりあえず、サーチをかけるか」
俺はそう言ってポータルサイトに飛んだ。
普通ならユーザーネームを押せばそいつのユーザーページにはアクセスできる。
だが、俺は安全にサーチをかけられる方を選んだ。むやみやたらにそのユーザーページにアクセスしてIPアドレスがバレでもしたら怖いからだ。実際昔にそういうことがあったからなおさらだ。
俺は検索欄に『クロネ』と打ち込んで検索ボタンを押した。少しばかりのロード時間の後、検索結果が出た。
「なるほど・・・・」
検索結果を見る限り、『クロネ』は数々のアカウントを持っているようだ。動画共有サイトからブログまで。見た限り50個はあった。どうやらこいつもネットの住民みたいだ。
ただ検索結果を見ているだけではらちが明かないので俺はとりあえず大手のSNSサイト『テイッター』にアクセスしてみることにした。
「さてさて、どんな子なのかな」
俺は『クロネの投稿を見始めた。30分に1回のペースで投稿している。学生が普段授業を受けている時間でさえその周期は変わらない。
定期投稿システムかとも疑ったが、投稿の内容を見た感じ、そうではないようだ。
「俺の予測が正しいなら、『クロネ』はニートだな。あーあ、時間を無駄にしてしまったな」
そう言って俺はスクロールを止めようとする。止めた瞬間、俺は画面を見て目を疑った。
そこには、トラウマになる人もいるかもしれないような文が書き込まれていた。
『リア友はくそだ。平気でいじめたり影口を言ったりする。見た目や趣味で勝手に決めつける。力のあるやつが上でないやつが下。くそだ。くそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだくそだ。』
文にはリア友に対しての強烈な批判が書かれていた。
何回も使われている『くそだ』の文字。
そこからは強い恨みの心さえも感じられる。
「酷い....。どうしてこんな....」
確かに俺も共感するところはある。リア友はいたって何の価値もないと思う。おんなじ趣味を分かち合える奴なんてそうはいない。
だが、これほど強くいらないと思ったことはほとんどない。
見るのが辛くなってきた俺は画面を閉じた。
少し考えてみたら、俺の頭の中の疑問がすべてつながった。
「そうか!『クロネ』はニートなんかじゃない。いじめられて学校に行けなくなった学生だ。学校に行きたいという勇気があっても、またいじめられるかもしれないという恐怖に負けて外に出られなかった。その時に、たまたま俺の記事を見つけた。そして俺に助けを求めた」
俺は思わず立ち上がった。疑問が解消されてとても気持ちいい気分だった。しかし、それでも俺の心の中にトゲが刺さっていた。
「どうにかして『クロネ』を助けてやりたいな・・・・」
俺のユーザーネームの元である『ナイチンゲール』その人みたいに、俺も何かできないものかと考えた。
―キーンコーンカーンコーン―
学校中に昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
「まだ飯、食ってなかったのに....」
俺は手帳を鞄にしまって屋上を後にした。
空腹の胃袋が保つことを祈りながら俺は教室に向かった。
リア友って絶対いらないと思うのだが? 荒神 辰 @tatsu0928
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