第9話 千辛万苦

 50代になると出向という役目が迫ってきた。大組織から小組織への変化は人間関係の面でも違ってくる。大企業ではチームワークが中心であるが、小さい会社は総べて個人のパワーに頼る以外に道はない。千辛万苦でいろいろな難儀に出逢う。他の会社の人とのコミュニケーションを行わなければならないし、私の場合には得意との合弁会社だったので、、気を使うことも多く。クリエーティブの部下5人の育成を任されたのであった。今までの経験でどうにか、こなすことができた。パソコンのMACを覚えたことは、後の仕事に役立った。本社ではやれないことも多く学んだ。営業の飛び込みなども経験したが、リタイア後には遣らなければならない仕事で合って良い体験をした。フリーであったなら、必ず、行わなければ仕事がこないので、飛び込みは行わなければならないこともある。支社とは違って出向は、全く、違う会社へ行くのであるからそれなりの苦労が伴う。出社時間も印刷工場と隣接しているために8時半はじまりであり、遅刻は許されないのである。営業とクリエーティブの管理職以外はすべてが得意の所属なので、気苦労は多かった。

 永い会社勤めの中ではいろいろなこともあるが、スタートで躓いてしまった彼女には同情するのである。良いことも悪いことも思い出となるが、そのことを経験出来なかった彼女はD社に入った意味があまりなかったように思えるのである。

返ってD社に入らなかった方が幸せだったかもしれない。

 私も何人かの後輩を会社に紹介したが、全て入社試験で落ちてしまった。どういう人がどんな理由により入社できないのか疑問を感じた。まさか最難関の中での入社した彼女が不幸を招いてしまった悲劇が起こるとは想像もしなかったのである。

 人間の幸福なんて解らないものだし、会社側もどういう基準で選んでいるのか

元社員の私でさえ理解できない。選ぶ基準をもっと、明確にして入社希望者に伝えることが必要であろう。現在のゲーム時代には勉強だけ遣っていればいいという時代ではなく。かえって、ニューメディアの誕生によって、ファミコンボーイの方が企業にとっては必要なのではないのか。勉強だけのエリートでは企業が望む新しいツールができる人材や英会話の現地並みの帰国子女の方が必要なのかもしれない。旧態然とした入社試験でいいのか。もう一度検討してみることも大切であろう。

 人は悩んで大きくなると言われるが出向や転勤はサラリーマンの宿命のようなモノであって、当たり前のことであり、苦難な時代になったものである。転勤も国内からアジアなどの海外が多くなって、子供の教育など困難な時代に突入した。本人や家族にとったは苦労の多い時期であり、泣けてくる時もあろう。

 私もこれらの経験で65歳まで勤められたが最後はシニア・アソシエイト(嘱託)として、再入社できた幸運があったのは、厭がらずの転勤や出向を行ってきた賜物であった。D社の仕事はすべてに渡って楽しかったということであった。

 実際に現場の仕事と会社の縦組織とは違っている矛盾を内在しているD社は

難しさをかかえた企業であり、何時かは破綻するのではないかという不安は当時からあったのが実情である。クライアントを担当する若い実働部隊の力がなければプレゼンにも勝てない。管理職というものは昔から残業のチック機関であって、アカウントも持たないで行っていたのに、今度のような事件が起こる運命が内在していたことは否めない。

 私は43年間、その中にいたが、スポーツでいうプレイングマネージャーであるのであって、サッカーでもそうだが、司令塔がしっかりしないと試合には勝てないのである。むしろ、監督よりも司令塔の方が重要かもしれない。D社に頼むならば、このような強力なチームに頼めばいいのであって、個人個人の力のバラツキはあるのは確かではあるが、私も現場人間として43年間現場にいたので、身近な仕事に関しては良く理解できる。100社以上の広報を担当したので、言わせて貰えば、強力なチームに頼むことが勝利への道である。

 支社などから本社を視ると、良く欠点が見える。合理化され過ぎた本社では個人のパワーは発揮しにくい。支社や出向などの小組織の方が仕事としても遣り甲斐があり、個人の力が直ぐに出る職場であるのだ。

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