第7話 千山万水

 私は40代後半にアジア太平洋博覧会のために福岡支社へ単身赴任した。当時は単身赴任手当もなく。全て自腹で航空券なども買っていた。

 外務省や博報堂は、既に、手当があり、D社だけは取り残されたように手当も付いていなかったのが現実だった。私は仕方なく同期の組合の幹部に実情を言って付けて貰うように頼んだ。それから暫くしてから付くようになったが、私の会社に残した制度改革だった。3年半の最後のころに付くようになったが、有難かった。世界一の広告屋なのに、単身手当もなく。アンバランスな企業であることは当時からだった。古い体質の残る体育会系の企業であり、営業のみが出世街道を走るチグハグな企業だった。

 最初は、東京に家族を残しての単身赴任だったが、土日には九州の遺跡巡りなどを行って気分晴らしをしていた。金印が見つかったという志賀島はじめ日本の誕生には欠かせない遺跡群の宝庫だった。韓国にも近く大陸からいろいろの文化の伝来があり、日本に影響を及ぼした弥生時代のスタートは九州の博多などからはじまったといっても、嘘ではなかろう。吉野ケ里をはじめ小さな村落が存在する遺跡へも実際訪れたが、自然崇高の大和以前の時代の神社へもいったが、明日香のように鳥居から拝む山は原始的であり、日本の原点が造られたのは九州だったのだと言っても言い過ぎないだろう。軽自動車スバルのレックスコンビでの旅は1人旅で寂しさもあったが、静かな生活の中での自然への帰り道は癒しとなって、本社での苛立ちはなかうなってきていた。馴れれば極楽であり、玄界灘で育った魚は格別だった。

 千山万水、日本の自然は素晴らしいが、舐めると水害や地震となって人間に襲い掛かってくるモンスターでもある。雨脚は本州の比ではなく。まるで滝のような集中豪雨であって、5メートル先が見えない状態であるが、熱帯のように直ぐにやんでしまう。

 博覧会の作業は残業なしでは考えられない作業ではあるが、また、政府は大阪万博などの提案を行うらしいが厳しい「かとく」とは矛盾している。反論すらできないし、社長が法廷に立たされる。書類送検される。基準がはっきりしないD

社への処分は多くの企業に衝撃を与えている。

 五輪や博覧会のような日限が決まっている作業は残業は付き物である。残業しないと決められた日時にパビリオンや競技場などが完成しないし、人件費が多くかかって、割の合わない作業なのである。

 現在のソフトバンクの球場はアジア太平洋博覧会の跡地であり、この博覧会の開催で恩恵を被ったか計り知れない。25年前の単身赴任が少しでも生きれば幸いである。「博ちょん」も寂しいし、つらい時もあったが、全体としては楽しく

モモチという地域の発展があったことは事実である。

 博覧会でのやまや明太子館は好評であって、映像は世界ではじめての3D映像であった。赤と緑の違ったメガネをかけての鑑賞ではあるが、宮沢賢治原作の『注文の多い料理店』のレストランでの食べ物が実際に目の前に出されると臨場感があり、観客が歓声を上げるくらい驚嘆の境地になったことは成功だった。後にオーディア・ビデオ賞の特別賞まで頂き。私の作品群の1つとなった。だが、博覧会というものは収支がトントンで上々なのである。それだけ多くの人たちの労働によって成り立っていることも忘れないで欲しい。

 観客は楽しいエンタテイメントの豊富なパビリオンが揃ったせかいで、広告代理業としては大きな作業なのである。総合力が要求され、自分を磨くいいチャンスなのだ。私もカナダバンクーバー交通博覧会やディズニー・ワールドなどを見学研修したが、貴重な体験だった。人間の巾を広げる意味でも博覧会はスケールの大きな仕事なのだ。それにしても新入社員時代で自殺した高橋まつりさんはスタートでつまずいてしまってお気の毒だったと私も感じる。若き日の悩みは30代40代の肥やしにはなるが、それを乗り越えないと光が見えてこない厳しさの世界であって、人は悩んで大きくなるということもあるが、仕事のために、一度の命を絶ったという現実を忘れてはならない。他人には分からない想像を越えた現実があったことを忘れてはならない。当事者しか解らない大きな悩みが深かったのであろう。

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