焼そばパンは大人の味カナ

保育園のお昼は近くのパン工場から仕入れてくる配給制のもので、お弁当はなかった。

パンはたくさんの種類があり、みんな自分の好きなパンが欲しくて目を輝かせていた。

奪い合いにならないように、毎日、列ごとに取りに行かせていた。

一番人気は焼そばパン。二番人気はメロンパン。他にもあんパンやウグイスパンがあったが、毎日違う種類が並んでいたので、あまり覚えていない。

私は自分の列の番になると真っ先に駆け出したが、どうしても男の子や力の強い女の子には勝てず、二番人気のメロンパンに甘んじていた。

しかし、ある日。たまたま調子が良かった日に焼そばパンを手に入れられた。

とても嬉しかった。

焼そばパンはとても美味しい。だってお肉が入っているから。

手を合わせて「いただきます」と音頭を取る。

そこで、私は重要な事に気が付いた。

美味しい美味しい焼そばパン。

しかし、私は紅しょうがが大嫌いだ。

ピリッと舌に残る痛みに、甘酸っぱい後味。

残すことが許されないお昼の時間。

折角、手に入れた焼そばパンが、こんなに苦痛になるものなんて思わなかった。

私は紅しょうがの部分を一気に口に詰め込んで牛乳で流し込んだ。

幸い、他の子には気付かれなかった。

美味しいのに美味しく感じられず、飲み込んだのに舌に残るピリピリした痛みに涙した。

無理をしてはいけない。

人気のものが、自分も好きになるとは限らないと、はじめて知った。



次からは私は幼馴染みと一緒にメロンパンを取るようになった。

これが一番美味しく食べられると分かったから。

焼そばパンは、私にとって大人の味だった。

いつか、焼そばパンを美味しく食べられる大人になりたいなぁと小さな“私”は思った。







いまだに紅しょうがを美味しく食べられていないけど、食べ物を美味しく食べられることが素晴らしいことだと知っているから、私は今日もメロンパンを食べる。


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