“私物語”
神月
悲しいカナ
小さい頃、保育園で自画像を描くことになった。
私が通う保育園は私立で、色々な事を学ぶ時間があった。
私は絵が描くのが好きで、他の子よりも早く描くことができた。
顔の輪郭、髪形、眼の形。
先生はたくさん誉めてくれて、私は鼻高々だ。
後は鼻を描けば終わりだ。
私はサラッと描き上げた。
これでクラス1番だ! とわくわくしながら先生に見せに言ったら、こう言われた。
「あなたの鼻はこんな形をしてないわ。よく鏡を見て描き直しなさい」
私は驚いた。
鼻の形に違いがあるのかと。
既に絵具で塗ってしまったのに、どう描き直せば良いのか分からないでいると、隣に座っていた幼馴染みが濡れたティッシュで、トントンと拭ってくれた。
「これで大丈夫だよ」
私はとても嬉しくなった。
そして、そこからが地獄の始まりだ。
何度、描き直しても、先生は首を縦に振ってくれない。
何度も、何度も、描き直すが、先生は「変だ」としか言ってくれなかった。
そして、自画像の時間は、私ともう一人の子以外、全員描き終わってしまっている。
私は焦った。
何がダメなのか分からない。
見ながら描いても「おかしい」「変だ」としか言われない。
私は思った。
「きっと、私は人の顔が分からないんだ! だって、人はみんな同じ顔で、目で、口で、鼻にしか見えないもん。みんなには分かる一ミリの差なんて分からないよ!」
私は泣いて先生に訴えた。
「これ以上は描けない」「分からない」「破って捨てたい」
何度も書き直した画用紙は、鼻の部分が黒染み汚い絵になってしまった。
先生は渋々、私の絵を終わりにしてくれた。
完成したみんなの作品を見ても、私には違いが分からなかった。
みんな、同じような鼻なのに、どうして私の鼻だけはダメだったんだろう。
私は、絵を描くのが好きではなくなった。
描いても「変だ」と言われるのが怖くて、汚い落書きだけを書いていった。
今、その自画像は私の部屋にある。
大人になった私が見ても、どこが変なのか分からない。
的確なアドバイスをしなかった先生が言った「変」という言葉は、もしかしたらお絵描きの時間いっぱいを使って真剣に絵を描いてほしいと言う授業方針だったのかもしれない。
しかし、先生の言葉の「変」は確実に私の心を抉り、私から“絵を描く楽しさ”を奪ったことには変わりない。
小さな子だからこそ、曖昧な言葉ではなく的確な濁すことのない純粋な言葉で伝えてほしかった。
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