Twitter300字ss 天狗の花

 天狗の花は値千金の霊薬、花弁の油は千変万化の幻を見せ、茎や葉を煎じればあらゆる病を退ける。根は若返りさえ叶えるとか。

 死に瀕する母のため、柳は天狗の花を求めた。霧に惑い鴉に遮られ、妖らに囃され、ようようたどり着いた花畑は、星の野と見紛うばかりの光景であった。


「花を望むか」


 天狗の長が囁いた。彼の手にある扇が山の風をかき混ぜ、山裾に追い立てるたび、おろしが唸る。


「ただし、天狗の花を服んだ者は、人の定めを離れる」


 それも辛かろうな。低い声は闇そのもの。


「苦しまずに眠らせる茸もあるぞ」


 耳を塞ぎ、人里へ駆け戻る。病み衰えた母が柳を見て笑んだ。


 さて、この手にあるのは花か茸か。

 選べよ、柳。姿なき天狗が哄笑する。



(300文字)


「Twitter300字ss」企画参加作品/お題「薬」

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