今世の距離は、15cm。

高橋 レン

第1話 ベルリン前夜

ベルリンはいつも雨だ。

そんな事を思いながらベルリンのテレビ塔に入るとテロ対策として、写真を撮らなければいけないと係員に指示され、中央に寄るため僕と藍は近づいた。あの距離が…


会社の勤続年数10年ということで3日の休みをもらえたので、土日を合わせて五連休にして、ベルリン一人旅を企画した。英語も話せない34歳のおじさんのヨーロッパ初旅行だ。

現地在住者が案内人を代行してくれるというサイトを見つけ、言葉に自信がない僕は一日だけ観光案内を依頼した。

出発日前夜、荷物やチケットを整理していたら彼女が家に来た。今日はウチに泊まっていくという。そう、喧嘩の続きをしに来たのだ。

『なんで、六月の終わりなんて休みも取れない、お金も無いって時期に行くのよ?』と一か月前からずっと怒ってる。彼女と僕は同じ会社で僕は営業部、彼女は経理部に所属している。ボーナスが7月である事、経理部は六月末は第一四半期の株主へのレポート作成で忙しい事、どちらも当然僕はわかっていた。

それでも『仕事の事情知らなかったし、僕がリーダーのプロジェクトが7月から始まるから、こっちも6月末しか休み取れない』と言い張り続けていた。僕は一人旅への憧れと、彼女と行く買い物三昧の海外旅行に飽き飽きしており、初ヨーロッパは一人で行くと決めていた。

結局この彼女との一か月近い交渉戦は、ボーナス後の夏休みにフランスに一緒に行く約束で機嫌は直してもらった。高級カバンも買うという要らないセットも付いてしまったが…

彼女は不満気ながらも『今年だけだからね』と言い、眠りについた。来年お互い35才という事で二人の結婚の話があり、それが約束を既にされている物だと思っているらしい。それは最期の自由とも言われてる気がしたので、『うん。』という返事はしなかった。

僕たちはまだ結婚の約束まではしていないのだ。あくまで僕の認識では。

昔から結婚という単語はあまり僕のカラダに馴染んでいない。

男は一人旅に憧れる者、そうでなければ『男はつらいよ』が48作品も続くわけないであろう、明日からおれがフーテンの寅さんだと気持ちが最高潮に昂ぶっており、心地の良い興奮と不安の中、僕は寝ることができなかった。

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