第23話 w:
わたしは震える手を止めることができなかった。いままで、自分が他人に与える影響など考えたこともなかった。あんなことになるだなんて、想像すらしたこともなかったのだ。
無自覚が他人を傷付けて、こうしてわたしを蝕んでいく。腐食した心は醜く爛れて、死滅して、失われていく。
もう、わたしは以前のわたしではいられない。周りの人たちは、わたしとは関係のないことだから、早く忘れろと言う。でも、それは違う。むしろ、あれはわたしが生み出したものだ。世に放ったものだ。
わたしはまったく理解していなかった。
いや、理解している人などいないことはわかっている。わたしは、自分が理解していないことを、わかっていなかったのだ。己の無知を知ってしまったいま、わたしは戻れない。もう、気安く笑う世界には戻れないだろう。
世界はくだらなくて、周りはみんな馬鹿ばっかりで、わたしは違うと思っていた。でも、なんのことはない。わたしもただの世界の一部だった。
あの人が生きていて本当によかった。もし、そうでなかったら、わたしはとても自分を保てなかっただろう。でも、もうあの人の顔を見ることはできない。直視できない。心臓が激しく脈打ち、呼吸が苦しくなる。
わたしたちは、もう終わりだ。
掌からすべてが溢れ落ちても、わたしはやっていけるだろうか。
足元に散らばったものを、泣きながら拾い集めたりしないだろうか。
わたしが、何かに縋らなくてはいけないだなんて、嘘だと言って欲しい。
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