第13話 m:
部屋では腕時計を外してほしい。帰る時間を常に気にしているような、そんな風に見えるから。時間になれば帰るのだと、宣言されているように感じるから。
理由を話したことはないけれども、頼むといつも不思議そうな顔をされる。でも、それだけは譲れなかった。
わたしはいつも変なことに傷つけられる。誰も想像しない、自分だって想像しないようなことに傷つけられる。
「なんで知ってたの?」
「アカウントのIDにさ、o8o3ってあったから、誕生日じゃないかなと思って。獅子座だって言ってたからね」
可愛いらしくラッピングされた小さな箱をもらった。
たぶん、普通は喜ぶところなのだと思う。でも、わたしは、傷ついていた。なんでなのかは、自分にもわからない。
すごく苛つく。わたしに。
「ありがと。びっくりしちゃったよ。でも、他の人にはやらない方がいいかもよ」
あぁ、もう止めておかないと。きっとこれ以上はいらないことを口にしてしまう。
「んっ? なんで?」
ほら、怪訝そうな顔をさせてしまった。そんな顔をしてもらいたいんじゃない。
「だって、ちょっと怖いもん。そんなこと推測されてるなんて」
早く切り上げないと。もう止めないと。
「まぁね。僕だって距離感は考慮に入れるよ」
言葉のどこかに、不快さが少しだけ滲みはじめる。そういう匂いがしてくる。やってしまった。
「ならいいけど……」
こんなことを口にしていないで、もっと大げさに喜んでおくべきだった。もう、白々しくて、いまさら態度も変えられない。
あぁ、早く今日が終わればいいのに。どうしてこうも上手くいかないのだろう。苛立ちが募る。わたしは、わたしを適切にコントロールできていない。こんな日はすべてを投げ出したくなる。笑顔もぎこちなくなってしまうなら、いっそやめてしまいたい。
いや、そんな気分屋が許されるのは猫だけ。だから、わたしは笑顔を続ける。
そして、おくびにもださない。この身の内側を。
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