第11話 k:
『大丈夫。元気にやってる』
嘘。大丈夫でも元気でもない。
『うん。仕事も順調だってば』
嘘。何ひとつ順調なんかじゃない。
『うん。うん。あぁ、いや、ごめんね。今年は帰れないの』
嘘。帰りたくないだけ。
『違うけど、仕事が立て込んでて』
嘘。仕事を増やしているのは自分だ。
『そうじゃなくて、部署が変わっていろいろ勝手が違うから、まぁ、ちょっと大変な時なの』
これは本当。勝手がわからなくてまいっている。
『うん。そう。えっ? んー、年末はまだわからない』
これも本当。先のことなどわかりはしない。
『いや、だから、その話はやめてよ。そんな気はないから』
これは……どうだろう。わからない。
『母さんの言うことはわかるけど、これはわたしの人生なの。わたしが決めることよ』
そう。決めたのはわたし。
『……』
後悔もわたしのせい。
『……ごめん。そんな言い方するべきじゃなかった』
これは狡い言い方だ。
『うん。うん。でも、わたしもいろいろ……あるから』
言わずにわかってもらおうなんて都合がよすぎる。
『ごめん、もう切るね。これから人に会う約束があるの』
嘘。誰にも会いたくなんかない。
『うん、じゃあ。また連絡するから』
たぶん、しない。
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