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「何か良い案浮かんだ?」
「んーまぁ無難なとこ行くなら鬼の顔だろ。こんな感じの」
作業場に常備してある紙とペンを取るとサラサラと想像した鬼のパンを描いていく。
「わー、さすが兄さん。かわいい」
「ざっとこんなもんか」
描き上がったのは二本のマーブル角のついた四角い顔の鬼。目元はチョコレートのつぶらな瞳。それから口元もチョコで牙を二本。
「絵本から出て来たみたいな鬼だね、かわいい」
「もしこれにするなら、生地はどーする?」
「んんーそうだね…この鬼は可愛いから…」
秋が俺の描いた鬼を見ていくつかの案を出してきた。
ときのパン屋での俺たちの役割はしっかりと分かれている。俺はパンのデザイン、および仕上げ。秋は生地と具材。二人が揃って初めてときのパン屋のパンが出来上がる。
「節分だし、どこかに豆要素も入れたいんだけど…」
「豆をそのまま入れるか? それとも砕いて練り込むか? それなら…」
「いや、鬼のモチーフは大事にしたいし、子供にも食べてもらいやすい味になるとすると…」
二人してあーでもない、こーでもない、それならこうして、だったらああして…俺達二人の鬼のパン創作は夜通し続き、試行錯誤して試作品を作り上げた時、気づけば窓の外はうっすらと白み始めていた。
「え、もうこんな時間?」
「ふあぁ、もうそんな時間か」
そんな時間なのだと意識すると途端に眠くなってくる。
一つあくびをすると、向かいあった秋も大きな口を開けた。
「ふあぁ。んー!」
そんな光景に口元が自然に緩む。
「ん、何笑ってるの」
「いんや、なにも」
そう言いながら、視線を逸らして出来上がった試作品に視線を落とす。
ツヤツヤと光るそれは、宝石のように輝いていた。我ながらいい出来だ。
節分 = 鬼。王道でいて、それで新しい、そんなパンが出来た。
「ねぇ、兄さん。ちょっと外出て見ない?」
昨夜から降っていた雪が止み、シンと静まり返っている外へと秋が扉を開けた。とたん、ひんやりとした風が頬を撫でる。作業場は熱気がこもっていたので、それだけでもなんだかスッキリする。
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