第6話
私は彼女と言葉を交わすのが楽しかった。
なんてことのない雲みたいな会話ですらも、私が青に染められるように感じられ嬉しかった。
あまり深い話はしないけれど、その時の私には十分だった。
雲は、人の細胞のように生まれてはすぐに死んでいく。そんな連鎖の中で、とりとめのない私と彼女の会話は、深い藍色へと変わっていった。
本当に唐突だった。
彼女は顔に決心を浮かべ、改めて私に向き直った。
「雲ってもっと気楽で優しいものだと思ってた。でも、本当は寂しいものだったんだね。」
どう足掻いても空の余白でしかない雲は、千切られ、揉み消されて、いつ消えてしまうかわからないという不安に駆られて生きている。
姿も保てず、誰かの心にも留まることを許されない雲。
きっと雲にしかわからない。
彼女は、雲を眺める理由を私に尋ねた時と同じ顔をしていた。
誰かの思い出となることを許されていない私たち。
「私は昔、雲になりたかった。」
私は、初めて自分の気持ちを誰かに洩らした。
「小さい頃の私は、人との関わりを持つことが苦手だったんだ。誰かの心に留まることが怖かった。」
私の肩には誰かの想いなんて重すぎて、乗せられないものだと想っていた。
「そんな時は空を見上げた。神様にすら気付いて貰えない雲が、もう二度と会うことのない青の隙間を縫って進んでいく姿が私には眩しかった。」
もう何遍も何遍も見た雲のはずなのに、未だに久しぶりといえる雲と出会わない。もし前にも見た雲と再会したとしても、私と雲は前に会ったことを憶えてはいない。
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