第5話

次の日もまた次の日も、空は喉を鳴らし続けた。神様が空の機嫌をうかがうこともあったけれど、散り散りになった雲は、この教室にも隠れていた。


それからも私と彼女は幾度か窓の外を見ることはあったが、お互いに触れあおうとはしなかった。

雨の中、私と彼女はあの一言以外に話すことはなく。私が神様から与えられた青ももとの白へと戻っていった。


雲がなだねられて、雲が花に潰されそうな矢先のことだった。


さっぱりとした青が満開に咲く空を見上げた彼女は、唐突にこちらに向き直りこう尋ねた。


「あなたはなんで雲を見ているの。」


前とは違うはっきりとした声だった。

はっきりとしていて朗らかな音が、なぜだかあきらめをはらませて、私に問うた。

私は、彼女の纏う雲が私のものと同じだと気づいた。


「雲が私と似ているから。」


私の想いは淡白すぎて、彼女に伝わるのかはわからない。だけど、心の中でぬくぬく育った感情は、私の声にまとわりついた。

彼女が何か気づいた顔をして、


「よくわかる。」


と、ここにいる私と彼女にしか伝わらない言葉、ここにいても伝わらないかもしれない言葉を放った。


私はあるいは彼女も、この空が幅を利かせる教室の中で、同じちっぽけな雲の出会いに希望を見たのかもしれない。

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