第3話

雲は流れた。

いつも通りにゆったりと、神様が青に塗るまでの間。


桜の花に合う白い背景が、薄く灰色に汚されて泣いている頃、窓に映る自分の顔がふと横を向いた。そこには、泣いている雲を目に映らせて溜息をつく彼女がいた。


ガラスの後ろの灰色が彼女と私の目を合わせた。

私は初めて人の顔を見た。もしかすると始めてなのかもしれないが。親の顔もあまりみない私が初めてと感じたのだから、きっとこれが最初なんだ。


彼女も驚いてはいたが、意識がチャイムに引き戻されるまで、雲と私を交互に見ていた。


彼女の顔には見覚えがあった。

入学してすぐに私に声をかけてくれた、前の席の彼女だった。

偶然なのか、必然なのか。神様の気まぐれなのかもしれない。単にペンキがこぼれただけかもしれないけれど、雲の欠片を青に染めるには充分だった。


私にとって、神様が初めて私を青に塗ってくれたということに変わりはなかった。

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