第82話 冒険者16

 レンは静かに瞳を閉じた。

 微かにベヒモスの息遣いだけが聞こえてくる。その静寂に、レンとベヒモス以外は誰もいないかのような錯覚さえ覚えた。

 そんな時間の中で、レンは自らの行動を思い返し後悔していた。思えば随分と身勝手なことを言っている。

 ベヒモスのこともあの二人が悪わけではない。冒険者ギルドが決めたことであって二人には関係のないことだ。

 レンはフルフェイスのスリッドに表示された時刻を見て再び瞳を閉じた。

二人が戻るには時間が掛かる。もし、日暮れまでに戻らなければ指輪の通話機能で戻るように呼びかけるつもりであった。


「レン様、エイプリルとセプテバが戻りました」


 ニュクスの声にレンは瞼を開いた。音などは何も聞こえなかったと言うのに、目の前ではエイプリルとセプテバが跪いている。

 レンが二人に任務を与えてから三十分も経っていない。自分で命令したことだが、それが無茶なことであると今では自覚している。

 その無茶を短時間で終えたとなれば二人も相当な無理をしたはずだ。それを思いレンは胸が苦しくなる。

 二人を目の当たりにしてレンの口からは自然と言葉が溢れていた。それは、レンの本心であり心からの謝罪であった。

 謝って許されようと思ったわけではない。ただ、口に出さずにはいられなかったのだ。


『私が至らぬせいでお前たちは随分と迷惑をかけた。許して欲しい』


 レンが頭を下げるのを見て、その場にいた全員が慌てふためいた。

 特に頭を下げられたエイプリルとセプテバは訳が分からず困惑する。

 本来、謝るべきは自分たちである。にも関わらず、主が頭を下げるなど信じられないといった面持ちだ。


「頭をお上げください!レン様が謝ることなど一つもございません!」

「エイプリルの言う通り、謝るべきは我らの方でございます。我らの配慮が足りず、レン様をご不快にさせたのですから……」


 セプテバはレンを不快にさせた自分を恥じ、その悔しさで言葉が上手く出てこない。最後は消え入りそうな声で言葉を絞り出していた。

 レンは静かに首を横に振る。


『お前たちが悪いわけではない。それなのに私は辛く当たってしまった』

「レン様のお怒りは当然でございます。私たちが事前に対処していれば、レン様がご不快になることもございませんでした」

「至らぬのは我らの方でございます。本当に申し訳ございません」

『……そうか。ではお互い様ということだな』


 レンとしては釈然としないが二人の言葉に甘えることにした。

 これ以上どちらが悪いか口論しても二人が折れないことは目に見えているからだ。

 レンはこれで話を打ち切りたかったが、ニュクスがそうはさせてくれない。まるで小石を蹴り飛ばすようにニュクスの足が二人の体を吹き飛ばした。

 二人は食堂の壁に叩きつけられ、壁が積み木のように崩れ落ちる。

 咄嗟のことにレンは身動き一つ取れずにいた。

 そして、ニュクスの怒声が倒れ込む二人に襲い掛かる。


「不快にさせたですって?そればかりかレン様に頭を下げさせるとは臣下に有るまじき行為!恥を知れ!!」

「レン様、この二人には罰を与えるべきです。このような失態を犯すなど許すわけにはまいりません」


 いつの間にか、レンの傍ではヘスティアが佇んでおり罰を与えるべきと進言する。

 ニュクスとヘスティア、二人の意見は見事なまでに一致していた。

 二人の怒気に当てられベヒモスは可愛そうなほど震え上がっている。メイはベヒモスを撫でて少しでも落ち着かせようと必死だ。


『まて!二人に非はない!お前たちは下がれ!』


 レンは二人を呼び止め、倒れるエイプリルとセプテバに歩み寄る。

 二人とも怪我はなく意識もはっきりしていた。それは、ニュクスが怪我をしない程度に加減をしていたためである。

 配下同士の争いは禁止されているいため、それを配慮してのことであった。

 ニュクスからしてみれば軽くデコピンをする程度の感覚であり、争いのうちには入らない――はずであった。

 だが、そんな感覚がレンに分かるはずもない。傍から見れば致命傷の一撃にしか見えないのだから。


『ニュクス、お前が私のことを考えて行動していることは知っている。だが、力で全てを解決しようとするな。ましてや二人は私の配下なのだぞ?』

「私はそのようなつもりでは……」


 レンに諭すように言われニュクスはがっくりと肩を落とす。

 ニュクスからしてみれば二人に軽くお灸を据えたつもりであった。言うなれば妹や弟を叱る姉のような感じだろうか。

 それを裏付けるように意外なところから助け舟が出た。


「レン様お待ちください。ニュクス様は我らが怪我をなさらぬように手加減をしておりました。ニュクス様の叱責も我らを思ってのことでございます」 


 セプテバの言葉にエイプリルも同意するように頷いている。

 俄かに信じがたいが、それならば二人が怪我をしていないことも納得できる。疑ってばかりでは配下を信じていないのと同じである。それに、二人が嘘をつくなど考えられなかった。そのためレンは素直にその言葉を受け入れた。


『ニュクスなりに二人を思っての行動だったのだな。勘違いをしてすまなかった』

「レン様が謝る必要はございません。私が誤解を生むような行動を取ったのがいけないのですから」


 誤解も晴れたことでニュクスは僅かに笑みを見せた。

 だが、助けられたからといって考えが変わったわけではない。当然のように罰を与えるべきと進言する。


「レン様、先程の私の行動は二人にとって罰にはなりません。二人には改めて罰を与えるべきかと思います」

「私もニュクスの意見に賛成です。どのような理由があるにせよ、レン様を不快にさせ、あまつさえ頭を下げさせたのです。罰は必要かと思われます」

「私からもお願いします。どうか罰をお与えください」

「私からも是非」


 ニュクスとヘスティアに話を蒸し返されレンは溜息を漏らしたくなる。

 しかも、エイプリルとセプテバまで罰を与えろと言っている。

 まいったな、レンは内心舌打ちをした。罰など与えたくないがエイプリルとセプテバの真剣な眼差しを受けて、そうはいかないだろうと頭を悩ませる。


『そうだな。お前たち二人は冒険者ギルドと連絡を密に取れ。災害指定の魔物や魔獣が現れたら、その対処をしろ。それを、お前たちへの罰とする。話して分かる相手はなるべく殺すな。害を及ぼす魔物や魔獣のみ討伐を許す』

「それは罰なのでしょうか?」

『私は罰だと言ったはずだぞ』

「畏まりました。謹んで罰をお受けいたします」


 エイプリルの言葉にレンが即答すると二人は揃って頭を下げた。

 罰にもならない罰に二人の気持ちはすっきりしない。だが、それもレンの優しさであると知っているため素直に受け入れていた。


『ニュクス、ヘスティア、これでよいな』

「レン様がお決めになったことは絶対でございます」

「異論ございません」

『では、罰の話はこれで終わりだ。ベヒモスの件はどうなっている?』

「はっ!グランドマスターから登録許可証をいただいてまいりました。これを受付に見せれば手続きを行えるとのことです」


 エイプリルは恭しく羊皮紙を差し出した。

 それを手に取りレンは内心首を傾げる。羊皮紙を広げて見れば確かにグランドマスターと記載され、その下に名前が記されている。


『グランドマスターとは何だ?偉い人物だと言うのはなんとなく分かるが初耳だな』

「冒険者ギルドの最高責任者でございます」

『それをグランドマスターと言うのか。いずれは会いたいものだな』

「レン様がよろしければ今すぐにでもお連れいたします」

『いや、今はまだやめておこう。一介の冒険者が会うのは不自然すぎる』


 一介の冒険者、その言葉にエイプリルはどうしたものかと悩んでいた。

 エイプリルは以前から気になっていたことがある。レンが首から下げている認識票を見ては、それを問うか悩んでいた。

 叱られたばかりで不安であったが、今はまたとない機会である。エイプリルは覚悟を決めて口を開いた。


「レン様、一つお尋ねしたいことがございます」

『何だ。申してみよ』

「レン様にはSSSランクの認識票をお渡ししていると思うのですが――その、ご使用なされていないのは何か不備があったからでしょうか?」


 レンは言葉を詰まらせる。

 我が儘で使用していないだけであり不備がある訳ではない。しかし、そのまま伝えたのでは角が立つ。

 レンは丸く収まるように慎重に言葉を選びながら返答した。


『不備がある訳ではない。あれはエイプリルからの大切な贈り物だからな。大事にしまってある』

「ですが、あれは使用してこそ価値がございます。それに、見窄らしい認識票はレン様に相応しくないかと……」


 エイプリルの視線はレンの下げている認識票を捉えていた。

 その視線に釣られるように、ニュクスやヘスティアも覗き込む。


「私も以前から気になっていたのよね。この薄汚い金属は何なのかしら?」

「冒険者はこんなものを身に付けなくてはならないの?」

『これは冒険者のランクを表すものだ。今の私は最低ランクだからな』


 最低ランクと聞いてニュクスとヘスティアが顔を顰める。二人は何か言いたげにエイプリルとセプテバを睨みつけた。

 不穏な空気にすかさずレンが割って入る。二人に罪を着せる訳にも行かず、レンは仕方なく本音を漏らすことにした。


『エイプリルから最高ランクの認識票を貰っている。私の我が儘で使用していないだけだ。私は冒険者というものを一から始めたいのだ』


 レンはエイプリルに向き直り頭を撫でてやる。


『だが、折角の贈り物だ。今度から持ち運ぶとしよう。何か問題が起きた時には使わせてもらうからな』

「は、はい。是非そうしてください」


 エイプリルは嬉しそうに瞳を細めた。

 その光景をニュクスとヘスティアが羨ましそうに眺めている。

 気が付けば二人とも撫でてくださいと言わんばかりに頭を摺り寄せていた。しかし、レンは見て見ぬ振りをする。


『さて、ベヒモスの登録もしなくてはならないな』


 歩き出すレンを見て二人はがっくりと肩を落として拗ねていた。

 レンも二人に悪いと思っている。しかし、いつも特別扱いしていては調子に乗りかねない。そのため心を鬼にして二人のおねだりを拒絶したのだ。

 レンはベヒモスのもとに歩み寄りそっと体に触れる。ベヒモスは震えも収まり落ち着きを取り戻していた。


『メイ、ベヒモスと一緒に冒険者ギルドに行くぞ』

「はいなの」


 メイの元気な声と共に、レンの姿とベヒモスの巨体が食堂から消えた。

 後に残されたニュクスとヘスティアは、じと目でエイプリルを見つめる。


「レン様に頭を撫でられるなんて羨ましい」

「良かったわねエイプリル」


 エイプリルは二人に返す言葉が見当たらない。

 レンに撫でられた場所に触れ、僅かに表情を綻ばせることしかできなかった。




 悲鳴と怒号が響き渡る。

 冒険者ギルドの前に現れたベヒモスに人々が泣き叫んだ。

 一度はいなくなり安心したのも束の間、時を置かずして再び現れたベヒモスに人々が逃げ惑っていた。

 突然の騒ぎにレンは深い溜息を漏らす。

 あれほど安全だと言ったにも関わらず冒険者や兵士まで騒いでいるのだから溜息も出るというものだ。

 逃げ惑いベヒモスから人が離れていく中、アンジェがレンに歩みよりベヒモスを指差した。


「レン!これがベヒモスって本当なの?」

『言いたいことは分かるがとりあえず落ち着け』


 レンは血相を変えているアンジェを落ち着かせようとしたのだが、それは逆効果であった。アンジェは更に目くじらを立てて怒り出す。

 

「落ち着けるわけ無いでしょ!何を考えているのよ!」


 騒がしいことこの上ない。レンはアンジェを黙らせる意味を込めて、エイプリルから受け取った羊皮紙を広げて見せた。


『この通りグランドマスターの許可も取ってある』

「グ、グランドマスターですって?」


 アンジェは羊皮紙を覗き込むが、これが本物かどうかは判断できない。

 訝しげな視線をレンに向けていた。


『メイ、ベヒモスを見ててくれ』

「分かったの。ベヒちゃんと待ってるの」


 レンはアンジェの横を通り抜け冒険者ギルドに入っていった。

 信用していないのか、その後ろをアンジェが追いかけ様子を窺っている。

 ギルド内に入ったレンは真っ先に先程の受付嬢を目指した。カウンターの奥では、また来たのかと言わんばかりに受付嬢が顔を顰めていた。

 ベヒモスが再び現れても逃げない胆力は褒める他ない。この世界の受付嬢はある意味冒険者より強いのかもしれない。

 レンが目の前で立ち止まると開口一番断りの言葉を告げられた。


「先程も申し上げた通りベヒモスは登録できません」

『許可を貰ってきた』

「許可?でございますか?」


 受付嬢は差し出された羊皮紙を見て目を丸くする。

 それが信じられないのか隣の受付嬢にも見せて確認をとっていた。「嘘でしょ」「本物かしら」そんな話し声が耳に入ってくる。

 判断がつかなかったのだろう。隣の受付嬢が席を立ち二階へと走り去っていった。

 レンの目の前に座る受付嬢は営業スマイルを見せながら話しかけてくる。


「ギルドマスターを呼んできます。少々お待ちください」


 その言葉を聞いてレンは筋骨隆々の大男を思い浮かべていた。

 ギルドマスターと言うからには元冒険者の大男と相場は決まっている。

 暫くすると階段を降りる足音が聞こえてきた。最初に現れたのは隣の受付嬢である。

 レンはどんな人物が出てくるのかと期待に胸を膨らませたが、以外にも降りてきたのは小柄な老人であった。

 もしや魔術師!と思いステータスを確認するも、軒並み低くとても魔術師には見えない。

 どうやらギルドマスターが強いとは限らないようだ。どう見ても事務方の老人である。

 レンの期待外れであったが、この際それは置いておくことにした。今は何よりもベヒモスの登録が優先される。

 仕事さえしてくれれば、相手が老人であろうが大男であろうが問題はなかった。


 老人はレンを一瞥すると直ぐに羊皮紙に目を通した。

 筆跡を確認してから血判を確かめている。老人は自ら持ってきた羊皮紙を広げ、血判を何度も見返していた。

 どうやら血判の指紋を照らし合わせてグランドマスターのものか確認をしているようだ。

 老人は溜息を漏らして羊皮紙をしまい込む。レンを再度見てから受付嬢に視線を移した。


「グランドマスターからのご指示だ。ベヒモスの登録を行うように」

「えっ?」


 受付嬢がきょとんとする中、老人は用が済んだとばかりに二階へと消えていった。

 受付嬢だけではない、アンジェもまた信じられないと驚愕の表情を浮かべている。


『何をしている。早く登録を済ませてくれ』

「え、あ、はい、先ほど記入された用紙がございますので記入は不要です。少々お待ちください」


 レンが佇んで待っているとアンジェが興味深そうに訪ねてきた。


「レンはグランドマスターと知り合いなの?」

『私が直接知っているわけではない。私の知り合いに懇意にしている者がいるだけだ』

「ふ~ん、知り合いねぇ。簡単にグランドマスターに会える知り合いって誰よ?」

『悪いが私的な友人を言うつもりはない。それよりも、アンジェは誰ともチームを組まないのか?』

「誘いはあるけど体目当ての男が殆ど、そういうのは視線でなんとなく分かるのよ」


 アンジェは眉間に皺を寄せて項垂れている。

 外見は美しく若い女性だ。冒険者になってから言い寄る男も多かったであろう。

 尤もアンジェに言い寄った男の末路は何となく想像がつく。大方殴り飛ばして黙らせたに違いない。

 だが、このまま一人で冒険者をするのは余りに危険である。アンジェが冒険者になった一端はレンにもあるため放ってはおけなかった。


『アンジェ、よければ私のチームに入らないか?』

「レンのチームに?まぁ、メイちゃんもいるしレン一人じゃ大変よね。でも……」


 アンジェは外に視線を移す。そして、ベヒモスを見て露骨に嫌そうな顔をしてみせた。

 その態度からベヒモスがいなければ、そう言っているのが手に取るように伝わってくる。


『ベヒモスのことを気に病んでいるようだが、アンジェに危害を加えることはない。メイもあの通り普通に触れている』


 レンの視線の先ではメイがベヒモスを体毛に埋もれて感触を楽しんでいた。

 確かに危険はないようだが、それでもアンジェは完全に信じることができない。

 何せ相手は国を滅ぼす災害指定の魔獣である。アンジェの対応は正常であってレンやメイがおかしいのだ。


「レン様、お待たせしました。こちらが魔獣登録用の認識票になります」


 アンジェが悩んでる間にベヒモスの登録は終わり、新たな認識票が受付嬢から手渡された。


「この認識票は持ち主の冒険者ランクに応じて使用される金属が変わります。ランクが変わったら、その都度こちらも更新してください」

『分かった。世話になったな』


 魔獣登録用の認識票にはレンの名前とベヒモスの名前が刻まれていた。

 こうして形になるとベヒモスが従っているという実感が沸いてくる。

 レンはその認識票がよく見えるようにアンジェの目の前に持ってきた。


『この通りベヒモスの登録も終わった。アンジェも一度ベヒモスに触れてみるが良い。そうすれば少しはメイの気持ちを理解できるだろう』

「メイちゃんの気持ち?」

『ああ、メイがベヒモスに好意を抱いているのが分かるはずだ』


 外に出ると全員逃げ出した後でレンたち以外は人っ子一人いなかった。

 アンジェはレンに促されるままベヒモスの傍にやってくる。

 だが、途中で足を止めてしまう。一定以上の距離を保ち、それ以上は近づこうとしない。

 一先ずレンはベヒモスにアンジェを紹介することにした。ベヒモスも知らない人に触れられるのは嫌かも知れない。ベヒモスにもアンジェを受け入れてもらう必要があると考えたのだ。

 レンはベヒモスの顔の傍までアンジェを引っ張っていく。

 「え、ちょっと待って!」アンジェは抵抗するが、がっしりと手を掴まれては逃げることができない。

 為す術なく顔の傍まで引きずられていた。


『ベヒモス、この女性はアンジェだ。今後私たちと行動を共にするから仲良くするように』


 レンの言葉にベヒモスは頷きアンジェと視線を合わせる。

 ベヒモスなりの挨拶だろうか、アンジェに首元を近づけて体を摺り寄せてきた。

 初めは驚きと恐怖で顔を引き攣らせていたアンジェだが、そのふかふかな触り心地にいつしか自分からベヒモスに触れていた。

 ベヒモスから敵意などは感じられずアンジェの成すがままになっている。


「何これ、凄く気持ちいい。それに、獣臭いかと思ったら嫌な臭いもしないのね」

「こうするともっと気持ちいいの」


 メイはベヒモスのお腹に飛び込んで体中で感触を楽しんでいた。

 その光景をみてアンジェも同じように真似をする。全身を包み込む柔らかい感触に大はしゃぎしながら、ちらりとレンの方に視線を移した。

 少し照れくさそうに顔を赤くして何かを言おうと口を何度か開閉している。暫くすると決心がついたのか、やっと言葉が聞こえてきた。


「し、仕方ないわね。レンのチームに入ってあげるわ」

『今後は同じチームの仲間だ。よろしく頼む』


 レンはアンジェに近づき手を差し出した。アンジェはそれを横目で見て握手を交わす。

 顔はベヒモスに埋もれたままの素っ気ない態度だが、これもアンジェらしいと思えば不快感はなかった。

 レンは苦笑いを浮かべながら、その態度を微笑ましく受け止めていた。

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