第65話 冒険者1
国家樹立から三日が経った。
式典ではドレイク王国、ノイスバイン帝国、サウザント王国との同盟も結ばれ、有事の際には協力してこれに当たると条約が締結された。
また、今回の国家樹立の式典に向けて馬車が通れるように簡易的に街道を整備していたが、正式に街道を整備する話もなされた。
何せ街道を整備したといっても所詮は簡易的なもの、
竜王国としても他国との交易を盛んにするためにも街道の整備は急務であった。
式典後の二日間は各国の王と
他国の問題としてはやはり魔物の被害が大きく、特にドレイク王国とノイスバイン帝国の東の森は問題視されていた。
ウェンザー山脈の北はその殆どが深い森で覆われ、多種多様な魔物たちが
そして、過剰に繁殖した魔物が時折森から溢れ出ることがあったのだ。
幸いなことに森の外側には凶悪な魔物は少なく、それ程大きな被害にいたっていないのだが、こちらから森に入り魔物を討伐できないのが現状だ。
何せノイスバイン帝国が以前森を開拓しようとして手痛い目にあっている。そのため、ドレイク王国やノイスバイン帝国は何もせず現状維持を保つことに専念していた。
サウザント王国の南にも広大な森が広がっていたが、こちらは魔物の被害は殆どなく、それ程大きな問題にはなっていなかった。
元々近くの凶悪な魔物はサンドラが遥か昔に駆逐していたため、森に居るのは繁殖力が高く弱い魔物が殆ど、そのため兵士や街の自警団により直ぐに討伐されていた。
しかも、森の中で暮らす
気になることがあるとすれば、東の荒野で新たに見つかった地下遺跡で行方不明になる冒険者が多発していることくらいだ。
戻らない冒険者が多いことから遺跡には魔物が巣食っているとも言われているが、まだ見ぬ財宝を求め遺跡に入る冒険者は後を絶たなかった。
その他様々な各国の問題の擦り合せを終えると、城に留まっていた各国の王や貴族たちはオーガストに見送られ自国へと旅立っていった。
そして、三日間の謹慎処分を受けていた三人も久し振りにレンの寝室に顔を見せた。
三人はレンの姿を確認すると満面の笑みを見せて抱きついてきた。レンに会えなかった時間を取り戻すかのように何度も体を摺り寄せてくる。
笑顔で出迎えようと心に決めていたレンだが、余りの勢いに思わず笑顔が引き攣っていた。
『お、お前たち、久し振りに会えて嬉しいのは分かるが反省はしたのだろうな』
「当然でございます。深く反省しとても落ち込みました。ですので慰めてはいただけないでしょうか?」
「それは名案ね」
「私たちの心の傷を癒せるのはレン様だけですもの」
『な、慰めるだと?』
「その通りです、やはり傷を癒すと言ったらお風呂ではないでしょうか?」
「みんなでお風呂なんて素敵ですね」
「レン様のお体は私たちが隅々まで洗い流しますわ」
『ちょ、ちょっと待て!勝手に話を進めるな!それに会議室に皆を集めている、風呂に入っている場合ではない』
「ではお風呂は会議の後にいたしましょう」
「それは非常に残念です」
「何かお話があるのですね」
『そう言うことだ。それとニュクス、会議の後でも一緒に風呂には入らんからな』
その言葉に三人は一様に不満そうな顔を見せるも、レンに従い大人しく会議室へと足を運んだ。
会議室の前では昨日まで慌ただしく動き回っていたメイドたちは姿を潜め、いまは閑散として静寂の時間だけが流れている。
昨日までの慌ただしかった日々が嘘のようである。
会議室に入るとレンたち四人以外は既に席に着いており、レンの到着を首を長くして待っていた。
レンの姿を見ると全員椅子から立ち上がり一礼する。これも見慣れた光景であった。
最初は
『すまない遅くなったな。みな席に座ってくれ』
レンが席に着くのを確認してから皆が座る。
レンは周囲を見渡し全員席に着いていることを確認すると、数日に渡り忙しく動き回っていた配下に労いの言葉を口にした。
『皆、式典にその後の会談などご苦労であった。これからも大変だろうが頼りにしている。
「労いの言葉をいただけるとは恐悦至極にございます。今は人材も足りておりますのでご安心ください。急務となっている街道整備にはオクトを使いますが、なにぶん距離がありますので石畳の街道を作るとなりますと数ヶ月は掛かるかと思われます」
『それは仕方ないだろうな。焦らずともよい、丈夫で長持ちする街道を作ることに専念せよ』
「畏まりました。それとドレイク王国とノイスバイン帝国の東に位置する森から時折魔物が溢れ出るという事なのですが、それに対し
『分かった、オーガストに任せる。だが、
「既に両国共に許可を得ておりますのでご安心ください」
『手回しがいいな、流石オーガストだ』
「滅相もございません。これもひとえにレン様のご威光があればこそでございます」
そう言いながらオーガストは歓喜で表情を緩ませた。
会議が終わったら余韻に浸りながらベッドで一人楽しもう、そんなことを考えて更に表情が歪んでいた。
それに気付いた数人が呆れて溜息を漏らしているとも知らずに……
レンはご威光と言われても全く身に覚えがなかったが、ドレイク王国にはレンのことは知られている。
ヒューリと協力して話を上手く進めたのだろうと勝手に納得していた。
『他に何かあるか?』
「私からは以上でございます」
オーガストの言葉にレンは他の配下を見渡すも声は上がらない。
それを確認するとレンは自分のやりたいことを告げるため口を開いた。
『では私から一つ。私は冒険者に興味があってな、これからは冒険者として活動しようと思っている』
レンの言葉を聞いてみな驚愕の表情を浮かべた。
当然、レンが冒険者をすることなど許すはずもなく、真っ先にカオスが反対の声を上げる。
「レン様、冒険者など危険でございます。御身に万が一のことがあってはなりません」
『それは、私が特訓をして竜王の力を使いこなせるようになってからでも駄目なのか?』
「当然でございます。それにレン様には膨大な時間がございます。特訓などしなくとも
カオスの言葉にレンも少し納得していた。
確かに竜王としての力を生身の人間の体で受けきれるものではない。無理に力を扱えるようになっても体は耐えられないだろう。
カオスの言うことは正論であるためレンは言い返すことはできなかった。
だが、反対されるのはレン自身も分かっていたこと、そのためもう一つのやりたい事を提案する。
『では、魔法学校に行きたいのだがそれなばよいであろう?以前から魔法にも興味があってな、是非魔法を使ってみたいのだ』
「レン様、魔法学校など行かずともグラゼル様より授かったお力が体に馴染めば幾らでも魔法は使用できます。今すぐ魔法を使いたいのであれば我々に命じて下されば幾らでもご覧にいれます。どうかご自重ください」
レンは俯き苦笑いを浮かべた。
ですよねぇ~。
断られることは知ってたよ。
だってお前ら異常なくらい過保護だもん。
やっぱり許すはずないよな……
予想通りの答えとはいえ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます